ソウル在住識者語る“韓タメの強さ” 日本には「ない」と指摘する問題意識からの広がり

K-POP、韓国ドラマ、映画、ウェブトゥーン……。韓国エンタメが世界を席巻している。日本でもBTS、TWICE、SEVENTEENのほか第4世代ガールズグループと呼ばれるaespa(エスパ)、IVE(アイヴ)、宮脇咲良が参加しているLE SSERAFIM(ル・セラフィム)らが続々と上陸。Netflixの大ヒットドラマ「梨泰院クラス」の日本版リメークである「六本木クラス」もテレビ朝日系で放送がスタートした。韓国エンタメの強さはどこにあるのか。「韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか」(文春新書)の著者であるソウル在住ジャーナリストの菅野朋子さんに聞いた。今回はインタビュー前編。

大ヒット韓ドラ「梨泰院クラス」の日本リメーク「六本木クラス」も話題に
大ヒット韓ドラ「梨泰院クラス」の日本リメーク「六本木クラス」も話題に

注目している韓国ドラマは「おかしな弁護士ウ・ヨンウ」

 K-POP、韓国ドラマ、映画、ウェブトゥーン……。韓国エンタメが世界を席巻している。日本でもBTS、TWICE、SEVENTEENのほか第4世代ガールズグループと呼ばれるaespa(エスパ)、IVE(アイヴ)、宮脇咲良が参加しているLE SSERAFIM(ル・セラフィム)らが続々と上陸。Netflixの大ヒットドラマ「梨泰院クラス」の日本版リメークである「六本木クラス」もテレビ朝日系で放送がスタートした。韓国エンタメの強さはどこにあるのか。「韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか」(文春新書)の著者であるソウル在住ジャーナリストの菅野朋子さんに聞いた。今回はインタビュー前編。(取材・文=鄭孝俊)

――韓国エンタメの進化が早いです。日本でも近年とくに韓国エンタメが存在感を放っています。

「日本で韓流のグローバルパワーが広く意識されたのは2020年からだと思います。韓国映画『パラサイト 半地下の家族』がカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝き、米アカデミー賞でも4冠を達成しました。Netflixの韓国ドラマ『愛の不時着』や『梨泰院クラス』が日本で大ヒットし、BTSの『Dynamite』が米ビルボードHOT100で1位を達成、さらに韓国の大手芸能事務所JYPエンターテインメントがプロデュースしたK-POP初の日本人ガールズグループ・NiziUのオーディションが日本テレビで放送され人気を呼びました。韓流はなぜこれほどパワフルなのか……。日本人の知人からよく聞かれるようになったのはまさにこの頃からです。それも韓流に関心がなかったり敬遠したりしていたような人々たちが韓国エンタメに関心を持つようになっていました」

――韓流を敬遠していた40~50代の男性も「愛の不時着」や「梨泰院クラス」にハマったと聞きます。

「『愛の不時着』を制作したCJグループ傘下のスタジオドラゴンは韓国最大規模のドラマ制作会社で、ヘッドハンティングしてきた演出家、脚本家、プロデューサーら韓国を代表するクリエーター230人あまりが所属し年間30本ほどのドラマを発表しています。これまで『トッケビ 君がくれた愛しい日々』『愛の不時着』『海街チャチャチャ』などのヒット作品を生み出しました。韓国ドラマの世界的人気に伴い、俳優の報酬やモチベーションも上がっています。Netflixやディズニープラスなどで世界配信されれば俳優の認知度も上がって世界的な人気を集めることもできますから当然、演技にも力が入ります。“俳優として世界的に認められたい”という俳優の意欲もドラマのクオリティーをさらに高めているように思います。ちなみに日本のドラマの海外輸出額は2018年度で約33億円でしたが、スタジオドラゴンの2020年の売り上げは約525億円に上ります。スタジオドラゴン1社の売り上げだけで日本の7倍にもなります。スマホ、タブレット、定額見放題のサブスクリプションの普及で韓国の制作会社は世界中の視聴者を相手にクオリティーの高いドラマを発信し続けています」

――CJグループはもともとサムスン財閥の「第一製糖」という砂糖の会社ですね。

「サムスン創業者一族の後継者問題を背景に97年に完全に分離してエンタメ産業にも進出しました。グループ副会長のイ・ミギョン氏はポン・ジュノ監督に惚れ込んで『パラサイト』に約12億5000万円、米仏韓合作映画『スノーピアサー』に約40億円を投資しています。彼女は1958年生まれでソウル大学卒業後、米ハーバード大学で修士を、中国の復坦大学では博士号を取得していますが、ハーバード大学大学院でアジア地域学を専攻していた時に韓国という国が知られていないことにショックを受けて、韓国エンタメを広めようと思ったとインタビューで語っています。95年にはスティーブン・スピルバーグ監督が運営するドリームワークス社に投資しており、2019年にはNetflixがスタジオドラゴンの株式4.9%を取得するなど提携関係を強め、Netflixとドラマの共同企画や制作をすることでグローバル市場への進出を加速させました。他にも『梨泰院クラス』を制作したSLL(Studio LuluLala、旧JTBCスタジオ)、韓国の民放テレビ局SBSのドラマ制作会社スタジオSなど、販路も限定されないスタジオ形式のドラマ制作会社がどんどん増えています」

――最近、注目している韓国ドラマはありますか。

「現在、放送中の『おかしな弁護士ウ・ヨンウ』(邦題ウ・ヨンウ弁護士は天才肌)は自閉スペクトラム障害を持つ女性弁護士が主人公で、韓国では大旋風を起こしています。少し前にヒットした『私たちのブルース』にもダウン症候群の女性が登場しました。絵を描く役柄で登場しますが、彼女は実際にも画家で、『自分の容貌が周りの人と違う』と他人の視線を怖れていたのが絵を描くことによって外に出られるようになったとインタビューで話していました。このふたつのドラマのように障害を持つ人を自然な姿で描いた作品はこれまではなかったといわれていて、社会の偏見や不条理に迫っていて唸(うな)らされました。Netflixで世界的に大ヒットした『イカゲーム』も格差や不平等など世界が共通して直面している問題を真正面から扱っていて、韓国ドラマが社会問題にコミットするのは当然のようになっています。そうした問題意識がエンターテインメントの領域を広げているようです。日本のエンタメには見られない広がりではないでしょうか」

□菅野朋子(かんの・ともこ)1963年生まれ。中央大学卒業。カナダ、韓国に留学。出版社勤務、「週刊文春」記者を経てフリーに。著書に「ソニーはなぜサムスンに抜かれたのか」「好きになってはいけない国。」(共に文藝春秋刊)、「韓国窃盗ビジネスを追え 狙われる日本の『国宝』」(新潮社刊)などがある。ソウル在住。

次のページへ (2/2) 【動画】「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」主演女優のパク・ウンビンの素顔
1 2
あなたの“気になる”を教えてください