平野レミから受け継がれた「牛トマ」レシピ 和田明日香「ベロつながり。家族の絆です」
料理愛好家の平野レミ、料理家、食育インストラクターの和田明日香が「第9回料理レシピ本大賞in Japan 2022」で初の母娘ダブル受賞を果たした。平野は著書「おいしい子育て」(ポプラ社)でエッセイ賞を獲得。平野の次男・率の妻の和田明日香は自著「10年かかって地味ごはん。」(主婦の友社)が料理部門に入賞した。ENCOUNTのインタビューで、「あーちゃん」、「おかあさん」と互いを呼び合い、コントのような掛け合いを見せた2人。スキンシップならぬ、重ねた“ベロシップ”で良好な関係を築いているようだ。上・下に渡るインタビュー。初回は“ベロ”を通した家族の絆、子育て法などについて聞く。
「料理レシピ本大賞」で初の母娘ダブル受賞 二人に聞いた家族の絆、子育て法
料理愛好家の平野レミ、料理家、食育インストラクターの和田明日香が「第9回料理レシピ本大賞in Japan 2022」で初の母娘ダブル受賞を果たした。平野は著書「おいしい子育て」(ポプラ社)でエッセイ賞を獲得。平野の次男・率の妻の和田明日香は自著「10年かかって地味ごはん。」(主婦の友社)が料理部門に入賞した。ENCOUNTのインタビューで、「あーちゃん」、「おかあさん」と互いを呼び合い、コントのような掛け合いを見せた2人。スキンシップならぬ、重ねた“ベロシップ”で良好な関係を築いているようだ。上・下に渡るインタビュー。初回は“ベロ”を通した家族の絆、子育て法などについて聞く。(取材・構成=西村綾乃)
優れたレシピ本を選考する「料理レシピ本大賞」。平野は、2人の息子(長男で、トライセラトップスのボーカル&ギターの和田唱と、次男の率)の子ども時代のこと、育児や仕事への向き合い方などを、夫の和田誠のイラストとともにまとめた「おいしい子育て」がエッセイ賞に、和田は「見た目は茶色くても、しみじみおいしいレシピ」を詰め込んだ「10年かかって地味ごはん。」が料理部門入賞に輝いた。母娘の受賞は初の快挙だ。
――レミさんがお母さまから受け継がれた「牛トマ」のレシピは、レミさんの代表作でもあります。明日香さんのレシピ本では「和田家の牛トマ嫁アレンジ」として登場しています。明日香さんのお子さんたちも、すでに作られているとか?
平野「そうそう。孫たちも作っているの。ベロつながり。家族の絆です。ね」
和田「はい。そうなんですよ」
――「牛トマ」は、しゃぶしゃぶした牛肉と、湯むきしたトマトを炒めた、平野家に100年伝わるレシピです。母から娘へ受け継がれる中で、レミさんはサワークリームをかけたりバジルを使うなどアレンジを加えていました。明日香さんは和風に変化させていますね。
平野「そう。サワークリームを入れるとおいしいの。たまに玉ねぎを入れたりとかね」
和田「和田家は、みんな出汁が好きなので、ご飯に合うように和風にアレンジしました。あとは、野菜をたくさん摂れるように工夫していますね。基本は牛トマですけど」
平野「うん。で、(上野)樹里ちゃんの方(長男の和田唱と結婚)はね、セロリの葉っぱを入れるんですって。普通は茎の方だけども、香りが出るからって。みんな好きなようにアレンジして、良いですよね」
――息子さんたちは作られないのですか?
和田「作ってます、作ってます。うちの夫(和田率)は、サーフィンをするのですが、千葉の九十九里にあるお家に行った時に、人に料理を振る舞うってなると、絶対牛トマを作っていますね。間違いなくおいしく作れるからって」
平野「ちょっとサワークリームを入れると、ボルシチ風になるしね。おいしいんですよ。それでね、パスタに乗っけたり、パンに乗せてブルスケッタ風にしたり。ご飯に乗っけてたりもね。あれは何にでも合うのよね」
――明日香さんは書籍「10年かかって地味ごはん。」の中で、肉じゃがについて牛肉を使っているという記述がありましたね。平野家との違いはほかにもありましたか?
