綾部祐二が5年間沈黙を貫いた理由 計算通りの芸人人生、45歳を前に明かした「手の内」

お笑いコンビ「ピース」の綾部祐二(44)が活動拠点をアメリカに移してから約5年の月日がたった。これまで沈黙を貫いてきた綾部だったが、2022年5月にYouTubeチャンネルを開設、7月16日には初エッセー集「HI, HOW ARE YOU?」(KADOKAWA)を発売とついに“空白の5年”について口を開いた。現在は米ロサンゼルスに住む綾部にリモートでインタビューを実施。“綾部祐二”という人間に迫った――。

リモートでの取材に応じたピース・綾部祐二
リモートでの取材に応じたピース・綾部祐二

“半生”を通して伝えたいことは「逃げることから逃げないで」

 お笑いコンビ「ピース」の綾部祐二(44)が活動拠点をアメリカに移してから約5年の月日がたった。これまで沈黙を貫いてきた綾部だったが、2022年5月にYouTubeチャンネルを開設、7月16日には初エッセー集「HI, HOW ARE YOU?」(KADOKAWA)を発売とついに“空白の5年”について口を開いた。現在は米ロサンゼルスに住む綾部にリモートでインタビューを実施。“綾部祐二”という人間に迫った――。(取材・文=中村彰洋)

 17年10月に米ニューヨークに移住した綾部。日本で脂が乗り切った当時に「ハリウッドスター」になるという“斜め上”の目標を掲げての決断は大きな話題となった。あれから約5年、現在に至るまで日本メディアへの出演は数回のみ。多くを語ることはなかった。

「5年後まで何も語らず、突然、英語ペラペラで登場するという計画を当初から決めていました。それをいかに大々的に公の場で披露するか、ということは考えていましたね。だけど、英語ペラペラとは程遠い現実。これでは映像にできないとなったときに、5年間のことを話す場を考えました。そこで本は個人的に全然やったことがないなということで書籍化しようと考えました」

 21年3月に書籍化を構想してから約1年半をかけて発売までこぎ着けた。芥川賞作家でもある相方・又吉直樹にも相談をしていた。

「本を書きたいと思ったときに、たまたま相方が芥川賞作家なので、電話して『誰か紹介してくれ』とお願いしました。そしたら『まずマネジャーに言え』と。『でも知っている人いるでしょ?』と返したら、『いや、おるけど、本を出すってそういう問題ちゃうで』と言われてしまいましたね(笑)。内容はまったく相談していません。その後、マネジャーに連絡して、KADOKAWAさんが乗っかってくれて実現しました。親も『まさか自分の息子がKADOKAWAさんから本を出すとは思わなかった』って言っていましたね。それだけで親孝行できたなと思っています」

 渡米以降、SNSでは「何やってんだ、コイツ?」をテーマに“仮の姿”を発信し続けていた。そして5年たった今、“真実”を発信することには意味があった。

「今まで自分の本心を表現するメリットがないと思っていたんです。でも、アメリカに来て、自分の人生を90歳までと考えたときに45歳は半分になるわけです。『こいつってこんなやつだったんだ』と知ってもらいたいというより、自分の中で素の部分を出しておこうという思いが強かったんです。『僕のことを誤解しないでくれ』とは思わないけれど、自分自身の中でのけじめとして『今はこういうことをやっていますよ』って言っておきたいと考えました」

 日本で活動しているときには、“男前芸人”ともてはやされる一方で“嫌われ芸人”として紹介されることもあった。少なからず誹謗中傷も受けてきたが、その割り切り方は“さすが”の一言だ。

「これまで言ってこなかったんですけど、自分でそうなるように仕掛けていました。嫌われすぎないように加減したりもしていたんです。そこに楽しみを感じてしまっていましたね。なので、自分の思っていないところで……ということが正直ないんですよ。全部自分の思うところで反応していただいてました。もちろん好感度は良いに越したことはないんですけど、結局は世間に嫌いと言われてもテレビ局さんやクライアントさんが僕を使ってくれればお金はもらえるわけです。

 全員が不快に思っているなら芸人として問題ですけど、一部の人が『面白いよな』って分かってくれていました。アンチの人たちに好きになってもらおうという気持ちはまったくありません。でも、知らない人に好きか嫌いになってもらおうっていうのはあります。なぜならゼロ、無が1番怖いんです。だから、興味ない人が何かの拍子に『こいつ嫌いだわ』って嫌いになったり、『こいつ面白いかも』ってなることは大事だなと思っています」

