結成25年のクレイジーケンバンド 横山剣が明かすメンバーが「ぶつからない」理由

結成25周年の「クレイジーケンバンド」(=CKB)が完成させたオリジナルアルバム「樹影」は、親子ほど離れたサウンドプロデューサーのPark氏を迎えて、横山剣との二人三脚でピッカピカに磨かれた究極のCKBサウンドを作り上げた。そんな個性的な全18曲から見えてくるCKBの面白さや「横山剣のアレンジの秘訣」について迫ってみた。

クレイジーケンバンド横山剣【写真:山口比佐夫】
クレイジーケンバンド横山剣【写真:山口比佐夫】

ニューアルバムからひも解く横山剣のアレンジの秘訣

 結成25周年の「クレイジーケンバンド」(=CKB)が完成させたオリジナルアルバム「樹影」は、親子ほど離れたサウンドプロデューサーのPark氏を迎えて、横山剣との二人三脚でピッカピカに磨かれた究極のCKBサウンドを作り上げた。そんな個性的な全18曲から見えてくるCKBの面白さや「横山剣のアレンジの秘訣」について迫ってみた。(取材・文=福嶋剛)

――バンドとして25年、横山剣さんと10人の猛者たちによるつながりは今も変わりません。

「音楽の趣味なんかも違いますし性格もみなさん違いますしね。昔からCKBは僕がまとめなくても放っておいたら勝手にまとまるから本当に苦労はないんです。もし、僕がまとめなきゃいけないバンドだったら続いてなかったでしょうね。人事で疲れちゃうのは嫌ですから(笑)。何より楽曲様というか楽曲が優先順位で一番高いところにあるのでお互いのエゴでぶつからない。楽曲のためなら言うことを聞けるという。それは25年変わらないですね」

――さて、今回は最新アルバム「樹影」の収録曲をランダムにチェックしながらCKBの面白さを探ってみたいと思います。いきなり6曲目の「莎拉-Sarah-」からお聞きします。気持ちの良いダンスミュージックですが、過去の作品で、ようやくリリースできたとお聞きしました。

「この曲は昔『横山剣自宅録音シリーズ』というデモテープを勝手に売っていた中に入っていた古い曲なんです。いつ頃作ったのか忘れちゃいましたけど、いつか出そうかなと思ってずっと温めていたんですが、なかなかしっくりくるサウンドが決まらなくて。もっと気持ちよく聴こえるようにするにはどうしたらよいのかと納得がいくまで時間を掛けました。同じようにいつか出したい曲はほかにもいっぱいあるんですが、出さない理由というのは『莎拉-Sarah-』みたいにアレンジがあと1歩足りないんです」

――曲も歌詞も大切ですがアレンジが非常に重要だと?

「そうなんです。アレンジャーは音楽を作る上でとても大切な職業ですよね。例えば少年隊のデビュー曲『仮面舞踏会』のカッコ良くてゴージャスなアレンジを聴いた瞬間に衝撃が走りました。作曲した筒美京平さんはもちろん偉大ですが、同じぐらいアレンジを担当した船山基紀さんも偉大なんです。アレンジはいつも大切なんですけど、特に今回のアルバムはアレンジをすごく意識して作りましたね」

――ずばり剣さんのアレンジの秘訣とは?

「時代に関係なく普遍的でいつまでも新鮮なアレンジというのは一番難しいところなんです。今聴いたら気持ち良いアレンジも来年聴いたらしぼんでいるかもしれないですし。反対にその時代にしか通用しなそうな刹那な歌詞やアレンジというのも時代の記憶として有効でしょう。たとえば『ポケットベル』という歌詞は、今の時代に聴くとタイムカプセルを開けるようなワクワクする感じもありますよね。

