ブルーノ・マーズが愛される理由 年代も音楽ジャンルも超えた「ジャンルレス」な魅力

4年半ぶりとなる来日公演を行っている米人気歌手のブルーノ・マーズ。2010年のデビュー以来、グラミー賞を15回獲得するなど世界的な人気を誇っている。今回の来日公演もVIP SS席12万8000円という高額チケットを含め、あっという間に完売した。美声はもちろん、ギター・ピアノ・ドラムなどさまざまな楽器パフォーマンスに加え、シンプルながら機敏でしなやかなダンスも披露するブルーノ。しかし彼の魅力は歌唱力やテクニックだけではない。ブルーノ最大の魅力・武器は、“ジャンルレス”であることだ。

ブルーノ・マーズ【写真:Getty Images】
ブルーノ・マーズ【写真:Getty Images】

王道からロック、レゲエまで―楽曲から見るブルーノの多様な音楽性

 4年半ぶりとなる来日公演を行っている米人気歌手のブルーノ・マーズ。2010年のデビュー以来、グラミー賞を15回獲得するなど世界的な人気を誇っている。今回の来日公演もVIP SS席12万8000円という高額チケットを含め、あっという間に完売した。美声はもちろん、ギター・ピアノ・ドラムなどさまざまな楽器パフォーマンスに加え、シンプルながら機敏でしなやかなダンスも披露するブルーノ。しかし彼の魅力は歌唱力やテクニックだけではない。ブルーノ最大の魅力・武器は、“ジャンルレス”であることだ。(文=コティマム)

 R&Bやソウルにカテゴライズされるブルーノだが、楽曲の系統にはかなり幅がある。例えばデビューアルバム「Doo-Wops & Hooligans」。大ヒット曲「just the way you are」はポップス調で心地よいメロディーの王道ソングで、日本でもCMに起用され、EXILEのATSUSHIが日本語カバーしている。こうした「分かりやすい曲」があったかと思えば、同じ作品の中にロック、レゲエ、バラード、そしてジェイソン・ムラーズのようなアコースティックでオーガニックなサウンドが散りばめられている。(実はベーシックなテイストの「just~」も、50セントやGユニットといったヒップホップを手がけるプロデューサー・ニードルズが担当)。この時のライナーノーツでブルーノは、「自分を何かのジャンル……型にハメることがすごく苦手」と語っている。

 その言葉通り、続く2nd「UNORTHODOX JUKEBOX」も10曲それぞれブルースやポップロック、バラード、1980年代風ロックと幅広い。ヒット曲「LOCKED OUT OF HEAVEN」は、マイケル・ジャクソンの「Beat It」やイギリスのロックバンド・ポリスの「Message In A Bottle」が好きな人なら“刺さる”1曲だ。この2作だけでもジャンルの広さに驚かされるが、さらなる衝撃は3rd「24K MAGIC」だ。

 3rdはかなりブラック・コンテンポラリーに寄せている。ブルーノはこのときのオフィシャルインタビューで、「『映画を作るんだ』って自分に思い込ませて作った」「もっと狭い環境で僕にできることの全てをやる」と、世界観やジャンルをあえてブラックに絞って制作したと語っている。しかし、これまでのようにレゲエやディスコ、バラードなどジャンルにとらわれないことこそが「僕のパーソナリティー」としている。

 この3rdも1曲目「24K MAGIC」の冒頭から、ファンクグループ「ザップ」のロジャー・トラウトマンや80~90年代を代表する音楽サウンド「ニュー・ジャック・スウィング」を確立したテディ・ライリーを彷彿(ほうふつ)とさせる。ロジャーもテディも「トーク・ボックス」というエフェクターを使用し、声を機械的な楽器のような音に作り替えるのが特徴だ。この「24K MAGIC」はまさに、トーク・ボックスを用いた声から始まる。またニュー・ジャック・スウィング節は同作の「Finesse」にも色濃く表れているし、マイケルの「Baby Be Mine」が好きな人なら「Chunky」もハマるだろう。とにかくブラック色が強い1枚で、90年代R&Bが好きな人は3rdに魅了されているはずだ。

 また3rd発売前の2014年にマーク・ロンソンと共同プロデュースしたマークの楽曲「Uptown Funk」(といっても、全編ブルーノが歌っているが)は、まさにジェイムス・ブラウンのような雰囲気。しかしサウンドは王道ファンクというよりは、ファンクから派生した1970~80年代の「ミネアポリスサウンド」だ(代表格はプリンス)。ノリのいい同曲は日本でも自動車のCMに起用され、耳にしたことがある人も多いだろう。

「シルク・ソニック」で見せる60~70年代世界観――コアな洋楽ファンも魅了

 ジャンルレスの極めつけは、2021年にアンダーソン・パークと結成した「シルク・ソニック」だ。耳にした瞬間、1960~70年代のフィラデルフィア・ソウル、つまりデルフォニックスやスタイリスティックスを思い起こさせる。ここが2022年であることを忘れるほどの、メロウでクラシックな雰囲気。アルバム冒頭のイントロでは、ファンクの巨匠・ブーツィー・コリンズがシルク・ソニックを紹介する声が入っており、コアな洋楽ファンの心も掴む。楽曲はファンクバンドのキャメオやクール・アンド・ザ・ギャング、アース・ウィンド・アンド・ファイアーが織り交ぜられたようなグルーヴ感満載だ。

 時代も音楽ジャンルもすべて網羅してひとつになったような、さまざまな音楽要素を取り込んで、オリジナルが形作られているアーティスト。それがブルーノ・マーズだ。4作通して、王道からコアなジャンルまでどのファン層にも“刺さる”。彼の場合は特定のジャンルが得意というわけではなく、全ジャンルが主戦場なのだ。楽曲を聞いているだけで、時代をタイムトラベルしている気持ちになる。ある世代にとっては「懐かしい」と感じるし、逆に若い世代はフィラデルフィアソウルやファンクを「新しい」と思うかもしれない。

「マイケルっぽい」「プリンスっぽい」。この「ぽい」は決して、まねをしているわけではない。「ぽい」のに、オリジナルなのだ。この「ぽい」が、さまざまな音楽ファンを最初に掴むのだろう。ロック好きな人が彼の楽曲を聞いて90年代R&Bを好きになるかもしれないし、逆にファンク好きな人がポップスの魅力に気づくかもしれない。彼を通して「こんな音楽ジャンルがあるんだ」と知ることができる。もはや彼自身が「ブルーノ・マーズ」という音楽カテゴリーだ。

 彼がなぜこんなにさまざまな音楽ジャンルを取り込んでいるのか。それには幼少期からのバックグラウンドや、プロデュースチーム「ザ・スミージントンズ」としての裏方時代の活動が大きく関係しているのだろう。

□ブルーノ・マーズ(本名ピーター・ジーン・ヘルナンデス)1985年10月8日生まれ。37歳。ハワイ出身。ラテン・パーカッショニストの父、シンガーの母、ドラマーの兄、ギタリストのおじという音楽一家に生まれ、幼少期から父の率いるステージに立つ。高校卒業後にLAに渡り、プロデュースチーム「ザ・スミージントンズ」を結成。多くの大物アーティストの楽曲を手がけヒットを連発する。2010年に「Doo-Wops & Hooligans」でデビュー。デビューから3年の間に「just the way you are」「LOCKED OUT OF HEAVEN」など5曲が全米1位を獲得。22年までに15回のグラミー賞を受賞している。

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