「THE MATCH」調整役が明かす“裏話”「無理やりジャッジの基準を合わせなかった」理由とは
ついに行われた那須川天心VS武尊戦。ほぼ7年かかって実現した「世紀の一戦」は、「THE MATCH 2022」(6月19日、東京ドーム)のメインで行われた。あれから早くもひと月が経とうとしている。K-1、RISE&シュートボクシングのトップファイターがしのぎを削ったその日、大会の調整役になったのがRIZINだった。そこで今回はRIZINの笹原圭一広報を直撃。今回は天心VS武尊の今後はどうなっていくのかを聞いた。
ジャッジは基準にしてもすごく気を使いました
ついに行われた那須川天心VS武尊戦。ほぼ7年かかって実現した「世紀の一戦」は、「THE MATCH 2022」(6月19日、東京ドーム)のメインで行われた。あれから早くもひと月が経とうとしている。K-1、RISE&シュートボクシングのトップファイターがしのぎを削ったその日、大会の調整役になったのがRIZINだった。そこで今回はRIZINの笹原圭一広報を直撃。今回は天心VS武尊の今後はどうなっていくのかを聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
――天心VS武尊は、結果的に5-0のフルマーク判定で天心選手が勝利しました。
「ちゃんと決着がついてよかったなと思いました」
――例えば、判定をつけずにドローという選択をする判断はなかったんですかね?
「それはなかったです」
――1Rで天心選手がダウンを取りました。
「あのダウンで明確な差が出ましたけど、もし内容的に拮抗していて、差がなかった場合ということも想定していたので、ジャッジに関してはすごく慎重に準備をしました」
――「世紀の一戦」と呼ばれているだけに。
「大会前に競技陣でミーティングをしたんですけど、無理矢理ジャッジの基準を合わせなかったんですよ」
――そうだったんですね。
「『THE MATCH』の基準はこうなりますので、この通りにジャッジングしてください、みたいなことをすると、たぶんそれに引きずられて、今までと違う、おかしなジャッジングになる可能性があると思ったんです」
――普段通りのジャッジをしてほしいと。
「ええ。そしたら、当然、競技陣もこのビッグイベントに関われることをすごく誇りに思っていて真摯に向きあってくれたので、おおむね、初めて集まってやったにしては、安定したジャッジングじゃなかったのかなと思っています」
――ジャッジに関しては奥が深いし、見る場所によっても見え方が変わってしまう部分もあるので、しょうがない部分もあると思うんです。
「ただ、天心VS武尊に関しては、本当に重たい試合だったので、5ジャッジや、オープンスコアにしたこともそうですし、この試合を競技的にも成立させるために注力したってことです」
――RIZINでは5ジャッジ制度は採用していなかったですよね。
「ええ。でも、みんな簡単に言うわけですよ。『5ジャッジでいいじゃん』みたいな(笑)。でも、実際にそれを実務に落とし込んで、運用するのって本当に簡単な話じゃないんですよね。例えば、5ジャッジで5人を選ぶにしても、誰でもいいわけじゃない」
祭りのあと「僕、撤収は好きなんですよ(笑)」
――レフェリーに第三者の外国人を入れたほうがいい、という声もありました。
「それも検討したんです。ただ、果たして第三者といえどもこの試合の重さを理解し、キックボクシングのレフェリンングができる人が果たして何人いるのか。諸々検討した結果、RISE、K-1、RIZINをすべてさばいたことがある、豊永稔さんにレフェリーにお願いしようということになったんですね」
――ちなみに大会が終わると、撤収作業があるわけですけど、あっという間に「祭りのあと」のようになりますよね。
「僕、撤収は好きなんですよ(笑)」
――よく笹原さんのツイッターにその風景が投稿されています。
「無事に終わったという安心感に浸れるんですよね」
――東京ドームって、さいたまスーパーアリーナやその他の会場とは、また違った趣がありますよね。
「東京ドームって僕にとってはすごく思い入れのある会場ですね」
――昨年の6月13日に「RIZIN.28」で、RIZINとしては初となる東京ドーム大会を開催しています。
「そうそう。その時に(巌流島主催者/元K-1イベントプロデューサーの)谷川貞治さんと話していたら、『東京ドームって、なんか色気があるんだよねぇ』って言っていて。珍しくいいことを言うなあと思ったんですけどね(笑)」
――東京ドームの場合、場所もひとつの主役になる気がします。
「今の若い人たちがどう思うのかは分からないですけど、僕には思い入れがありますし、RIZIN初のドーム大会のポスターは東京ドームだけでしたからね。そうしたいと思ってつくりましたから」
――いつもは選手の顔が並ぶのに、あえてドームの外観にしたんですね。
「それだけ特別な場所みたいな感じがありますね」
――あのポスターのコピーは「荒野を超えて、戻って来た。」でしたけど、今回の天心VS武尊のポスターも渋かったですね。キャッチコピーもよかったし。あれは笹原さんが作ったんですか。
「『俺の前に立ちはだかってくれて、ありがとう。』ですね。せんえつながら笹原作です(笑)」
――あれはよかったです。
「あの言葉は、去年の12月24日にあった天心VS武尊の会見の時に思いついた言葉です」
――あ、あの会見で!