 いちアレンジャーとしては、あまりエバーグリーンなポイントばかり狙い過ぎて淡白になってしまうより、時代の記憶や空気感を絶妙なスパイスとして効かせることも有効なんじゃないかと思います。振り返ったときにそこに妙味があったりするんですよ。だから僕は今、この瞬間にやりたいと思ったことは迷わずやっていこうというスタンスなんですね」

――クレイジーケンバンドの作品には、通り過ぎようとした瞬間に思わず振り向いてしまう気になるポイントが曲の中にたくさん詰め込まれていますよね。

「それに気が付いてもらえることが作者としての喜びなんですよ」

――曲名で一番気になったのは「ウェイホユ?」でした。はじめは「どこの言葉?」と思っていたんですが、曲を聴き終わって謎が解けました。

「この曲は海外から出稼ぎで日本にやってきた人に恋をするという妄想ソングなんです。好きだった曲が向こうの言葉で書かかれていて文字が読めないからどんな曲なのかを探るというストーリーなんです」

――そのオチが曲を最後まで聴かないと分らない

「そうなんです。昔、太田裕美さんの『木綿のハンカチーフ』という曲があって、最後まで聴かないと登場人物の物語が分からないんですよね。そういう曲も面白いなと思いましたね」

ニューアルバム「樹影」の注目ポイントを紹介してもらった【写真:山口比佐夫】
ニューアルバム「樹影」の注目ポイントを紹介してもらった【写真:山口比佐夫】

20代や30代の若い世代からもたくさんを刺激を受けている

――今回もサウンドプロデューサーとして参加したParkさんが剣さんの分身としてアレンジでは重要な役割を担っているとお聞きしました。

「Park君は僕の脳内をハッキングできる高性能な分身ですね(笑)。彼との共同作業は新鮮でした。今までやってきたタイプの曲でもPark君と一緒に磨いてみると、本来のカラーがくっきりと現れて曲のポテンシャルがグッと上がるんです。たとえば先行配信した3曲目の『夕だち』なんかはそうですね」

――高速ボサノバの柑橘系なサウンドが気持ち良いです。

「昨年のカバーアルバムで『モンロー・ウォーク』をカバーした時に南佳孝さんの曲をいろいろと聴き直したら久しぶりに70年代、80年代の曲に新鮮味を感じたんです。懐かしい曲といっても当時を知る僕らがそういった先入観があるだけで初めて聴く人にとっては新鮮そのものですから。いかにもCKBがやりそうな曲なんですけど、それをPark君と磨いて新鮮さを詰め込みました。また9曲目の『The Roots』はPark君が鍵を握っていた曲ですね」

――歌い出しが「お父さんの お父さんの そのまたお父さんの♪」ではじまり、思わずNHKの「ファミリーヒストリー」を想像してしまうような曲です。

「そうですね(笑)。この曲は2年前のアルバム『NOW』(2020年)の収録候補から外れた曲です。もともとこの曲を好きだったPark君が『なんで収録しなかったんですか?』と残念がってくれたんですが、僕的にはアレンジが今ひとつピンと来なかったのでボツにしたんです。で、今回はPark君自らこの曲のアレンジを申し出てくれたんです。まさに『The Roots』って米国のバンドのトラックみたいなヒップなアレンジを施してくれて『これなら出せる』と喜びました。Park君と組んでよかったなって思えた一番の曲ですね。ミュージックビデオも作っているので楽しみにしてください」

――13曲目の「おじさん」はソウルフルな3連が気持ち良いです。

「昔からデニース・ウイリアムスの『It’s Gonna Take a Miracle』って曲が好きで、そのベースラインを引用して作った曲のうちのひとつです。そんな過去の音源を懐かしさに浸って聴くのも悪くはないんですが、聴き方のセンスに新しさがあれば、まったく別のフレッシュな感動があるかも知れない。そんな意味でも20代の若いアーティストによるヴィンテージな音作りには大変多くの刺激やヒントをもらってます。例えばフィンランドのボビー・オロサという人はその典型なんですが、彼の登場によって、今様のヴィンテージ・サウンドのあり方を見つめ直すいい機会になったと思います」

――CKBといえばアイキャッチの短いつなぎの曲もとっても重要ですよね?

