学校再開、“対面に恐怖”感じる中高生も 夏休み明けオンライン相談が急増
夏休みが終わり、学校は新学期を迎えている。主に10代の女性を支援する東京都内の団体では8月下旬からチャットによる相談が急増している。新型コロナウイルス第7波の拡大の最中、“制限されない”夏休みを過ごした子どもたちは学校再開に、どのような悩みや思いを抱えているのか。また、大人はどう寄り添えばいいのか。公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン(以下、プラン)の心理士の橋本理恵さんに聞いた。
「この1週間ぐらいは相談の数が倍ぐらいに」
夏休みが終わり、学校は新学期を迎えている。主に10代の女性を支援する東京都内の団体では8月下旬からチャットによる相談が急増している。新型コロナウイルス第7波の拡大の最中、“制限されない”夏休みを過ごした子どもたちは学校再開に、どのような悩みや思いを抱えているのか。また、大人はどう寄り添えばいいのか。公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン(以下、プラン)の心理士の橋本理恵さんに聞いた。(取材・文=水沼一夫)
多くの学校で夏休みが開けた8月下旬、プランが運営するチャット相談には中高生を中心に多くの相談が寄せられていた。
「この1週間ぐらいは相談の数が倍ぐらいになっています。夏休みが明けるからなんですよね。学校が始まったけど、早く帰って来て、『今日午前中行ってきたけど、やっぱり嫌だった』みたいな子もいます」
共通するのはこの時期特有の不安を抱えているということ。
「学校に行きたくない、友達に会いたくない、でも行かなきゃいけないという苦しさですかね。子どもにとって夏休みが明けるのはかなり大きなイベント。そこに来る緊張感からの悩みが多いんじゃないかなと思います」
学年によっては、夏が明けると、受験に向けて一気にスパートする。目に見えないストレスやプレッシャーが学校への足を重くさせる。「今の日本の受験は夏が明けたら、もうあとは走れみたいな感じになっていると思う。だから夏が明けてほしくないみたいな、そういう悩みもあります」
また今年の特徴として、コロナ禍ならではの相談もあった。
「対面が怖いという中高生や大学生は多いです。コロナが2年間続いて学校は対面が多くなりました。元々(学校に行かず)課題だけのほうが楽だったという子もいます。大学ではゼミが始まったり、授業が全部対面になったりで、変化についていくのが大変な方もいらっしゃいますね」
度重なる緊急事態宣言や外出自粛により、リモートやオンラインで慣れてしまった分、リアルな人間関係に慣れることができず、オフラインの世界に抵抗感を抱く学生もいるようだ。
「死にたい」と言ってチャット相談に入ってくる女の子たち
長引くコロナで社会全体に閉塞感が漂う中、家庭内でのDVや虐待が増えた。文部科学省の令和2年度の調査によると、小中学校の不登校児童生徒数は8年連続で増加し、過去最多となっている。子どもの悩みは深刻化している。
「私たちの中では希死念慮と言いますけども、死にたいという気持ちが多い子ってすごく多いなと思うんですね。チャット相談で『死にたいです』と入ってくる人が多いです。この2年間、ずっとそうだったですね。学生って選択肢がないんですよ。学校か家なんですよね。学校に行きたくないってなって、家もあんまり良くないとなると、もうその次は死にたいと思ってしまうのです」
そうした子どもたちには慎重に耳を傾け、寄り添いながら声がけをする必要がある。
「どうして絶望してしまっているのか、ということを丁寧に聞いていくことがすごく大切なんじゃないかなと思っています。例えば2週間前から死にたくなったという子だと、2週間前ぐらいに何かあるんですよね。どんなことがあったのか聞いて、例えばすごく先生が嫌だとか部活の顧問がすごく厳しいとか、友達に嫌なこと言われたとか、そういうことを一緒に考えていく。それじゃ嫌な気持ちになるよねとか学校行きたくなくなっても当然だよねみたいな話をしていって、じゃあどうしようかという話になるんですよね。『死にたい』という言葉を読み解くというか、それがチャット相談ではすごく重要になってくると思います」
原因が「学校に行きたくない」のであれば、さらにその奥にある気持ちや問題を丁寧に聞き、子どもによっては「学校に行かないこと」を躊躇なく助言している。
「もう先生も話を聞いてくれないし、1回相談したけどダメだし、親も全く理解がないみたいな状況で、もう打つ手は打ったけど何もできないみたいなときは行かなくてもいいんじゃないと言いますね。学校に行かなくてもあなたがやれることとかやりたいこととかあればそれはそれでいいんじゃないみたいな話もします」と、無理強いはしない。
家族間感染を恐れて学校に行かせてもらえない子どもも
新学期という敏感になる時期に、親や学校はどのようなことに気を配ればいいのか。
「夏休みの1か月半とか2か月休んでいて、例えばまた我慢していた環境に戻るというのは大変なこと。『学校に行きたくない』と子どもが言ったら、『じゃ無理しないでちょっと1日休んでみる?』とか、まず『よく言ってくれたね』みたいな感じで受け止めてあげて欲しいです」
状況によっては、一部の授業のみに出席することや「保健室登校」を視野に入れることも効果的だという。
「例えば得意な授業の時間だけ行くとかでもいいですよね。プールだったら行けるとか、給食だけ食べて帰ってくるでもいいし、保健室なら行けるとか、何か学校をもう少しかみ砕いてやれそうなことがあれば、行ってみたらいいと思います。特に不登校の子はすごく自分を責めていることが多いと思うんですよね。自分はダメな人間だと。そんなことはなくて、たまたま学校とあなたが合わなかっただけであって、合う世界は必ずあるよみたいな感じで一緒に探そうみたいに接するのがいいと思います」
一方で、学校に行きたくても、親から登校を制限されている子どももいる。
「コロナが怖くて親が学校に行かせない子が結構多いですよね。あと家に基礎疾患がある人たちがいると、子どもからもらってくるので行かないで欲しいみたいなのもあります」。学校に行きたくても行けず、友達を作ることもできない。まさに絶望的な状況だ。しかし、今は自宅にいても、八方ふさがりではないと橋本さんは言う。勉強を続け、新しく居場所や相談相手を作ることも可能だという。
「もうこれから社会に適応していけないんじゃないかとか、そう思う子どもも多いんですけど、今だからこそ家から出なくてもできることがたくさんある。大人だって家から出ないで仕事しているわけだから、あんまり学校に行けないことを気にしないで欲しいなという気がします」と訴えた。
□橋本理恵(はしもと・りえ)臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士・社会福祉士。大学卒業後、精神科病院にソーシャルワーカーとして勤務、その後カウンセラーとしても仕事を始め、大学の学生相談室、総合商社のカウンセリングルームを経て、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンの心理士に。現在はメンタルクリニックカウンセラーも務める。