レジェンドたちの若き日の姿がよみがえる 新日本プロレス道場でのミニ花火大会の思い出

夏の風物詩といえば花火大会。だがコロナ禍で2020年の夏以降は中止、延期が相次いだ。今年は開催するところ、しないところと分かれているようだ。

ターザン後藤さんも天国から星の窓を開けて花火を楽しんでいるに違いない【写真:柴田惣一】
ターザン後藤さんも天国から星の窓を開けて花火を楽しんでいるに違いない【写真:柴田惣一】

毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.105】

 夏の風物詩といえば花火大会。だがコロナ禍で2020年の夏以降は中止、延期が相次いだ。今年は開催するところ、しないところと分かれているようだ。

 東京・世田谷区野毛にある新日本プロレス道場は、多摩川の近くにある。かつては「たまがわ花火大会」が毎年大々的に開催され、大勢の見物客でにぎわっていた。

 新日本道場は花火見物には格好の立地なのだが、夏は興行のシーズン。地方巡業も多く、しかも花火大会は週末開催とあって、試合とかち合ってしまう。選手が多摩川の花火大会を楽しむことは難しかった。「こんなに近いのにね」「ああ、見たかった~。田舎の花火大会を思い出すなぁ……」体は大きくても10代後半や20代前半の若者たちは、二子玉川の各所に貼られた花火大会の案内ポスターを見て、ため息をついていた。

 ある年の夏。「今年も見られなかったね」と肩を落としてガッカリしていたが「だったらみんなで花火しようよ!」と誰かが言い出した。「そうだ! それがいい」と急に元気になる。夏休みで遊びに来ていた地方のプロモーターの息子も加わり、夏のイベントが電撃決定である。

 近所のお店で「よい子の花火セット」をいくつも買い込んで、多摩川の土手で花火大会と相成った。チャッカマンなどという便利なものもまだない時代。ロウソクに火をつけお皿に乗せ、バケツにくんだ水も用意。準備万端で花火大会が始まった。

ヤングライオンたちが線香花火に思いを馳せた

 今のような色とりどりの花火はなかったが、線香花火、短い筒に入った吹き出す花火、ネズミ花火、小さな箱に入った置き型の「ドラゴン」という花火。それら何種類かのセットだった。一番多く入っていたのは、線香花火。みんなで、いかに長く燃えているかを競った。玉が落ちたら終わり。揺らさず静かに持っていてもいきなりポタッと落ちてしまうこともあるし、弱々しい発火でもいつまでも長く楽しめる場合もある。

 座っていた方がいいのか、立っていた方が長く燃えるのか。いろいろな方法を試していたが、風向きなどの関係もあるのか、これが一番といった結論は出なかった。うっかりすると足の甲や指先に、線香花火の火玉が落ちてしまう。「アチチ!」と大騒ぎ。「花火をするときは危ないから、サンダルやげたではなく、靴を履きなさいって、田舎のばあちゃんが言っていた」としたり顔の者もいた。みんな童心に帰ってワイワイと輪ができあがる。

「線香花火といってもいろいろあるんだねぇ。パッと燃えてパッと散るのも格好いいけど、少しでも長く燃えていたいよね」とつぶやく者がいた。自分のこれからの選手生活に思いをはせ、花火を見つめるヤングライオンたち。その後、長らく活躍した人、ケガ等で志半ばにして引退した人、別の道に進んだ人、今でも現役で頑張っている人……。各人それぞれのリングで頑張っている。人生いろいろだ。

 カナカナカナ……。夏の終わりを告げるヒグラシの鳴き声が思い出される。

 花火には鎮魂の意味もあるという。死者の霊をなぐさめるため、天(夜空)に打ち上げられるそうだ。そのため7月のお盆や8月の旧盆など、夏の時期に開催されることが多いという。

 先日、ベランダから花火が見えた。どこの花火大会だろうか。ターザン後藤さん、青柳政司館長……。今年、亡くなった選手の顔が浮かんでは消えた。大輪の花火に向かい、思わず手を合わせた。

次のページへ (2/2) 【写真】青柳政司館長もこの笑顔でプロレス界を見守っていることだろう
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