「ええ。あの時に武尊選手が天心選手のことを、『彼がいなければよかった、という思いもあったけれど、いてくれたからこそ頑張ってこれた』って言ったんです。それを聞きながら、いいこと言うなあと思って。その時に思い浮かんだ言葉ですね。だからどこかで必ず使おうと思っていたんです」
天心&武尊に望むこと
――実際、お互いの存在があったからこそ、今までやれた面はあったでしょうしね。
「例えば、彼らがLINEでつながっていてやりとりしている、なんてことはないと思うんですよね」
――あってほしくないですね、それは。
「ほとんど言葉を交わしたことはないと思うんですよ。でも、お互いの存在を認め合えるって普通はなかなかないじゃないですか。倒すべき敵でありながら、その敵は自分と同じくらいの練習を積み、自分と同じくらいの気持ちを作って自分の前に立っている。つまり相手の中に自分を見ていると思うんです。それっとほとんど信頼関係じゃないですか」
――そうですね。
「結果は白黒つきましたけど、ずっと語り継がれるんじゃないですかね」
――試合から10日後にあった武尊選手の会見では、「(天心とは)現役を終わるまでは仲良くはなれない」と言っていましたね。
「素晴らしいですね」
――そう思います。
「今どき、そういうことを言う人は減りましたもんね。終わった後、すぐにYouTubeでコラボしますから(苦笑)」
――例えば、アントニオ猪木の引退試合(1998年4月4日、東京ドーム)に、かつて「世紀の一戦」を闘ったモハメッド・アリが来たりとか、猪木が初めて北朝鮮大会(1995年4月)をやった時にもアリは参加したりしたんですけど、ここぞ、というときしか、猪木とアリは接点を持たなかったんですよ。
「僕、天心VS武尊のストーリーはこれで終わったと思っていないんですよ。むしろ、はじまったくらいの感じです。天心選手がボクシングに進んで、武尊選手はこの後、どうなるか分からないですけど、二人のライバルストーリーは全然終わってないですよ」
――天心選手はボクシングに進むとして、武尊選手はMMAをやるとかいう話も聞いたりしますけど、そうなったらもう榊原信行CEOの出番じゃないですか。
「武尊選手がどういう進路を選ぶのか。ボクシングに行くかもしれないですよ」
――再戦は、ボクシングのリングでやりますか。
「未来のことは全くわかりませんが、まだまだ二人の格闘技人生は続くことは確かです」
――笹原さん的には、次の当面の目標は、「RIIN.37」(7月31日、さいたまスーパーアリーナ)ですね。
「目標というか、毎大会、スクラップ&ビルドで繰り返しやっているので、一般的に朝9時から午後5時まで働いて、土日が休みで……という仕事とは違うので面白い仕事だとは思いますね。こんな刺激的で楽しい仕事はないと思います」
――毎日が非日常的だと。
「どんな仕事でもそうだと思いますけど、自分が積極的に、あらゆることに関わっていくと、自分はすごく忙しくなりますけど、やり終わったあとの充実感というか達成感は半端ないですよね。だから何の仕事でもそうですけど、一生懸命やったほうがいいですよ。繁盛している居酒屋さんとか行くと、店員さんが必死に働いているじゃないですか。ああいうのを見ると『あ、俺が皿洗いしますよ!』って言いたくなりますもん(笑)。今の僕がやっている仕事って、まさにそういうことです」