民謡日本一の山形娘 恩師に余命宣告…二人三脚で作ったアルバムに込めた思い

山形を代表するシンガーソングライターの朝倉さやが9月4日に「かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール」でワンマンライブ「Life Song Live」を開催する。「Life Song」とは病と闘う恩師と朝倉の二人三脚で作り上げた最新アルバムであり、朝倉にとってこれまでとは違った意味で特別な作品だ。ライブを前にあらためて新作に込めた思いを語ってもらった。

朝倉さや【写真:ENCOUNT編集部】
朝倉さや【写真:ENCOUNT編集部】

音楽プロデューサー・solaya氏が命を削りながら完成させた「Life Song」

 山形を代表するシンガーソングライターの朝倉さやが9月4日に「かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール」でワンマンライブ「Life Song Live」を開催する。「Life Song」とは病と闘う恩師と朝倉の二人三脚で作り上げた最新アルバムであり、朝倉にとってこれまでとは違った意味で特別な作品だ。ライブを前にあらためて新作に込めた思いを語ってもらった。(取材・文=福嶋剛)

 民謡日本一の歌唱力を誇る山形娘、山形弁でJ-POPを歌うシンガーソングライターとして知られる朝倉の才能を見出したのは音楽プロデューサーのsolaya氏だ。過去に東方神起やJUJU、Crystal Kayなどを手掛けてきた恩師は、彼女の持ち味である美しい歌声と天真爛漫な明るさに加え、芯の強さや包容力といった内面を見抜き、シンガーソングライターとして開花させた。

 山形から上京してきた朝倉に「自分の気持ちをそのまま曲にしてみよう」と曲作りのきっかけを与え、初めて作詞作曲に挑戦した楽曲「東京」(2013年)でデビューした。所属事務所兼レーベルを立ち上げ、朝倉とsolaya氏はチームとしてタッグを組んだ。そして2015年に制作したラップやボサノバなどさまざまなジャンルの音楽を民謡と融合させたアルバム「River Boat Song-Future Trax-」が、インディーズアーティストとしては初の快挙となる日本レコード大賞企画賞に選ばれ、2人の夢が1つ結実した。

 ところが2017年、solaya氏に癌が見つかり35歳にして余命宣告を受けた。闘病生活を送るsolaya氏と朝倉はあることを決意した。朝倉が明かしてくれた。

「癌と闘うsolayaさんと一緒に新しいことに挑戦しようと思いました。私は歌うものとして、そしてsolayaさんは今の自分だからこそ伝えられるメッセージを音楽に託そうということで『最上川舟唄-Life Song-』を作り、YouTubeに公開しました」

 これまで朝倉が大切に歌ってきた山形県の代表的な民謡「最上川舟唄」にsolaya氏が生命の息吹を感じさせる渾身のアレンジを加えて完成させた曲が「最上川舟唄-Life Song-」だ。ミュージックビデオ(MV)には命の尊さをつづった大切なメッセージが刻まれた。

「公開直後からYouTubeには温かい感想がたくさん寄せられて、solayaさんと同じように病気で苦しんでいる人たちからも元気をもらったというコメントをいただきました。あらためて音楽の力に触れて、音楽を通して人々と心が通う温かい空間が作れることを実感しました。それを見たsolayaさんから『命や人生をテーマにしたアルバムを作ってみるのはどうだろう?』というお話をいただき、solayaさんと一緒にアルバムの制作を始めました」

 2人で歌いたいことを1曲1曲紡いでいき、「Life Song」という特別なアルバムが完成した。

「命と人生を歌った私たちのアルバムです。私たちとはsolayaさんと私でもあり、みなさんと私という意味も込められています。自分自身と向き合いながらアルバムを作っていく中で今まで出会った人たちがいたからこそこうやって自分は存在している。だから決して1人じゃないという思いが“私たち”という言葉につながりました」

 アルバムに収められている表題曲「ライフソング-Life Song-」は、まさにアルバム全体を象徴するような壮大な楽曲だ。生命の尊さを感じる歌詞の中で「弱くて逞しい(たくましい)」という言葉が印象に残る。

