【週末は女子プロレス#60】CA内定蹴ってプロレスの道へ フェリス卒“お嬢さま”の決断「チャレンジャーな道を」
桜井まいが初めてプロレスを観戦したのが2019年の夏だった。あれから3年後、まさか自分がプロレスラーとして大きな勝負に臨むことになろうとは、当時は知る由もなかっただろう。
3年前に知った“プロレス”
桜井まいが初めてプロレスを観戦したのが2019年の夏だった。あれから3年後、まさか自分がプロレスラーとして大きな勝負に臨むことになろうとは、当時は知る由もなかっただろう。
桜井は中学高校を品川女子学院、大学はフェリス女学院を卒業した。本人に自覚はなかったものの、世間で言われる「お嬢さま育ち」。しかも、大手航空会社のキャビンアテンダントとして就職も内定していた。とはいえ、これは両親から「就職活動を一応してから将来を決めなさい」と言われていたからであって、必ずしも本人の意志ではなかった。大学入学後、サークル活動をきっかけに芸能関係の仕事もするようになり、「将来は安定した仕事よりチャレンジャーなことをしたい」と考えていたのだという。
そんな桜井はある日、芸能関係の知人に誘われプロレスを見にいくことになった。このとき、メインのリングで闘っていたのは安納サオリと才木玲佳。タイトルを懸けて対戦していた2人に桜井は感銘を受けた。とくに安納は同い年と聞かされ、衝撃を受けた。
「行く前まではちょっと怖いなと思っていたんですけど、私と同い年の女性がこんなに頑張ってるんだと思うと、心がすごく動かされましたね。痛い思いをしながらも立ち向かっていく姿がすごくカッコよかったです」
プロレス観戦に誘われたのは、アクトレスガールズへの勧誘でもあった。そして桜井は自分の意志で入門を決め、練習生を経てプロレスラーになった。「ここもまた、チャレンジャーな道を選びましたね」と言って笑った桜井だが、当然、練習は厳しかった。
「練習生になってはみたものの、いざやってみると受け身がすっごい痛かったんですよ。特に後ろ受け身が難しくて、こんなに痛いんだと思って。あと、ロープがメチャクチャ痛くて、デビューできるのかなって不安が頭をよぎりました。こんな痛い思いをしている先輩たちをすごく尊敬しながら練習してましたね」
20年2月11日の青野未来戦で、桜井はデビュー。「デビュー戦のときは本当にたくさんの方に応援されて、紙テープもいっぱい飛ばしてもらいました。そんなことって、普通の人生じゃありえないじゃないですか。応援されるってこんなに気持ちいいんだと知って、うれしかったですね。また、こんなに痛い思いしたのも初めてで(苦笑)。でも、終わってみると楽しいとかうれしい気持ちの方が大きかったので、プロレスもっともっと続けていこうと思いました」。
お嬢さま的な見た目とは裏腹に、チャレンジャーで負けず嫌いな性格はプロレス向きと感じた。プロレスを好きになったし、やる気もあった。が、リングではなかなか結果が出なかった。試合数も少なく、他団体へ出稽古に行く機会もなかった。プロレスをうまくなりたい、プロレスで強くなりたいと考えていた彼女にとって、芸能活動との並行はかえって足かせになっていたのかもしれない。
2021年7月にはアクトレスガールズを退団
昨年7月、桜井はアクトレスガールズを退団した。年内でプロレス団体としての活動が終了になると聞かされ、いち早く動いたのが桜井だったのだ。団体に残りエンターテインメント公演にシフトするか、退団してプロレス界に出ていくかの二者択一を迫られた。また、これを機に芸能、プロレスとも引退したメンバーもいる。
「私はプロレス引退したくないと思いました。でも、他団体に出たこともないし、キャリアもないから伝手がない。この先どうしようと途方に暮れて、月山(和香)とも話し合いました。そんなとき一番真っ先に浮かんだのがジュリアさんのいるスターダムだったんです」
当時のジュリアはアイスリボン所属として安納のAWG王座にも挑戦しており、桜井の目にも留まっていた。
退団が明らかになってから10日後のスターダム後楽園大会で参戦を表明。8・13後楽園でいきなりウナギ・サヤカの保持するフューチャー・オブ・スターダム王座挑戦という異例の初参戦を果たすと、「スターダム・チャレンジ」と題する10番勝負がスタートした。
