「THE MATCH」で屈辱敗戦の白鳥大珠、階級変更を示唆「65キロで1回闘ってみようかな」
まだ夏も終わっていないとはいえ、2022年の格闘技界は「THE MATCH 2022」という大会を終えたことで、すでに今年のピークを終えてしまったともいえる。7年越しで実現した那須川天心VS武尊の「世紀の一戦」をはじめ、RISEとK-1による対抗戦は、ひと晩で50億円という巨額の売上を計上したと言われている。だが、そんな記念すべき大会で1RKOを喫したのが“キック界の王子”白鳥大珠だった。あろうことか待望の対K-1でまさかの醜態を晒した男は、いかに這い上がるのか。その具体的な方向性を聞いた。
試合のことは何も覚えていない…
まだ夏も終わっていないとはいえ、2022年の格闘技界は「THE MATCH 2022」という大会を終えたことで、すでに今年のピークを終えてしまったともいえる。7年越しで実現した那須川天心VS武尊の「世紀の一戦」をはじめ、RISEとK-1による対抗戦は、ひと晩で50億円という巨額の売上を計上したと言われている。だが、そんな記念すべき大会で1RKOを喫したのが“キック界の王子”白鳥大珠だった。あろうことか待望の対K-1でまさかの醜態を晒した男は、いかに這い上がるのか。その具体的な方向性を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「結果的にいうと、一番やっちゃいけないことをしたんですよね」
「THE MATCH」で1RKO負けを喫した白鳥大珠がそう言った。白鳥の相手はK-1のゴンナパー・ウィラサクレック。キャリア150戦を間近に控えるベテランファイターだった。
「最終的に倒されたとき、ロープ際で倒されたと思うんですけど、基本的に、ロープを背負わないように動く対策をしていたんですよね」
白鳥は試合開始からは、なるべくリングの中央を取ることを心がけていた。
「最初は向こうの蹴りを警戒していたんです。だけどローキックを受けてみて、あ、これなら大丈夫だって思ったんですよ。だけどそこで自分の心の中に余裕ができてしまったというか、積極的に仕掛けては行っていたんですけど、壁だなっていうふうには感じましたね」
過去に白鳥は、皇治や大雅をはじめ、K-1から来たファイターと闘って来た経験を持つ。それだけに気負いやそれに類することはないはずだった。
「まあ、そうですね。そこはいつもと変わらずですよねえ」
しかしながら結果的にはまさかの1RKO負け。しかも試合後のインタビュールームでは、さっきあったばかりの試合を「覚えていない……」とコメントした。
「会場にいるときは、自分の試合はあまり思い出せなかったですね。だからホント、インタビュールームで言ったことは、何も盛っていなくて。控室に戻って、少し落ち着いた時に、試合をしてきたってことだけは分かるんですけど……。控室に戻って、最初に風音がいるじゃないですか」
風音は、第3試合でK-1の岡田斗真に判定勝ちをしていた。
「なのに、『風音、試合はこれから?』って聞いちゃっているんですよね(苦笑)。だから周りがビックリしていて。で、その後に言ったのが、『ここ、どこだっけ?』っていう……。それで『東京ドームだよ』って聞いて、あ、そうだ。俺、東京ドームで試合したんだ…っていう感じでしたね」
天心VS武尊に関する見解
そんな白鳥だけに、「ほとんど試合は見てなかった」が、それでも「天心VS武尊戦は、しっかり会場で見ましたね」という。
率直にどう思ったのか。
「僕のなかで予想していたことが2つあって。あんな感じで1Rからジャブをバンバン入れて。もし天心がジャブを入れられたら、距離に入られないというか。その距離をキープしたまま闘えるんだろうなって予想していて」
だからこそ白鳥は「僕は1Rを見た時点で、これは勝ったかなというのは正直、思いましたね」と答えた。
「ただ、武尊選手は2、3Rってだんだん強くなってくるので。どちらかといえばスロースターターというか。2、3Rでギアを上げてくるだろうなと思っていたんですけど、それでも天心がそこをずーっとキープして、距離を見切って闘っているなあと思いましたね」
終盤になればなるほど、武尊は追い上げてくる。実際、白鳥はそれを肌で感じたことがあった。
「僕は練習ですけど、(武尊と)向かい合ったことがあって、そのときにホントほかの選手にない圧力を感じたんですよ。それを考えた時に、あのラッシュと圧力と気持ちで向かい合ったら、(天心は)飲み込まれちゃうんじゃないかって、思っていて。ただ、天心のコンディションというか、仕上がりはちょっと違ったッスね」