「僕がレコードを好きな理由として、A面が終わって、B面という第二幕に針を落とすワクワク感が恋しいというのがあります。CDの場合は一方通行。だから、その善後策として短いジングルを入れることを思いついたのです。ヒントになったのはヒップホップ盤でいうところのスキットです。ファーストアルバムの『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』から採用しているんです。今回はアルバムのアウトロが1曲目の曲と同じソースなのでリピートをして聴くときれいにつながるので延々聴けるという仕掛けになってます」

――そのアイキャッチに続いてアルバム中もっとも引っかかるギタリストの小野瀬雅生さんの曲「コウタイ」がめちゃくちゃ気になります。

「まさに(笑)。アルバムの中で最もいい意味で違和感がある曲ですね。基本的にのっさん(=小野瀬さん)作品はすべてのっさんに丸投げなんです。だからどんな曲が届くのはまったく想像がつかなない。今回届いたのは組曲みたいに曲の途中でノイズが入ったあとパート2が始まる。さらに彼のナレーションがイイ味ですよね。前回のカバーアルバムで『あまい囁き』を収録した時、オリジナルの細川俊之さんのナレーション部分をのっさんにやってもらったんですが、すごくよかったので今回も自発的に入れようと思ってくれたんでしょうね」

車を愛する横山剣だからこそEV車にひと言「もう少し改善していただればと」

――そんなCKBの面白さが詰まったアルバム「樹影」を引っ提げて全国ツアーも始まります。

「そのままでは演奏できない曲もあるのでライブ仕様に改造するっていうのが面白いんですよ。まるでレーシングカーを改造するような感じでワクワクしますよ」

――剣さんがよく仰っている生まれた子どもたち(=楽曲)をライブで育てていくという。

「そうですね。CDは1つの完成形なんですけど、ライブでまた育っていくんですよね」

――話はガラリと変わりますが、2030年にガソリン車を廃止するんじゃないかという噂もあるみたいですが剣さんの現在のご意見をお聞きしたいです。

「僕が小学校の頃、未来の車に思いをはせてEV(=電気自動車)の絵を書いていたりましたね。EVに対して全面的に反対ではないんです。ただ、産業廃棄物の問題や製造過程のCO2の問題とかいいことばかりじゃないでしょ。まだまだインフラも充実していないから、以前EV車を1週間ぐらい試乗することになったんですが、電気メーターがどんどん減ってっちゃうし、充電スポットまで持つかハラハラしちゃうし、充電に時間がかかったりでなかなかストレスが溜まっちゃって3日で返しちゃった。もう少し改善していただればと思いますねぇ」

□クレイジーケンバンド 1997年の春頃、横浜本牧の伝説的スポット「イタリアンガーデン」にて発生した横山剣率いる東洋一のサウンド・マシーン。2002年、4thアルバム「Gran Turismo」を機に瞬く間にファン層を拡大し幅広い年齢層からも人気を博す。04年、ベストアルバム「CKBB」が初めてチャート9位にランクされ、同年翌年と2年連続で日本武道館公演を成功させる。09年、ユニバーサルミュージックと契約し新レーベル「Doublejoy International」を設立。15年、16thアルバム「もうすっかりあれなんだよね」が最高位の3位を記録。22年、結成25年を迎え、22thアルバム「樹影」完成。

クレイジーケンバンド 公式HP:https://www.crazykenband.com/
ツイッター:https://twitter.com/crazykenband20
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCo9yzFB15CsDG_rGXZ0chRw
「CRAZY KEN BAND TOUR 樹影 2022-2023 Presented by TATSUYA BUSSAN」
公演情報:https://www.crazykenband.com/posts/live/jhlajx

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