女性議員の割合は193か国中164位 “オッサン社会”の日本で女性首相は誕生するのか
全国紙初の女性政治部長が、日本一の「オッサン村」である永田町の非常識と政治メディアの実態を記したのが「オッサンの壁」(講談社現代新書)だ。著者、毎日新聞論説委員の佐藤千矢子さん(57)によれば、「オッサン」とは、女性の生きづらさに鈍感な人々の象徴。世界ではニュージランド、フィンランドなどでは女性首相の活躍が目立つが、日本ではいつ、女性首相は誕生するのか。ズバリ聞いた。
毎日新聞論説委員の佐藤千矢子さん 永田町と政治メディア描いた「オッサンの壁」出版
全国紙初の女性政治部長が、日本一の「オッサン村」である永田町の非常識と政治メディアの実態を記したのが「オッサンの壁」(講談社現代新書)だ。著者、毎日新聞論説委員の佐藤千矢子さん(57)によれば、「オッサン」とは、女性の生きづらさに鈍感な人々の象徴。世界ではニュージランド、フィンランドなどでは女性首相の活躍が目立つが、日本ではいつ、女性首相は誕生するのか。ズバリ聞いた。(取材・文=平辻哲也)
「オッサンの壁」は、全国紙初の女性政治部長を務めた佐藤さんが「なぜ、永田町と政治メディアにオッサンが多いのか」を解き明かし、自身のキャリアを振り返ったもの。オッサンばかりの永田町と新聞社で、もまれた佐藤さんだったが、コロナ禍で生きづらさに直面している女性の姿に改めてショックを受け、自身もそんな社会に同調する「オッサン」であったという反省から書き記した。
オッサン社会は永田町だけではなく、佐藤さんが属する新聞メディアも同じ。「執筆はそんなオッサン社会に石を投げることになるので、取材がしにくくなる、会社に居づらくなることも考えたのですが、政治部長をやったことが自信にもなりましたし、批判は受けて立つくらいの気持ちで書きました」と肝を据えた。
永田町や社内の反響はいかに? 「一番面白かったのは、リベラルな政策通の自民党議員から『オレに分かるかな』って(笑)。近い人は褒めてくださったのですが、多くの人は沈黙ですね。政治記者はオッサン密度が高いんです。永田町エリートになれば、なるほど、ひたすら政治家と官僚と付き合って、世の中や国家を動かすような議論をして、取材して原稿を書くだけ。弱い立場の人と接する機会が少ないと、想像力が働かなくなって、強者の論理で思考していくんです」。
では、首相たちも、「オッサン」なのか。「岸田(文雄)さんはやりたいことがわからない。もともと選択的夫婦別姓にも理解を示していましたが、いつの間にか、尻すぼみ。確信犯ではないけど、結果オッサンだと思います。最長政権の安倍(晋三)さんは、女性活躍を推進しましたが、それは経済の論理。女性の人権には興味がなかったし、選択的夫婦別姓も関心ない。女性が本当に抱えている問題に理解があるかっていうと、私は若干、疑問。だから、オッサンですね」。
世界では、ニュージランドのジャシンダ・アーダーン首相、フィンランドのサンナ・マリン首相ら女性トップの活躍が目立つが、日本は大きく遅れを取っている。日本の女性議員の割合は193か国中164位(衆院議員9.7%、参院議員23.0%)といわれている。そんな中、日本で女性首相が誕生する可能性はあるのか。
2024年の自民党総裁選がヤマ「10年以内に女性首相が誕生する可能性はある」
「女性議員が増えて……という流れでは時間はかかるとは思いますが、10年以内に女性首相が誕生する可能性はあると思っています。自民党は常に人材難。ポスト岸田が誰になるかも分からない。2024年の自民党総裁選がヤマで、今のまま順調にいけば岸田首相が再選されますが、そうでない場合、茂木敏充さん、河野太郎さん、林芳正さんらの名前が挙がっています。しかし、全員一致という人はいない。そうした流れの中で、この女性の下に集まろう、となる可能性はあると思います。自民党に逆風が吹く、非常に窮地に陥る、など困った時などでしょうか。コロナもロシアによるウクライナ侵攻も予想できなかったことですから、世の中、何が起こるか分かりません」。
昨年の自民党総裁選には、野田聖子、高市早苗が立候補したが、2人は有力候補か? 「個人的には次の世代に期待しています。自民党幹事長代理の上川陽子さん(7期)、若手ではデジタル担当大臣の牧島かれんさん(4期)は皆さんの評価は高い。参議院ですが、松川るいさんにも期待しています。外務省出身で政策も熟知している。女性議員の方にも優秀な方はたくさんいます」。
性別を基準に一定数を割り当てる「クオータ制」は一刻も早く導入すべきだという。「まずは女性が立候補できるようにして、比例でもちゃんとした順位に入れていかないといけない。それと、もう一つ、女性議員には『2期目の壁』というものがあるんです。国会議員は、政治活動、選挙活動をすればするほど票が増える。夜中にも有権者からのお誘いに応えないといけないということがありますが、女性が家事をやりながら、子育てしながら、そんなことはできない。国会議員の働き方や有権者の考え方も変えていかないといけない」。
国は働き方改革を訴えているが、一番遅れているのは永田町かもしれない。筆者もれっきとしたオッサンだが、「クオータ制」導入には大賛成だ。
□佐藤千矢子(さとう・ちやこ)1965年、愛知県出身。名古屋大学文学部卒業。毎日新聞社に入社し、長野支局、政治部、大阪社会部、外信部を経て、2001年10月から3年半、ワシントン特派員。米国では、米同時多発テロ後のアフガニスタン紛争、イラク戦争、米大統領選を取材した。政治部副部長、編集委員を経て、13年から論説委員として安全保障法制などを担当。17年に全国紙で女性として初めて政治部長に就いた。その後、大阪本社編集局次長、論説副委員長、東京本社編集編成局総務を経て、現在、論説委員。