元AKB48後藤萌咲がミュージカル初挑戦で受ける刺激 自身の経験と重なる物語、名優との再共演

モデルや女優として活動する後藤萌咲が、自身初となるミュージカル「塔の外のランウェイダンス」(8月7日開催、日暮里サニーホール)に出演する。国民的アイドルグループ「AKB48」を卒業して3年、役者の道で「ありのままの自分」を届けようと日々奮闘している。

後藤萌咲は自身初のミュージカルに挑戦する【写真:小田智史】
後藤萌咲は自身初のミュージカルに挑戦する【写真:小田智史】

「塔の外のランウェイダンス」で主人公の従姉妹・宮沢明日香役を担当

 モデルや女優として活動する後藤萌咲が、自身初となるミュージカル「塔の外のランウェイダンス」(8月7日開催、日暮里サニーホール)に出演する。国民的アイドルグループ「AKB48」を卒業して3年、役者の道で「ありのままの自分」を届けようと日々奮闘している。(取材・文=小田智史)

 今回、後藤が出演する「塔の外のランウェイダンス」は、日本で唯一、知的障害専門の芸能プロダクション「アヴニール」が世に投げかける作品。知的障害と向き合いながら生きる主人公・岩崎未来役を、実際に知的障害を抱える女優・松下奈津希が演じ、その従姉妹で同居する健常者の宮沢明日香役を後藤が演じる。作品で描かれている世界は、後藤にとって決して他人事ではない、身近なものだった。

「母方の叔父がダウン症で、障害のある方が近くにいるという環境が小さい頃から当たり前だったんです。叔父さんと一緒に歩くと、どうしてもそちらに周囲の目が行く。障害があることは分かっていましたけど、AKB48に加入する前は『なんでみんな見ているんだろう?』と思っていました。障害があると、自分がやりたいことをあまり言いたがらないし、『これをやってみたい』と主張も簡単ではない。無意識のうちに、差別をしたり、偏見を持ってしまうことがあるかもしれません。でも、『塔の外のランウェイダンス』のストーリーにもあるように、持っている悩みや葛藤はみんな同じ。私自身、稽古をしていくなかで、考え方が少し変わりました」

 後藤は共演者たちとのコミュニケーションを大切にしているという。抱えている障害やバックグラウンドはさまざまだが、挑戦を惜しまず、目の前のことに一生懸命な姿は、後藤にとっても大きな刺激だ。

「現場は常に明るくて、みんなパワフル! 今回ダンスが難しくて、私も苦戦しているんですけど(苦笑)、『ダンスが楽しい』『歌も楽しい』という方たちばかりです。車いすモデル役で、普段は車いすで殺陣をやっていらっしゃる神威龍牙さんは『ここどうですか?』と聞いてくださいますし、作業所員役の水口ミライさんからは聴覚障害があるなかでも、『ダンスを教えてくださり、ありがとうございました!』とインスタのDM(ダイレクトメッセージ)をいただきました。逆に、人見知りで話しかけられない若い子もいるので、稽古場ではできる限りみなさんと話すようにしています」

2016年以来の共演となる西岡德馬との掛け合いも見どころの1つだ【写真:小田智史】
2016年以来の共演となる西岡德馬との掛け合いも見どころの1つだ【写真:小田智史】

初ミュージカルに不安も、歌詞を表現する楽しさにやりがい

 新型コロナウイルス禍の2年間に、15作もの演劇に出演し続け、キャリアを積み上げてきた後藤だが、ミュージカル挑戦は初。「塔の外のランウェイダンス」は全16曲で構成されており、これまでとは違う表現方法を意識しながら稽古に挑んでいる。

「ミュージカルと聞くと壮大なイメージを想像するかもしれません。ただ、この作品は日常芝居というか、会話劇みたいなところがあるのでそんなに作り込んではいなくて、会話の中で気持ちを主張する歌が多いです。主人公の未来と2人で歌うシーンがあったり、歌詞の表現の仕方、声の使い方とか、AKB48のときとは全然違うので不安もあります。でも、AKB48を卒業して以降、歌詞を表現する難しさや楽しさについてずっと考えてきたので、すごくやりがいがあります」