ネットニュースはつねにチェック「反応を見て投稿内容を変えた」

 驚くことにメディアを通して見せていた“綾部祐二”は全てが“セルフプロデュース”だったのだ。絶妙なバランス感覚を維持し続けるため、世間の声を受け取るための努力は欠かさなかった。

「自分がSNSを更新したり、何か動いたときにはネットニュースなどの確認は必ずします。『こうやって取り上げられていた』とか、『そこをイジるんだな』とか。その反応を見てインスタの投稿内容とかも変えていってましたね。コメントだったりは全然気にしていません。何を書こうがそれはその人の自由ですから」

 そんな綾部の本音が見え隠れする同著。「本当にこの本とYouTubeが初じゃないですかね。自分の中の“ある程度”を出したのは」と告白した。一方で「それでもまだいろいろ仕掛けていますけどね」とニヤリ。含みを持たせたその笑顔も綾部らしい。

「でも、仕掛けていたということをひとまずは明かした。僕がみんなを手のひらで転がしているということではないんです。ただ、全部エンターテインメントだと思ってやっています。自分の中で今回の本は1つ手の内を見せた感じですね。相方も『それを言うんや!』って驚いていました。僕の本性がどうかなんて、世間の人達は知ったこっちゃないとは思いますが、自分の中でちゃんとさらけ出したうえで45歳からの人生を心機一転、頑張りたいと思っているんです」

 22年5月には約5年間暮らしてきたNYからロサンゼルスへと拠点を移した。今後はまた、新たな“綾部祐二”を演じるようだ。

「この話をしていることすらも演じているかもしれないですからね。そんなに大きな企みではないですが、いろいろあります。手の内を100%全部はまだ出してないです。頭の中で計画しているものがあって、それに向けて種はとっくに巻き始めています。あとは『何やってんだ、コイツ?』と楽しんでもらえる方に楽しんでもらえればいいですね」

 一見すると“破天荒”な綾部の半生。しかし、そこにはしっかりと信念を持って突き進む姿があった。そんな“生きざま”を通して伝えたいことがあった。

「自分が嫌いな人たちとの時間は過ごさないほうが良いです。逃げるではなく、無駄だから切り捨てると思わなきゃダメなんです。それが家族、友達、会社、学校だろうがそんな時間でいいことなんてない。好きじゃない人たちに好きになってもらおうとするのではなく、“自分の人生に関係のない人たち”だとジャッジするべきなんです。その努力をしたほうがいい。逃げるほうがカロリーがかかるので我慢する人もいると思いますが、『逃げることから逃げないで』って思うんです。もちろん環境によっては一筋縄ではいかないことも分かります。家庭環境だったり、学校だったらすぐには転校できない。でも、そんなところにいるために『どうしよう』と考える前に『ここから逃げるためにどうすればいいんだろう』っていうのを考えてもらいたいなって思います」

 周囲の目を気にせず、自分自身に対して素直に行動し続けた綾部の発言だけに説得力がある。「これは本に書けばよかったな」と笑いながらも続けた。

「自分に1番興味ある人が自分であってほしいです。自己中であれとかそういうことではなく、自分に興味を持ってあげないと自分がスネちゃうと思うんです。生きていくうえで自分をもっと好きになって、自分に興味を持って自分のことを1番気にしているのは自分であってほしい。他人の意見を聞いて、それをしっかり受け止める一方で、己を曲げずに進んでいくことが大切だと思います。それでマイナスになることは絶対にないと思うんです」

□綾部祐二(あやべ・ゆうじ)1977年12月13日、茨城県出身。2003年に又吉直樹とお笑いコンビ「ピース」を結成。17年10月から活動拠点を米ニューヨークに移す。22年5月にYouTubeチャンネル「YUJI AYABE from AMERICA」を開設。7月16日には初エッセー集「HI, HOW ARE YOU?」(KADOKAWA)を発売。

「HI, HOW ARE YOU?」
「HI, HOW ARE YOU?」

□「HI, HOW ARE YOU?」(7月16日発売/税込み1650円)
綾部祐二の初エッセー集。2016年に拠点をアメリカに移した綾部は現在に至るまで取材に応じることなく、また帰国することもなかった。そんな綾部が渡米から5年経過した節目に沈黙を破った。綾部の人生哲学が詰まった1冊は正解の見えない世の中に1つの指針を示す人生の書とも言えるだろう。
販売サイト:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203002354/

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