原田喧太、父に名優を持つミュージシャンの葛藤「俳優をやるのは勇気が必要だった」

ミュージシャンの原田喧太(52)が映画「さすらいのボンボンキャンディ」(10月29日公開、監督サトウトシキ)で久々の映画出演を果たした。父に名優・原田芳雄(2011年7月死去、享年71歳)を持つ喧太の俳優業への思いとは?

約10年ぶりの俳優業となる原田喧太【写真:ENCOUNT編集部】
約10年ぶりの俳優業となる原田喧太【写真:ENCOUNT編集部】

「さすらいのボンボンキャンディ」で21年ぶりの映画出演

 ミュージシャンの原田喧太(52)が映画「さすらいのボンボンキャンディ」(10月29日公開、監督サトウトシキ)で久々の映画出演を果たした。父に名優・原田芳雄(2011年7月死去、享年71歳)を持つ喧太の俳優業への思いとは?(取材・文=平辻哲也)

 デーモン閣下、吉川晃司、及川光博、大黒摩季、桑名正博らさまざまアーティストと組み、自身のロックバンドやソロプロジェクトも行っている原田喧太。一時は映画やドラマ出演もこなしていたが、本格的な俳優業は約10年ぶりとなる。

 本作は、夫の海外出張中に街をさまよう生活を送る34歳の人妻・仁絵(影山祐子)と、電車の運転士をあきらめた48歳のマサル(原田喧太)の大人のラブストーリー。原田芳雄の遺作となった映画「大鹿村騒動記」(2011年)の延江浩氏の短編小説「7カラーズ」の1編が原作。出演は延江氏からの直々のラブコールだった。

「話をいただいたのはもう4年くらい前ですが、当時は忙しくて、 『スケジュール的に難しいですね』とお話をさせてもらったら、監督が『空くまで待ちます』といってくれ、結果、1年半以上待ってもらった。原作、脚本も読んだら、濡れ場が結構あったので、これは大変だ、どうしたもんかなと考えましたね」と振り返る。

 映画出演は東儀秀樹、奥菜恵と共演した「infinity 波の上の甲虫」(2001年)以来と久々だ。

「俳優はミュージシャンとは別次元の仕事。その大変さもよく知っています。やってみたいという願望もありつつも、足を踏み入れるまではものすごい勇気がいる場所だなと思っていました。若い頃とは本気度も違いますし、父が亡くなってから気づかされたこともいっぱいあって、生半可な気持ちではできない。素晴らしい俳優の仲間も多いので、吹越満さん、佐藤浩市さん、江口洋介さんに相談したことも後押しになりました」

 演じたのは、運転士の夢を諦めた電車の車掌マサル。若い頃からバイク乗りで、今も仲間内で唯一乗り続けている。家庭持ちで、仁絵に対しては優しさもズルさも見せる。特に、登場シーンは父・原田芳雄を忍ばせ、印象深い。

「自分でも親父に似てきたという瞬間がありますね。役作りは台本を読んで、考えましたが、主演の影山さんの熱量に後押しされた部分が大きかった。バイクの免許は持っていなかったので、教習所に通って取ったのですが、明らかに年下の教官の方から怒られながら……(笑)。それでも、免許を取らないと、映画の撮影が延びてしまうと思って、一生懸命やりましたよ」。

 ピンク四天王の一人、サトウ監督の作品らしく、濃厚な濡れ場にも初挑戦。

「前バリの付け方すら知らなかったです。監督の演出はほとんどなくて、見ていて『もう1回やろうか』とか『ここはこうしよう』という感じ。濡れ場で、大事なセリフを言わなければいけなかったので、ここは結構悩みました」

 映画では音楽も担当。「音楽もやらせてもらったので、僕が最初に映像を見たんじゃないのかな。正直、そんなに音はいらないかなという印象だったのですが、監督から指定された部分が結構あったんで、『好きなように使ってください』と曲を渡しました。エンディングテーマは尺が決まっていたので、一番苦労しました。エンディングまでストーリーになっています」と本職の出来栄えには自信も見せる。

父としての顔も覗かせた原田喧太【写真:ENCOUNT編集部】
父としての顔も覗かせた原田喧太【写真:ENCOUNT編集部】

自身は10代の頃「若さと勢いにまかせて、めちゃくちゃやっていました」

 マサルは10代の頃はヤンチャだったという設定だが、原田自身はどうだったのか。

「若さと勢いにまかせて、めちゃくちゃやっていました。16歳の時に家を出て、プロとして仕事もやっていたんで、父と腹を割って話すこともなかったですね。父と向き合うようになったのは、30ぐらいかな」。

 映画はコロナ禍前の19年に撮影。諸事情で公開が延期され、3年越しの公開になった。コロナ禍では活動休止を余儀なくされ、苦しい時期も長かった。

「せっかく免許も取ったので、バイクを買おうと思った矢先にコロナ禍になってしまった。1年間は無職状態。そんなお金があったら、生活費に回しなさいという状態でした。コロナ禍ではライブハウスが悪者にされてしまったので、そうじゃないんだ、楽しい場所なんだと伝えたくて、感染対策もやりながら、ピアニストと2人でツアーをやったけれども、なかなかお客さんは来なかった。大変なことがいっぱいありましたが、家族との時間ができたのはよかったかな。それまではツアーばかりで、家にはいられなかったので」

 その長男・原田琥之佑(こうすけ=12)は映画「サバカン SABAKAN」(8月公開)のメインキャストで俳優デビュー。娘(25)も大手芸能事務所に所属している。

「監督やスタッフには気に入ってもらったのですが、息子は最初、嫌がっていたんです。まだ小学6年生で、そこで人生が全部決まってしまうんじゃないかという恐怖心もあったみたいです。いろいろ話し合って、『夏休みの良い体験として、やっておくのはいいんじゃないか』と言いました。帰ってきたら、『またやりたい』と言っています。娘が中3の時にサックスやギターをプレゼントしたんですが、ミュージシャンよりも役者になりたいみたいで、今、必死に頑張っています。子供とはベタベタな関係で、自分の時とは全然違いますね」とパパの顔も覗かせる。

 ガッツリ演技に取り組んだ本作はターニングポイントになった。

「50越えた後で、節目になる作品になりました。今後はミュージシャンも役者も両方をやっていけるといい。原田喧太という人間をもっと面白がってやっていけたらと思っています。とても良い経験させていただいたので、次に反映させていきたい。ミュージシャンとしてはライブもやりながら、新しいアルバムも作っています。いずれはバイクも買いたいんですよね」と話す。狙っているバイクはヤマハ・ドラッグスター400、アメリカンスタイルの人気車。原田喧太は50代も走り抜けていく。

□原田喧太(はらだ・けんた)1970年3月3日生まれ。15歳でプロのギタリストとして活動開始。ソロ活動のかたわら、吉川晃司、及川光博、山下久美子、ピンク・レディー、デーモン閣下、大黒摩季、黒夢、江口洋介ら多数のアーティストのライブとレコーディングに参加。映画出演作に「CAT’S EYE」(1997年/林海象監督)、「THE CODE 暗号」(2009年/林海象監督)、「infinity 波の上の甲虫」(2001年/高橋巖監督)などがある。

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