「塔の外のランウェイダンス」では、明日香の祖父役・岩崎俊太郎を名優・西岡德馬が演じる。後藤にとっては、AKB48に在籍していた2016年の初舞台「マジすか学園 ~Lost In The SuperMarket~」以来の共演。「西岡德馬さんのお孫さんと私が同い年らしくて、本当のおじいちゃんみたいな感覚で接しさせていただいているので、明日香も表現しやすいです」と後藤は笑顔で話す。

「初舞台のときは西岡德馬さんと絡む役ではなかったので、最初は私にピンときていなくて(笑)。ツイッターに当時の写真をあげたら、次の日の稽古で声をかけてくださり、『AKB48を辞めたんだ』とかお話しました。これまで一緒に稽古をさせていただいて、西岡德馬さんは自分がどう思うかをすごく大事にされている方だと感じました。演出家の方、脚本家の方と念入りにお話をされていますし、『明日香だったらこうするんじゃないかな』とアドバイスもいただきました。なるほどと思ったのは、障害のある方への接し方と、健常者の明日香に対しての接し方が違うこと。おじいちゃんとしての在り方、明日香としての在り方を考えたうえでの演技は、すごく勉強になります」

「ありのままの私を見てほしい」。後藤萌咲は自身の演技に熱い思いを込める【写真:小田智史】
「ありのままの私を見てほしい」。後藤萌咲は自身の演技に熱い思いを込める【写真:小田智史】

「自然体の演技」を自分のカラーに

 後藤は13年の「第1回AKB48グループ ドラフト会議」で、当時AKB48チームKキャプテンだった大島優子が1巡目で交渉権を獲得してくれたその日から、大先輩の背中を追い続けてきた。アイドルとして、そして卒業後は役者として憧れの存在だが、自身が演じるうえでは「自然体」を追求しているという。

「私は大島優子さんがキャプテンのチームKに選んでいただきました。ドラフト会議で『たとえ指名がかぶったとしても、ここに運をすべてささげたい』と言ってくださったのが本当にうれしくて。そこから、大島優子さんを自然と目で追うようになりました。アイドルとしての在り方、女優としての在り方、すごく尊敬しています。これまで私が出演させいただいたのは日常舞台が多かったので、あまり作り込まずに自然体でできる役でした。自然体で演じるほうが自分も楽しいし、『塔の外のランウェイダンス』では明日香の生き方にもきっと共感していただけるはず。ありのままの私を見てほしい。AKB48のこと、家族のこと、これまで経験してきたことを生かせたらいいなと思います」

 後藤は1年前、母親が突然の脳梗塞で手術を受けた。障害のある叔父の件を含め、さまざまな経験をしてきた後藤が今回、「塔の外のランウェイダンス」、そして明日香役と出会うことになったのも何かの運命かもしれない。

「母も脳に障害を抱えることになりましたが、かけがえのない親であることに変わりはなく、ふとしたときに私のことをすごく理解してくれているなと感じます。3歳からキッズモデルをやったのも、『AKB48を受けてみたら』と芸能の道に入れてくれたのも母。私が一番向いている職業へ後押ししてくれて、感謝しているからこそ、恩返しができるように頑張らなきゃいけないと思います。

 今回、『塔の外のランウェイダンス』では、仕事や恋愛のことで悩む明日香を演じさせていただきます。悩みや個性は人それぞれ違うんだと改めて教えてくれる、そして障害を抱えている方への接し方を考えさせられる作品だと思います。西岡德馬さんとの掛け合いにも注目してほしいし、ダンスも見ていただけたらうれしいです」

 初ミュージカルの経験は、後藤が女優としてさらに大きく羽ばたいていくうえで、貴重なものになるだろう。

□後藤萌咲(ごとう・もえ)2001年5月20日、愛知県出身。13年「第1回AKB48グループ ドラフト会議」で1巡目指名を受けてAKB48入り。19年にAKB48を卒業し、現在は雑誌「JELLY」のレギュラーモデルを担当、舞台女優としても精力的に活動している。好きな言葉は、憧れの存在である元AKB48大島優子が座右の銘にしていた「己を信じ精進せよ」。「バチェラー」など恋愛リアリティー番組を見ることが最近のマイブーム。

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