実績のない桜井には過酷なシングルマッチが続いたが、これが後々生きることとなる。プロレスを続けたくて相談した月山も、あとからスターダムに合流した。10番勝負の最終戦(21年9・25大田区)が月山戦。ここで桜井はシングルマッチ、スターダム、10番勝負の3つの初勝利を一度に手にしたのだった。
スターダム参戦と同時に中野たむ率いるCOSMIC ANGELS(コズミックエンジェルズ)に加入した桜井。しかし、今年2月にはジュリアからの誘いもありドンナ・デル・モンド(DDM)にユニットを移籍した。
芸能活動も一区切りついたことから、より強くなりたいとの気持ちが大きくなったのだ。実際、DDMに移ってからはジュリアの指導が功を奏し試合内容が上昇。それにともない積極的アピールも目立つようになった。
初戴冠こそならなかったものの、5・28大田区ではジュリアとのコンビで葉月&コグマ組のゴッデス・オブ・スターダム王座に挑戦。6・26名古屋では桜井が名乗りを挙げ、鹿島沙希&スターライト・キッド&渡辺桃組のアーティスト・オブ・スターダム王座に3WAYマッチで挑んだ。さらには、ジュリア狙いで乗り込んできた“デスマッチ&ハードコアユニット”プロミネンスの世羅りさ&鈴季すず組との対戦に立候補。ジュリアが相手の土俵に挑むハードコア戦に、自らの意志で出ていったのだ。もちろん、桜井には初体験の試合形式である。
7・23名古屋で実現したこの試合で、桜井は入場ゲートに使われる鉄柱を担いで登場。意外なほどの適応能力を見せつけ、敗れはしたものの「スターダムの選手たちが経験していない経験をできたことは大きいし、5★STAR GPに向けてさらに強くなった桜井まいをみなさんにお見せしたいと思いました」とコメント。本稿掲載の7月30日、大田区総合体育館(7・31との2連戦)で開幕するシングルリーグ戦「5★STAR GP2022」に向けて、気持ちを新たにしたのだった。
予選リーグが自信に
今年は史上最多の26選手が参戦、スターダムの年間最大シリーズと言える「5★STAR GP」に、桜井も出場する。しかしながら最初からエントリーが決まっていたわけではなく、残り3枠をかけた予選リーグを勝ち抜いての初出場だ。
6・4水戸から6・28後楽園にかけて開催された予選リーグでは、若手中心の10選手から上位3名が本戦に進出できるルールになっていた。リーグ戦では、こちらも元アクトレスガールズの壮麗亜美が4勝0敗のぶっちぎりで参戦を決め、桜井は飯田沙耶と同点2位で滑り込んだのだ。
そして迎える本戦で、桜井は朱里、中野、林下詩美、AZM、コグマ、舞華、ひめか、テクラ、ウナギ、鹿島、世羅、SAKIと公式戦で対戦する。なかでも意識しているのは中野、ウナギとの公式戦だ。中野を裏切り桜井はDDMに移り、ウナギには初参戦時でいきなりタイトルをかけたとあって、両者ともコズエン離脱後の成長を見せるにはうってつけの相手でもあるからだ。
また、元DDMのワールド王者・朱里とは7・2大阪の再戦でもあり、舞華、ひめか、テクラとはこうしたリーグ戦でもない限り組まれることのないDDM同門対決。前・赤いベルトの王者・詩美、ハイスピード王者AZM、ゴッデス王者コグマ、アーティスト王者・鹿島とチャンピオンクラスとの対戦も続き、ハードコアで対戦した世羅との再戦、元アクトレスで最後のAWG王者SAKIとの再会も待っている。初出場ながらどれをとっても意味のあるカードとあって、10・1武蔵野の森での最終戦まで目が離せそうもない。
それにしても、予選リーグから、さらにさかのぼれば初参戦当時の10番勝負からシングルのリーグ戦がずっと続いているようなものではないか。「10番勝負があって打たれ強くなったと思うし、予選リーグでリーグ戦の空気は味わえたと思います。なので、自分の準備はできています」と桜井は言う。
さらには「先日、朱里さんとシングルをして次(8・13島根)がより楽しみになりました。いま、シュートボクシングのジムに通って練習しているものがあるんです。5★STAR GPで出せたらなと思ってますね」と、「準備」のひとつも話してくれた。初参戦からの積み重ねを自信に換えて、3年前の初観戦時には想像もできなかった大勝負に臨むこととなる。