34歳・細田善彦が役者業に注ぐ情熱「心に残る作品を」 15歳でスカウト、25歳で単身海外へ
江戸川乱歩原作のミステリー「人でなしの恋」が、現代劇として映画化。俳優の細田善彦(34)が憂いを秘めた青年・門野を演じている。細田は最愛の妻にも明かせない秘密を持つ男に、共感した部分もあったと語る。誰にも話していなかったという自身の“秘密”についても教えてくれた。
主演はもちろん脇役でも光る演技、映画撮影で見えた「理想の結婚相手」
江戸川乱歩原作のミステリー「人でなしの恋」が、現代劇として映画化。俳優の細田善彦(34)が憂いを秘めた青年・門野を演じている。細田は最愛の妻にも明かせない秘密を持つ男に、共感した部分もあったと語る。誰にも話していなかったという自身の“秘密”についても教えてくれた。(取材・文=西村綾乃)
物語に登場するのは一組の夫婦。1926年に発表された小説で、見合いだった2人の出会いを、映画版ではマッチングアプリに。運命の相手と結ばれ幸せな時間を過ごしているが、夫の不審な行動に気付いた妻・京子(兎丸愛美)は夫が不貞を働いているのではないかと疑いを持つようになる。
「僕が演じる門野は、『いい人との出会いで、自分を変えたい』と結婚しましたが、妻にある秘密を打ち明けることが出来ません。たとえば、アイドルや音楽など、のめり込めるほど好きなものがあることはすてきなことと思いますが、『理解してもらえないだろうな』と思って口をつぐんでしまう。隠してしまうことは僕自身もあるので、とても共感しました」
他人を欺く以外にも、相手を傷つけたくないなど、ウソにもいくつかの種類がある。
「同性、異性関係なく、人と付き合っていく中では、相手のことを思って本音とは違うことを言ってしまい、後悔することってあると思います。門野は京子との生活を守るために、遅い帰宅を残業と偽ったりウソを重ねてしまう。台本を読んでいたとき、門野のように小さなウソを積み重ねることはしたくないと思いました(笑)。何でも話せる相手が理想。相手のことを100パーセント理解できる関係は憧れです。それは理想出会って、僕自身は(感情に)ブレーキがかかりがちなところもあるので……。ありのままの自分でいることができて心地よくいられる。自分をさらけ出すことができる人と結婚したいです。……って、自分で言っていてもよく分からなくなってきます(笑)」
問いに対して、じっくりと考えてから口を開く姿に真摯(しんし)な人柄をにじませた。穏やかな印象だが、25歳のときには自分を変えようと、俳優としての活動をストップし単身海外に飛び出したこともある。
「15歳の頃に渋谷でスカウトをされてこの世界に入りました。大学を卒業して3年ほどがたったとき、学生時代の同級生との間に差があるように感じて、1年間仕事を休んでアメリカやカナダなどを周りました。毎朝『今日は何をしよう』と思う日々は刺激的で、広い世界に目を向けられるようになりました。初めて会った人とルームシェアをしたり、いま考えると無謀なところもありますが、彼らとはいまも親しくしています。コロナ禍で(約2年くらい)海外に行くことができていないので、落ち着いたらまたあちこち出向きたいですし、縁があれば移住もしてみたいです」
オスの柴犬と暮らして6年、愛犬にだけ明かす“秘密”も…
デビューから18年。執着心が強い高校生や医師などさまざまな役を演じてきた。放送中のNHK 連続ドラマ小説「ちむどんどん」ではうちなーぐち(沖縄の方言)を操り、7月公開の映画「TELL ME~hideと見た景色~」では、カリスマギタリストhideの事務所のチーフマネージャーに扮(ふん)するなど、出演作が目白押しだ。
「積み上げた年数や、出演した作品の数で力量を図ることができないのが役者。評するのは自分ではないので、多角的に感じていただけているのだとしたらありがたいことです。僕自身は撮影を終えると、その撮影で学んだ知識を忘れてしまいがちで、過去の経験を次の役にいかせていないのかもと歯がゆく感じることもあるんです。僕は3月生まれなので、この春に34歳になったのですが、周囲は35歳になる年。集まると健康の話になる“じじい同士”ですが、海外で活躍している友人もいて、着実にキャリアを重ねていると感じます。監督や共演者らから受けた刺激を役に注ぎ、見てくださる人の心に残る作品作りができるよう努めていきたいです」
オスの柴犬と暮らして6年ほどになる。自宅で台本を読んでいると、傍らにやってきて、見守ってくれるのだそう。
「台本を読んでいるとき、機嫌が悪いセリフや、怒った口調で話していると『大丈夫?』と顔を覗き込んできます。僕の口調が変わるのは台本のせいだと思っているのか、ただただ遊んで欲しいだけなのか分かりませんが、開いた本の上に身体を乗せて読めないようにしてくることもあります。覚えられないと困るので、そういうときは『これはお芝居なんだよ』と犬に説明をするんです。そうすると、おとなしく聞いているので、理解してくれているのだと思うのですが、傍から見たら犬を相手に話しかけているおかしな男ですよね。門野ではないですが、愛犬とよく話すことは誰にも話していなかった“秘密”です」
原作は大正時代に発表されたが、「現代にもつながる普遍性を感じる」と語る。「携帯電話やメールなどを使えば、どこにいてもつながりたい相手とやり取りできるようになりましたが、100年近くたっても男女の関係は変わらない。乱歩は『そうだろう、しめしめ』と思っているはず」といたずらっぽく笑った。
□細田善彦(ほそだ・よしひこ)1988年3月4日、東京都生まれ。2004年に東京・渋谷でスカウトされ芸能界入り。NTT東日本「キャラクターDENPO」のCMでデビュー。19歳で出演したドラマ「ライフ~壮絶なイジメと闘う少女の物語~」(フジテレビ系)では、いじめをエスカレートさせていく高校生を熱演。鬼気迫る演技が注目された。NHK大河ドラマ「真田丸」、「青天を衝け」、「逃げるは恥だが役に立つ」のほか、大林宣彦監督の遺作となった映画「海辺の映画館-キネマの玉手箱」など多くの話題作に出演している。海外旅行などが趣味。身長182センチ、血液型O。