和田「うちの母は関西なので、肉じゃがは牛肉で作っていました。私が作るものは基本的に母が育ててくれた味覚なので、何を作っても母が作ってくれたものが私の中で大きな正解としてあるんです。『母の煮物の味はどんなだったかな? 卵焼きはどんなだったかな』と思いながら作っているので。なのでいま、レミさんにいろいろご飯を食べていただいているものは、少なからず私の母親のエッセンスもいきていると思います」
平野「おいしいんですよ。おいしいの。上手」
和田「うちは、出し巻がすごく大きいんですよ。卵を6~7個使って、めちゃくちゃでかい。ぶるんぶるんのを作るんですけど、おかあさん(レミさんのこと)はそれを見てこの間、『何個分の卵を使っているんだ?』って、とても驚いていました」
平野「だって、そうよ。めちゃくちゃでっかいの。3日か4日か前に行ったときにもさ、1、2、3、4、5……9種類。出てきたのお料理が」
和田「あぁ、おかずの数ですね(笑)」
テーブルが見えなくなるくらいの“おかずの数”和田「よく食べるんで。みんな」
――レミさんもテーブルが見えなくなるくらい、おかずを作ったって本に書いていましたよね。
平野「そうそうそう。私もね、テーブルの景色が見えなくなるくらい(皿を置く場所がないくらい)いっぱい作ってたの。私がね、和田さんのためにご飯をいっぱい作っていたでしょう。そうすると、『こんなにいっぱい!? これで1人分ですか?』ってマネジャーが驚いていたの。でも和田さんは全部食べてくれるからどんどん食べさせちゃって」
――でもレミさんのレシピは野菜が多めだから。
平野「そう。野菜が多めだから良いんですよね。あーちゃんもたくさん作るよね。テーブルの景色が見えなくなるくらいいっぱい作って」
和田「よく食べるんで。みんな」
――お2人の書籍では、食卓を囲むときのルールなども書かれていましたね。明日香さんは、「食事の時にはテレビを消す。レミさんは食事を作っているときの姿を息子さんたちに見せること。宿題なども自室ではなく、ダイニングテーブルでさせる」と記されていたことが印象的でした。
平野「だって、全部完成品だけを『はい。できたわよ。食べて』って言うんじゃさ、私が踏んできたプロセス全部が分からないじゃない。ごぼうを洗ったりさ、トントントントン刻む音とか、ジージー炒める音とか。それを全部見せないで、完成品だけを見せるんじゃもったいないと思ったのね。息子たちには料理ができ上がるまでのプロセスを見せたいと思って、ダイニングで宿題をさせていたんです。だからいまね、息子たちがちゃんと料理を作るっていうのは、ビックリしたけど、私のプロセスをちゃんと見ていたからですよ」
――レミさん自身も、お母さまの背中を見て教わった部分があったのでしょうか。
平野「そうです。もちろん。もちろん」
――明日香さんはいかがでしたか?