「この曲からは、いろんな音が聴こえてくると思うのですが、それは私たちが生きている世界の音だったり、命の輝きを表す音だったり、そんなsolayaさんの考える音の世界観を味わえる曲になっています。人間の生命には限りがあるし、何かにぶち当たったり、悩んだり、悲しんだり、迷ったり。今もコロナ禍で大変なこともいっぱいあるけれど、弱いんだけれども支え合いながらたくましく生きている生物が人間なんだなって思うんです。まさに今、あなたが存在している。それだけで素晴らしいことなんだよという曲なんです」

現在は全国ツアーを開催中の朝倉さや【写真提供:Solaya Label Co.】
現在は全国ツアーを開催中の朝倉さや【写真提供:Solaya Label Co.】

デビュー前から現在まで守り続けている大切なこと

 8曲目に収められている「生きる」も重要な作品と1つと語った。

「この曲を制作しているとき、solayaさんの体調が芳しくない状態で、solayaさんの奥様で、ずっとマネージャーさんとしてもお世話になっている作曲家の夏海(なつみ)さんに初めて作曲していただいた曲になります。コロナ禍で大変な時期ということもあり、『未来を諦めない』とか『力を合わせて頑張っていこう』という曲のテーマに決まり、私が歌詞を書いて、solayaさんが最後にアレンジを加えていただいて完成した曲なのでsolayaレーベル総出の1曲になりました。加えて弦楽器などの演奏者のみなさんや関係者のみなさんの人生のかけらを結集して出来上がった曲が『生きる』なんです」

 アルバムを完成させたときを「奇跡のような特別な瞬間」という言葉で例えた。

「solayaさんは命をかけて『Life Song』を作ってくださいました。本当に命を削りながら力を振り絞って作っていただいたアルバムなんです。だからこそ私にとって、このアルバムが完成したこと自体が奇跡のような、そんな特別な感情があるんです」

 朝倉にはデビュー前から現在まで大切に守り続けているsolaya氏からもらったアドバイスがある。

「本当のことを歌うということです。solayaさんにデビュー曲の『東京』を作ったときから『今やりたいことをそのまま曲にしたほうがいい』と言われて、それをずっと守ってやってきたから『東京』を歌うと、いつもあの頃の気持ちに戻れるし、ここがあったから今があるって確かめられるんです。

 実はSNSで何かを伝えることってあまり得意じゃないんですが、歌にすると表現することができるんです。どちらも本当の自分なんですが、より丁寧に時間をかけて言葉と向き合うことができて、自分が本当に歌いたいことを歌詞に書こうと思っているからだと思います。そんな本当のことを全部打ち明けられたり、冒険もできる場所が私にとって歌なんです」

 現在、このアルバムを引っ提げた全国ツアーを開催中だが、9月には「かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール」という1000人を超える都内の会場で東京のツアーファイナルを迎える。

「これまでコロナ禍でみなさんの前で歌えなかったので、あらためて歌える喜びを噛み締めながらツアーを回っています。どの会場でも心の声が聞こえてくるぐらいの熱気をいただいて、お客さんの拍手や手拍子のありがたみを感じながら、心を通わせて歌っています。

 かつしかシンフォニーヒルズ公演も今からほんってん楽しみ♪ 心込めて歌います。ワクワクして来てけろな。会場でお会いしましょう!」

□朝倉さや(あさくら・さや)1992年6月29日、山形県出身。民謡好きの曾祖母、母親の影響で小学2年生から本格的に民謡を習い始め、小中学校時代に民謡日本一に2度輝き、18歳で上京。2013年、自身の作詞・作曲による「東京」でデビュー。週間 USEN HIT インディーズランキングで1位を記録。15年、日本レコード大賞企画賞、CDショップ大賞東北ブロック賞を受賞。2017年、NHKみんなのうた「そのままの笑顔でいて」放送。20年、1stアルバム「古今唄集~Future Trax Best~」でメジャーデビュー。22年、2ndアルバム「Life Song」リリース。9月4日、かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール(東京)で「Life Song Live」を開催。

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