天心VS武尊は、前日計量で58キロ契約、さらに当日の試合3時間前に62キロまでの戻しが決められている当日計量のある試合だった。仮の話、もしこの当日計量がなく、武尊がフリーで体重を戻せたとしたら、試合結果は変わったのだろうか。これに関して白鳥は、言葉を選びながらこう答えた。
「あまり関係ないかなとは思いますね。そこに関しては、結果は変わらなかったんじゃないかなって思いますね。そんな階級差がどうっていう試合ではなかった気がします。もちろん、武尊選手のカラダが回復できてない状態だったのかも分からないですけど、そんな気がしますね」
「僕はもう1Rで思い切りぶっ倒されたんですけど、僕のなかではそこまで実力差があったとは思っていないんですよ。ぶっ倒されていて、こんなことを言うのもあれですけど……」
白鳥は改めてゴンナパー戦を振り返りそう話した。要は、見た目以上に紙一重の差だったと感じているということか。
「だからこそ、悔しいし……。いや、悔しいッスねえ……」(白鳥)
そして白鳥はこう続けた。
「地味に判定負けするよりは、あのくらい気持ちよくぶっ倒されたほうが、まあ、終わってみてそれはそう思いますけどね」
ドームの観客は「星」だった
ともあれ、問題はこの後だ。まさかの1RKO負けを喫した白鳥が、今後はどう巻き返しを図るのか。これに関して白鳥は、「当面はオファー待ち」としながらも、ひとつの方向性を示した。
「もちろん、次もRISEで闘っていくとは思うんですけど、僕としては次の試合、まだどこにも発信はしてないんですけど、階級を上げてみようかなっていう……のを考えていますね。65キロで1回闘ってみようかなって」
65キロといえば、「THE MATCH」のセミファイナルでK-1の怪物・野杁正明に延長戦の末、フルマークの判定勝利を果たした、シュートボクシングの海人が大いに名を挙げた階級でもある。となれば、すぐにやれるかどうかはともかく、海人戦は見てみたい組合せになるが、この部分に関しては、実績が違うだけに白鳥も慎重に言葉を発する。
「まあ、ホントに今はすぐにそことか何も言えないですけど、僕も現役でやるからにはミドル級くらいまで上げていきたいっていうのが正直思っているところなので、自分がどのくらいのパフォーマンスを見せられるかわからないので。ただ、自分としては『挑戦』してみようかなって感じですね」
――前にもYA-MAN戦の話を聞かせてもらったことがありますけど、もしオファーされたらどうしますかね?
「オファーが来たら全然やりますよね、それは。YA-MANはRISEのランキングで言えば下なんですけど……」
――YA-MAN選手には今、勢いがありますよね。
「今、乗っている格闘家ですよね。今一番勢いがあるRISEのファイターなのかなーっていうのは、正直思うので」
――そう思います。
「海人選手の場合はあれですけど、近いっていうのであれば、YA-MANは可能性はあるのかなっていうのはありますね」
――例えば、YA-MAN選手の場合は、オープンフィンガーグローブ(OFG)での闘いを得意としていますけど、例えば、そういう試合を要求された場合はどうしますか。
「まあ、そんなのは別に、OFGでやってもいいかなーとは思ってますけど」
――お!
「それで盛り上がるのであれば、それでやりたいなと思いますし、僕、いま63キロの階級だとランキングが1位なんですけど、それを狙いに来るなら、純粋なキックボクシングのルールでというか。まあ、そこはホントに僕は流れに任せるというか、盛り上がるならなんでもやりたいですね」
結果的には残念ながら5万人以上の観客の前で、これ以上ない大きな恥をかいた白鳥だが、それでも「得るものは大きかった」と考えている。「結果はともなく、価値のある時間というか、無駄じゃなかったというか」。それは「入場のときに見上げた景色はホント忘れられなくて」とも。白鳥いわく、「星でしたね」とつぶやくように答えた。
「負けた後の試合っていうのが大事だなと思っていて。また同じようなことを繰り返しているのであれば、こいつは終わったのかなと思われてもしょうがないと思っています」
大敗北は大勝利への布石。それができるのが一流のファイターである証になる。ファイターにおける大一番で一番やってはいけないことをやった白鳥。だからこそ、次は一番やらなければいけないことを、誰よりも実戦する気でいることは間違いない。