Netflixの韓国ドラマ「愛の不時着」が、配信開始から2年以上たった現在もNetflixのTV番組TOP10（日本）に入り続けている。ある日、パラグライダーに乗って空を飛んでいた韓国の財閥令嬢ユン・セリ（ソン・イェジン）が、突然発生した竜巻に吹き飛ばされ北朝鮮側に不時着。樹木に宙づりになっていたところを北朝鮮のエリート軍人リ・ジョンヒョク（ヒョンビン）に救助され、やがて愛が芽生える……という異色のラブストーリーだ。韓国ではケーブルチャンネルtvNで19年12月から20年2月まで放送され最終回は21.7％という高視聴率を記録。これは韓国のケーブルテレビ史上歴代3位の快挙となった。さらにNetflixで配信されると世界中で大ヒット。日本では20年2月23日から配信がスタートしハマる視聴者が続出した。

　そんなドラマがなぜ日本でいまだに人気を維持しているのか。キーワードは異国情緒、男女の関係性、リアルラブだ。まずは異国情緒。実は「愛の不時着」は2008年9月に起きた実際の事件に着想を得ている。韓国の女優チョン・ヤンが仁川沖の海上でプレジャーボートに乗っていたところ、天候の急変で朝鮮半島の海上に定められた軍事境界線NLL（北方限界線）を越え2時間ほど漂流。北朝鮮の武装警備艦に発見され追撃されるという窮地に陥ったが、韓国海軍によって救助された。

　チョン・ヤンは漂流中に沿岸部に住む北朝鮮の住民と会話したというが、「愛の不時着」では北朝鮮住民のリアルな生活ぶりが丹念に描かれている。ジョンヒョクが暮らす村ではたびたび停電が起こりロウソクで夜を過ごす。炭で料理を作り女性たちが共同で洗濯したりキムチを漬けたりしている。韓国に比べるとはるかに貧しいが、人々は純朴で世話好きだ。こうした風景は異国情緒たっぷりでかつて日本が経験した“古き良き時代”を思い出させる。

　2つ目は男女の関係性だ。ドラマ前半部分は北朝鮮に不時着してしまったセリが自身の機転で気丈に難局を乗り越えていく姿が描かれる。しかし、心細さは隠せない。ジョンヒョクは空腹を訴えるセリのために小麦粉をこね手動製麺機を使っておいしそうな麺を作る。また部下と一緒に焼肉を準備しセリに提供する。市場に出かけたジョンヒョクはセリのために韓国製の高級化粧品やアロマキャンドル、女性用下着を購入する。これらのシーンは男性は仕事、女性は家事といった固定的な性別役割分業の考え方を否定しており、よく考えられた脚本といえる。仕事や家庭という場において男性への過剰なケアが常識として描かれる日本のドラマに疲れてしまった女性にとって「愛の不時着」はまさに“オアシス”のようなドラマなのだ。
　
　3つ目はリアルラブへの憧れだ。主体的に人生を選択し経済的にも自立したヒロインのセリと、うっとうしい“男らしさ”をまったく見せないジョンヒョク。最終回に向けてこの2人の関係はどんどん接近していくのだが、実生活でもヒョンビンとソン・イェジンは恋人関係となり今年3月31日に結婚式を執り行った。公開されたツーショット写真で新郎はタキシード、新婦は純白のウエディングドレスに身を包み幸せオーラいっぱい。米国への新婚旅行や帰国後の空港でのツーショットが報じられると2人の幸せぶりがますます身近に感じられた。架空のストーリーが現実になったという“リアルラブ”が視聴者の心に迫ったに違いない。2人の結婚が報じられると「愛の不時着」はNetflixの視聴ランキングTOP10に返り咲き、現時点でもTOP10圏内に入り続けている。「愛の不時着」は単なる奇抜なラブストーリーではなく時代性を反映したドラマだからこそ根強い人気を保っているといえそうだ。