荒木宏文が一人二役 演じるのは対峙する2人「生の舞台ならではのアナログなやり方で」
俳優の荒木宏文(39)が一人二役を務める主演舞台「漆黒天 -始の語り-」が8月5日に東京・サンシャイン劇場で幕を開ける。公開中の映画「漆黒天 -終の語り-」では記憶を失くした流浪の剣士を演じた荒木。映画に連動する舞台ではその剣豪が記憶を失くすまでの日々が描かれている。映画の脚本に続き舞台では作・演出を務める末満健一(46)と、稽古真っ最中の荒木に話を聞いた。
舞台「漆黒天 -始の語り-」作・演出を務める末満健一と対談
俳優の荒木宏文(39)が一人二役を務める主演舞台「漆黒天 -始の語り-」が8月5日に東京・サンシャイン劇場で幕を開ける。公開中の映画「漆黒天 -終の語り-」では記憶を失くした流浪の剣士を演じた荒木。映画に連動する舞台ではその剣豪が記憶を失くすまでの日々が描かれている。映画の脚本に続き舞台では作・演出を務める末満健一(46)と、稽古真っ最中の荒木に話を聞いた。(取材・文:西村綾乃)
同作は、映画と舞台を完全連動させるプロジェクト「ムビ×ステ」の第3弾。第1・2弾と異なり、末満ひとりが映画と舞台、両方の脚本を担当している。
末満「荒木くんとは、2019年に舞台『COCOON月の翳り星ひとつ』でご一緒したことがありました。そのときはすでに出来上がったTRUMPシリーズの中に入ってもらった感じだったので、今回はイチから一緒に世界を造り上げるという感じですね。荒木くんは感覚と理詰めの両方を兼ね備えている面白い俳優さん。今回の舞台は荒木くんを介した世界を存分に感じてもらえるものになっていると思います。僕と荒木くんの化学反応を楽しんでもらいたいです」
荒木は江戸を騒がせる「日陰党」を束ねる旭太郎と、対峙する「討伐隊」を率いる宇内陽之介の二役を務めている。その切り替えはどうしているのだろうか。
荒木「精神的にはとても落ち着いています。まだ稽古は序盤なので、いまは大変そうなところを整理している状態です。役へのアプローチについては、映画の撮影で準備を整えることができているので、せりふの説得力はほかの舞台で初演を迎えるときよりもあると思います。正義の反対は、もう一つの正義という思いが、言霊になっているというか。混然一体になっている部分を舞台で感じてほしいです」
2人に取材をしたのは、稽古5日目。取材の準備にと受け取った台本を閉じたとき、旭太郎と陽之介が背負った宿命の重さに息苦しくなった。身体にどろりとしたものを塗られたような感覚があった。
末満「お客さんには、荒木くんの演技を通して複雑な感情に触れる物語を感じてほしいと思っています。今日、稽古で荒木くんのとある佇まいを見た時に、前後不覚に陥るような眩暈がしたんです。彼の姿を見たときに、存在の得体の知れなさにくらくらしました。書いた自分も、この物語に翻弄されている。負なるものを目の当たりにした時にしか得られない癒しがあって、お化け屋敷なんかがそうですよね。舞台では、ビジュアル的にではない、心理的なグロテスクを感じてもらえるはずです」
荒木が二役を演じるが、剣を交えるシーンなどはどう表現するのだろうか――。
末満「例えば落語では、ひとりの演者が、右を向いたり左を向いたりすることで複数人物を演じ分けたり、いろいろな手法がありますよね。今回も生の舞台ならではのアナログなやり方で臨みます。映画で伏せていたことも、舞台では明らかになる。映画も舞台もどちらも何度も楽しんでいただきたいです」
闇の世界で周囲を恨み生きてきた旭太郎。表の世界で妻子や仲間に恵まれ光りの中で生きてきた陽之介。荒木は2人の価値観を整理する中で、それぞれの性格は岐路に立ったときに下した決断によって、形成されたと結論付けた。荒木自身はどうだったのだろう。
荒木「ひとつの経験ではなくて、人間は決断をした積み重ねで構築されていきますよね。僕自身は性格形成においては、姉妹から大きな影響を受けました。姉は誰よりも美的センスがあって、妹は流行りものを見つける能力が抜群に高かった。長男として愛されながら育ててもらいましたが、「僕が一番になることができないものがある」という環境は、僕にとって大きなことでした。そして自分の感情を否定せずに、自分よりも優れているもの認めることは、僕をうぬぼれさせない人間にした。刃先は自分に向けるべきということは、この作品を通して感じたことでもありました」
□荒木宏文(あらき・ひろふみ)1983年6月14日、兵庫県生まれ。2007年に獣拳戦隊ゲキレンジャーに出演し注目を集め、その後は数々の映画や舞台に出演。近年は「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」Rule the Stageシリーズやミュージカル『刀剣乱舞』シリーズなどの人気2.5次元舞台作品に出演している。
□末満健一(すえみつ・けんいち)1976年6月18日、大阪府生まれ。佐々木蔵之介なども所属した演劇集団「惑星ピスタチオ」を経て、2002年に演劇ユニット「ピースピット」を旗揚げ。脚本・演出を手掛けた主な作品に舞台「刀剣乱舞」シリーズ、同「鬼滅の刃」シリーズ。