和田「うちはとにかく、実家でご飯を食べるときは、父も母も一緒に座って、ふたりがビールとかワインとかを飲みながら、その日の仕事の話をしたりとかしているのを、子どもながらにずっと見ていたので、そういう部分に憧れていました。大人の世界って、仕事をもって、そこに自分の世界があって。外で仕事をして帰ってきたら、パパとママ同士で話しているっていうのが、すごく居心地が良くて。話には入れてもらえなくても、なんか大人って楽しそうだなって、見て育ったので。だからうちは、晩ご飯の時間が長かったんですよ。ずっとダラダラしゃべりながら、お酒飲みながら食べるので。だから私も同じように、その日あったことを家族とペチャクチャしゃべりながら過ごすことこそが食卓だと思っています。もちろん夫とおかあさん、子どもたちのためにご飯を作っていますけど、自分が食べたいものを『あぁ、おいしい』って言って食べながら、家族と話す時間が大切。だから、自分の子どもたちともそうしています」
平野「そう。だからね、私が呼ばれていくでしょう。そうするとね、3人の子どもたちがみんなしゃべるの」
和田「レミさんもね(笑)。3人とレミさんが同時に話すんです。だから私は、聖徳太子のように聞いています」
2人が考える「幸せな音」 平野「みんなでワイワイしゃべりながらの音です」
――私の実家も、「食事はお腹を満たすためだけのものではなく、同じ時間を、経験を共有するもの」と言われて育ったので、お2人の考え方はすてきだなと思います。
和田「うちはご飯が長かったんですけど、和田家は気短ばっかりなんで、お鍋するとき、この間思い出してまた笑っちゃったんですけど、最初から具が全部お鍋に入ってるんですよ。肉も魚も野菜も同時に入ってる。それを、サーッと食べて、『次は餅』って鍋にドバっと入れて、食べて『はい。ごちそうさま』って……。実家では鍋のときは、汁だけセットをして、食べる分だけを入れて、2時間でも3時間でもかけて、ゆっくり食べるんです。その違いは結構、カルチャーショックとしてありました」
――野菜を洗って、切ったり炒めたり。家族のために食事を作る音。キッチンにのぼる湯気や、食卓に響く家族の笑い声から、幸せを感じます。お2人が思う「幸せな音」はどんなものですか?
平野「やっぱりご飯食べながら、みんなでワイワイしゃべりながらの音ですよね。静かじゃなくて、みんなでその日あったことをめいめいがしゃべりながら、『これ、おいしいね』とか言いながら過ごす。その時間が幸せなのね。その音が良いの」
和田「私もそうですね。同じです。うちは両親が共働きだったので、子どものときは1人で留守番したり。弟と2人だけでご飯を食べるとか、少なからずさみしい思いをするときもあったので。今はおかあさんや、子どもたちがワーワーうるさくするんですけど」
平野「すみませんね」
和田「夫に話があるのに、話が一向に終わらないとかあるんですけど、でも家に帰って来るとそういうみんなの声がして、ご飯の音がするいまは幸せだと思いますね」
平野「あーちゃんがね、偉いの。一人一人子どもが言ってくることをうるさがらないで、『なぁに?』って聞いてあげるの。良いお母さんなのよ。ちょっと、ぶっきら棒で態度でかそうでしょう。でもそうじゃないの。子どもにはちゃんと寄り添って、一人一人の言葉を聞いているの。良いお母さんやっているんですよ」
嫁いだ当時は、レタスとキャベツの違いも分からず、ほとんど料理ができなかったという和田だが、いまでは鯛のアラから出汁を取るなど平野も驚くほどに成長。和田は「地味で名もなきおかずだけど、家族への愛が詰まっている」料理を繰り返し作る日常に感謝している。インタビュー後編では、“やさ”しい気持ちになれるからと、こだわる野菜を使ったレシピ。失敗談などについて聞く。
□平野レミ(ひらの・れみ)料理愛好家・シャンソン歌手。家庭料理を作ってきた経験を生かし、“シェフ料理”ではなく、“シュフ料理”をモットーに、テレビ、雑誌などを通じて数々のアイデア料理を発信。特産物を用いた料理で全国の町おこしなどにも参加し好評を得ている。レミパンなどのキッチングッズの開発も行う。
□和田明日香(わだ・あすか)東京都出身。料理愛好家・平野レミの次男と結婚後、修業を重ね、食育インストラクターの資格を取得。各メディアでのオリジナルレシピ紹介、企業へのレシピ提供、全国各地での講演会など、料理家、食育インストラクターとして活動している。2018年に「ベストマザー賞」、21年に「第14回ペアレンティングアワード文化人部門」を受賞。3児の母でもある。