社内託児所、働くママ・パパに聞いたメリット 「ゆっくりと母乳」「娘たちと一緒に歌って来社」
働きやすい環境づくりで、育児と仕事を両立する従業員が助かる福利厚生の1つが、「社内託児所」だ。2011年に本社内に設置した家庭用品メーカー「アーネスト株式会社」(新潟県三条市)は、キッチン用品や洗濯・掃除グッズなど女性ならではの視点や発想を商品開発に生かしており、ママさん社員にとって安心感が増し、仕事にメリハリが付くことで、「お母さんパワーが強くなった」という。実際の利用者である“働くママ・パパ”のリアルな声を聞いた。
「初めてアレルゲンのある食べ物を食べさせた時」のサポートも 2011年に導入した新潟の家庭用品メーカー「アーネスト株式会社」
働きやすい環境づくりで、育児と仕事を両立する従業員が助かる福利厚生の1つが、「社内託児所」だ。2011年に本社内に設置した家庭用品メーカー「アーネスト株式会社」(新潟県三条市)は、キッチン用品や洗濯・掃除グッズなど女性ならではの視点や発想を商品開発に生かしており、ママさん社員にとって安心感が増し、仕事にメリハリが付くことで、「お母さんパワーが強くなった」という。実際の利用者である“働くママ・パパ”のリアルな声を聞いた。(取材・文=吉原知也)
新潟県内の卸売業で第1号となる事業所内託児所を設置した同社。1981年創業で従業員は約70人、女性は4割。職場環境向上のため、本社1階に53平方メートルの「ニコニコ ルー夢(む)」を開設した。基本は午前8時から午後6時まで、保育士を含めた4人が子どもたちの世話を担当。小学生になるまで預けることができる。平日は約5人の子どもが過ごしており、短期間の利用を含めてのべ30人を預かってきた。
営業部門でカタログ制作を担当する澤田理恵さん(38)は、長女と次女の育児で利用。現在6歳の長女が生後7か月から3歳まで、3歳の次女は生後8か月から現在まで預けている。
きっかけは、第1号の利用者だった先輩女性の姿を見てきたこと。「妊娠・出産を経験した先輩と一緒に働く中で、お子さんの様子について保育士の先生が直接伝えに来てくれて、残業が長引きそうな時でもこまめに連絡を取り合っていて。社内託児所は子育てのサポートになると思ったからです」と話す。
実際に子どもを預けると、通勤・退社で一緒に行き帰りができること、熱など体調不良になった時にその場ですぐに状況を確認できて病院にも自分で連れて行けることに大きなメリットを感じたという。「私の職場は2階にあるのですが、数分で託児所に行くことができます。次女の体調で何かあった場合は、先生がトントンと後ろから肩をたたいて声をかけてくださって。この距離感の近さは素晴らしいと思います」。それに、授乳ができるスペースも整っており、「時間になったら、ゆっくりと母乳をあげられることができ、助かりました」という。
長女を預けていた際は、こんな安心を感じたエピソードも。「初めてアレルゲンのある食べ物を食べさせた時です。長女にじんましんが出たのですぐに病院に連れて行くことができました。土日や平日の夜は対応できる病院が限られており、平日の昼間に私自身が立ち会えることができて、初めての経験の場面でサポートしていただきました。ありがたかったです」と実感を込める。
それに、同社は月1回、土曜日の出社日があり、託児所利用者がチームとして出勤している。澤田さんは長女も連れて来ており、「幼稚園が空いてない場合や手続きも大変なところもあるので、長女と次女を預けています。長女も慣れている場所なので、2人ともリラックスして過ごしていますよ」。姉妹はすっかりお気に入りの様子だ。
パパ利用者はどう感じているのか。ネットショッピング運営担当で広報を兼務する高橋俊介さん(41)は、過去に短期間利用した。1回目は家族に訪れた“ピンチ”の時だった。「双子の娘がいるのですが、1歳の時に、上の子が入院することになり妻がつきっきりになりました。約10日間、下の子の次女を預けました。両親と同居しているのですが、当時両親は働いており、日中は家にいなかったので世話をできる人が近くにいなく、本当に助かりました」。双子が1歳半ぐらいの時にも、2人を2、3か月預けたこともあるという。
「娘たちと一緒に歌を歌って会社まで来て、一緒に帰って。すごくいい思い出になっています。父親が育児に分担して携わるという意味でもいい経験になりました。それに、託児所の経験からなのか、いつもは上の子に泣かされていた下の子がたくましくなるという変化もあって。子どもにとってもいい経験につながったと思っています」とのことだ。高橋さんはまた、「コロナ禍で最近は難しくなっていますが、ハロウィーンなどのイベントでは子どもたちが衣装を着てオフィスを練り歩いてお菓子をもらうといった、ほほ笑ましい一面もあります。ちょっとした癒やしにもなっています」と教えてくれた。現在、別の男性社員1人が子どもを預けているという。
社内託児所は、個人の働き方がより向上し、会社の成長につながるメリットも。澤田さんはまず、時間の使い方の変化、気持ちの切り替えを挙げる。「長女が生まれるまでは、夜までずるずると仕事をしてしまうこともあったのですが、預けるようになってからは『(託児所が閉まる)午後6時までに終わらせないと』、と区切りを意識するようになりました。後回しにせず集中して取り組むようになりました。もう5分前のギリギリまでガツガツやって、託児所に走っていってセーフみたいな時もあります(笑)。今は時短勤務で、次女を迎えに行って抱っこしたら母親になる、という感じで頭を切り替えています。『もう仕事はまた明日。ここからは子どもの時間』と、メリハリを付けて過ごしています」。
家庭用品のアイデア商品を開発・販売する企業だけに、女性の存在は不可欠。女性の人材が妊娠・出産のため会社を離れることは大きな痛手になる。社内託児所は女性従業員が長く働ける環境づくりにしっかりと役割を果たしているという。それに、同社は毎月、社員全員が参加する「商品提案会」を実施している。現在は持ち回りで行われ、それぞれの社員がアイデアを持ち寄ってプレゼン。実際に商品開発に至ったケースもあるとのこと。澤田さんは「普段の生活からあれがあったらいいな、こういうアイデアが実現すればいいなと思い浮かぶんですよ。女性の意見は非常に大事です。女性従業員が妊娠・出産を経ても安心して働くことができ、ウチの会社はお母さんパワーが増していると思っています」と話している。