野宮真貴が振り返る子育て 更年期に訪れた息子の反抗期「どっちもホルモンのせいと思うと気が楽に」

ピチカート・ファイヴとして90年代の音楽シーンに大きな影響を与えた歌手の野宮真貴は、世界を飛び回っていた多忙な時期に出産を経験した。20代でソロデビューして1年足らずで契約解除されるなど不遇の時代を経験しても大好きな歌をあきらめなかった彼女は、出産後も休むことなく歌と子育てを両立した。あれから26年がたち、一人息子は社会人として大きな夢を追いかけている。野宮が子育てから学んだこととは? 彼女に聞いた。

40thアルバム「New Beautiful」の配信がスタート【写真:荒川祐史】
40thアルバム「New Beautiful」の配信がスタート【写真:荒川祐史】

自分で抱え込まないで協力してもらえる人にはちゃんと甘える

 ピチカート・ファイヴとして90年代の音楽シーンに大きな影響を与えた歌手の野宮真貴は、世界を飛び回っていた多忙な時期に出産を経験した。20代でソロデビューして1年足らずで契約解除されるなど不遇の時代を経験しても大好きな歌をあきらめなかった彼女は、出産後も休むことなく歌と子育てを両立した。あれから26年がたち、一人息子は社会人として大きな夢を追いかけている。野宮が子育てから学んだこととは? 彼女に聞いた。(取材・構成=福嶋剛)

 ピチカートで一番忙しかった96年に出産を経験しました。ワールドツアーが控えている大事な時期でしたから、子どもが生まれる前に両親が住んでいるマンションに引っ越して両親に協力してほしいとお願いしました。夫の協力もすごく大きかったです。仕事とプライベートの両立はもちろん大変ですけど、できないことにフォーカスしても仕方がないので、この状況をどうやってうまく回していくかいろいろと知恵を絞りましたね。

 全部を自分で抱えるのではなく、協力してもらえる人にはちゃんと甘えるということも大切ですよね。周りに頼ることに対して罪悪感を持つんじゃなくて、感謝をすること。人生の中で子育ての時間って20年くらいと考えたらそんなに長い時間でもありませんし、子育てと仕事を両立すると決めたらやるしかないし、どちらも自分にとってかけがえのないものですから。

 私は好きな仕事をやらせてもらっている以上、子どもに寂しい思いをさせたくないけれど、一緒にいられない時間があるのも事実。だからこそ一緒にいられるときは十分に愛情を注いであげようって。小さい頃から息子を仕事場に連れて行くことも多かったです。小学生の頃はスタッフが宿題や勉強を教えてくれたり、コンサートの現場では、スタイリストさんやメークさんなど、さまざまな職業といろんな人たちがいたので、今でいう多様性を息子はそこで学んでいったと思います。

 大きくなって息子にも反抗期が訪れました。私もちょうど更年期で2人でけんかをすることも。そんなとき、「息子の反抗期も、私の更年期もホルモンのせい」と心で呟いて切り抜けていましたね(笑)。反抗期は成長の過程でもありますし、息子のイライラも、私のイライラも本人の性格などではなく、ホルモンのせいと思うと気が楽になりました。そして、とにかくその時期を過ぎ去るのを待つみたいな感じでした。

 そんな息子は、音楽の道には進まずに医者の道に進みたいということで大学を卒業して現在、研修医として現場で頑張っているようです。将来どんな医者を目指しているのか分かりませんが、自分で選んだ道を進んでくれていることをうれしく思っています。

 子育てと仕事の両立を振り返ってみると、親が仕事で家にいなくて寂しいときもあるかもしれないけれど、やっぱり子どもって親が幸せそうだったり楽しそうだったりする顔を見るのが1番うれしいじゃないかなって、そう思います。

 人は社会でいろいろな役割を担って生活をしています。親、子供、部下、上司、夫、妻……それは大切だけれど、自分も大切にしてほしいと思います。わずかな時間でもいいから、いろいろな役割から開放されて独りだけの時間に、好きなこと、好きな仕事だけをしてみる。そしてまた役割を持って働いていく。そうすると周りの人への感謝の気持ちも生まれますし、違ったふうに世の中が見えてくると思います。

 私はミュージシャンですから、人が独りなって好きなことをするときに、そっと寄り添えるような音楽を届けていきたいと思っています。

□野宮 真貴(のみや・まき)ミュージシャン/エッセイスト。1981年「ピンクの心」でデビュー。その後ポータブル・ロックを経て、80年代ニューウェーヴシーンを代表する存在に。ピチカート・ファイヴ3代目ヴォーカリストとして、90年代に一世を風靡した「渋谷系」ムーブメントを国内外で巻き起こし、音楽・ファッションアイコンとなる。2001年からソロアーティストとして活動。またエッセイストとして「赤い口紅があればいい」(16)、「おしゃれはほどほどでいい。」(17)(幻冬舎刊)を刊行し、共にベストセラー・エッセイとなる。20年は還暦を迎え、モバイルファンクラブ「おしゃれ御殿」をオープン。21年はデビュー40周年を迎え、ニューアルバム「New Beautiful」を発売。5月25日にアナログ盤発売と配信リリースをスタート。

次のページへ (2/2) 【写真】初公開となる野宮真貴、幼少期の1枚 ニット帽から三つ編みを出した可愛らしいポーズ
1 2
あなたの“気になる”を教えてください