芥川賞・高瀬隼子氏「小説でしか救われなかった」 読書体験に支えられた人生

第167回芥川賞(日本文学振興会主催)を受賞した高瀬隼子氏(34)が26日、都内のホテルで贈呈式に出席した。受賞作は「おいしいごはんが食べられますように」。

登壇した高瀬隼子氏【写真:ENCOUNT編集部】
登壇した高瀬隼子氏【写真:ENCOUNT編集部】

職場の小さな集団の人間関係を描いた「おいしいごはんが食べられますように」

 第167回芥川賞(日本文学振興会主催)を受賞した高瀬隼子氏(34)が26日、都内のホテルで贈呈式に出席した。受賞作は「おいしいごはんが食べられますように」。

 事務職として働きながら執筆活動。小説を書く原動力は“ムカつき”から発想がスタートするという。そんな高瀬氏は壇上で、もしも小説が好きでいなかったらというテーマでスピーチ。「私は小説を読むことで救われてきました。つらいこと、悲しいことがあった時に集中して本の世界に入り込むことは、本を読んでいれば現実から逃げられるから、ということではなかったように思います。物語の世界にどっぷりと漬かりながら、頭の隅では自分が日々生きている世界のことも同時に考えていて、物語とぴったり重なった出来事ではないのに、あれが悲しかった、あれは苦しかった、あれは嫌なことだったのだ、でもどうしたらよかったのだろう、と問い続けることができました」と、自身の読書体験を交えて話した。

 小説に支えられた人生だったといい、「私の中には小説でしか救われなかった部分があり、小説でしか大切にできなかった部分も、守り抜けなかった部分もあります。家族や友人のぬくもりに支えられた経験も確かにあるのですが、それでも自分の胸の内で問い続け、自分自身たった1人きりで乗り越えるしかない問題に対峙し、他の人のぬくもりが支えにはならない時、救ってくれたのはこれまで読んできたたくさんの小説でした」。言葉に実感を込めた。

 さらに、「小説を書いている時に、読者を救いたいとは考えていないのに、読まれたいとどうしても思ってしまう。読んでもらう、その時間を読者の人生から私はいただきたい。眠れない夜に、この世界に私の小説を読んでくれた人が存在するのだと考えることが、新しく私を救ってくれるようになりました。こんな幸福はありません。この感謝は書き続けることでしかお示しできないと思っています。覚悟を持って小説に向き合い続けます」と、今後への思いを明かした。

 高瀬氏は愛媛県新居浜市生まれ。立命館大文学部卒。2019年、「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビューした。本作の選考では、職場の小さな集団の複雑な人間関係を軽やかに立体的に描いたことなどが評価された。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください