“個人戦”ルールをチーム力で制覇 横浜F・マリノスeスポーツが取り組んだ緻密な準備
横浜F・マリノスeスポーツの水煮が、デジタルカードゲーム「Shadowverse」(以下、シャドウバース)のプロ選手によって争われるRAGE SHADOWVERSE PRO TOUR(RSPT)で、ローテーションフォーマットの2ndシーズン王者に輝いた。プロの中でも屈指の実力者として知られるMURA(福岡ソフトバンクホークス ゲーミング)を破っての優勝。新ルールに切り替わって2回目の開催となったRSPTで、頂点をつかむために取り組んだこと、チームとしての戦いなどについて聞いた。
水煮がRSPT 2ndシーズンで優勝 前シーズン最下位から総合力で巻き返す
横浜F・マリノスeスポーツの水煮が、デジタルカードゲーム「Shadowverse」(以下、シャドウバース)のプロ選手によって争われるRAGE SHADOWVERSE PRO TOUR(RSPT)で、ローテーションフォーマットの2ndシーズン王者に輝いた。プロの中でも屈指の実力者として知られるMURA(福岡ソフトバンクホークス ゲーミング)を破っての優勝。新ルールに切り替わって2回目の開催となったRSPTで、頂点をつかむために取り組んだこと、チームとしての戦いなどについて聞いた。(取材・文=片村光博)
以前までのRAGE Shadowverse Pro League(RSPL)からルールが変わり、各チームから2人ずつが出場するようになったRSPT。水煮は1stシーズンでもF・マリノス代表として出場したが、予選を突破することはできなかった。チーム単位で見てもF・マリノスは最下位。その悔しさを旨に「2ndシーズンはどうしても勝ちたかったので、必死で練習しました」と臨んだ結果、さまざまな要素がかみ合って優勝まで駆け上がった。
実際の戦いで印象的だったのは、攻撃的なデッキ選択とプレイングだ。常に先手を打ち、相手の対応を上回るスピードとパワーで破壊する。準決勝ではMURAに一度敗れたが、決勝ではリベンジ。心がけていたのは、常に可能な限りさまざまなパターンを想定して戦うことだったという。
「攻めるデッキを使うときに考えているのは、『次にどのカードを引いたら勝てるのか』ということです。前傾姿勢のデッキは終盤になるまで、他のデッキと比べて考えることが少ない。その中で残った持ち時間(1ターン90秒)を無駄にするのではなく、あらかじめ『これを引いたらこうしよう』と次ターン以降のことを考えてプレイしていくと、勝利に近づきやすいと感じています。どうやって一気にダメージを与えるのか、カードの組み合わせでどこまでダメージを出せるのか、常に考えています」
その結果、決勝では珍しい4ターン勝利などの派手な展開も披露した水煮。一方、公式配信などからは見えない部分でも、準備段階に多くの努力があった。F・マリノスはローテーション担当に4人の選手が在籍するが、出場可能なのは2人、2ndシーズンで本戦まで進出したのは水煮のみ。そうした状況の中、全選手が水煮の調整のために力と知恵を出し合っている。
「本戦はF・マリノスから僕だけ出場することが決まっていたので、ローテーション組の3人は毎日練習に付き合ってくれました。自信のないマッチアップの練習や新しいデッキタイプの検証をしたり、チーム一丸となって集中的に取り組みました。試合当日は控え室に4人まで入れる仕組みとなっていたので、マネジャーと僕、そしてみずせ選手とkaoru選手に現地に来てもらって、ギリギリまで練習相手になってもらいました。チームメンバーをうまく巻き込んで、総力戦で試合に臨むことができたと思います」
RSPL時代のルールと比べて、“個人戦”の色が強くなったようにも見えるRSPT。しかし、実際はチームの総合力や協調性を重視したF・マリノスが結果を手にした。「試合は個人戦ですが、それまでの準備はチームとしての戦いでした。個人戦の要素が強くなったと言われてはいるんですが、そんなことはないと思います」と水煮。RSPLで年間王者に輝いたチームのエース・MURAを打ち破った事実は、何よりも説得力がある。
試合日の流れにも工夫「体力面や試合間のメンタルもすごく大事」
F・マリノスがチームとして取り組んだのは、戦略的な部分だけではない。RSPTは予選が1日を通しての長丁場。試合ごとのインターバルの使い方や、食事の有無、タイミングなども1stシーズンでは手探りだったが、その経験をチーム内で共有し、チームマネジャーとも話し合って、試合当日の理想的な流れを作り出した。
「RSPT予選は1日の試合数がとにかく多いので、体力面や試合間のメンタルもすごく大事。お互いにプロ選手ですし、どうしても負けてしまうことはあるので、そこでいかに引きずらないか。引きずってしまって次の試合に悪影響が出るのは良くないですし、1戦1戦をとにかく大事にすることを実践していました」
仮に負けても食事はしっかりと摂る、どんなシチュエーションなら控え室でチームメートからの声かけが必要なのか、どのような声かけをするのか……。さまざまな状況をシミュレートし、勝てる可能性を底上げしていった結果が勝利につながった。
試合当日は控え室に来たメンバー以外も、YouTubeでの応援配信などを活用して盛り上げた。終了後にそれらの配信を見返したという水煮は、「モチベーションが上がっている雰囲気も感じましたし、良い結果が出せたことによって、チームの士気向上にもつながったと思います」と胸を張る。
最高の結果によって、チームとしての好循環が生まれているF・マリノス。これからの戦いに向けて、水煮は次のように呼びかけた。
「残る3シーズンでは、チーム力やデッキ構築のところを見てもらいたいです。F・マリノスは独特なデッキを使うと言われたりもしますが、チーム全員で『強い』と判断したデッキを調整して持ち込んでいます。なかなか外からは見えづらい部分もあるとは思うのですが、そうした部分にも目を向けてもらえたらうれしいですね。ローテーション組が4人いて、誰が出るのか議論になることもありますが(笑)、選ばれて出場する2人に期待してもらいたいと思います。
RSPTは出られる選手も各チーム絞られています。質の高い試合をより多く見せられると思いますし、内容は見てほしいところですね」
次回のRSPTは3rdシーズン。9月4日に予選、同17日と18日に本戦が開催される。ハイレベルな戦いの中、F・マリノスはチーム力を武器に再び快進撃を見せるのか。結果はもちろん、その内容からも目が離せない。
□水煮/1988年2月3日、山形県生まれ。横浜F・マリノスeスポーツ「シャドウバース」部門にチーム発足から所属し、ローテーション担当として活躍中。「Shadowverse World Grand Prix 2021 JCGオンライン予選大会 プレーオフ」優勝、「RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR 22-23 2nd Season」ローテーション部門優勝。