林家三平が笑点で過ごした5年7か月 悩んだ世間の評価との向き合い方、匿名での誹謗手紙
2時間におよんだ林家三平(51)への単独インタビュー。後篇では、5年7か月の間、レギュラーを務めた「笑点」を降板した経緯、真相に切り込んだ。
匿名手紙「『笑点』を辞めてください」も受け取っていた
2時間におよんだ林家三平(51)への単独インタビュー。後篇では、5年7か月の間、レギュラーを務めた「笑点」を降板した経緯、真相に切り込んだ。(演芸評論家/エンタメライター・渡邉寧久)
落語家の桂宮治(45)が「笑点」の新メンバーに決まった際、笑福亭鶴瓶(70)は、「宝くじに当たったようなもんだから」と祝福を寄せたという。
宝くじの1等当選確率ほど高くはないが、「笑点」の座布団に座れるかどうかで、知名度と仕事量は桁外れに跳ね上がる。演芸界やその周囲で、“座布団利権”とうま味的に例えられることがあるのは、そのためだ。
多くの落語家(決して全員ではない!)が欲しがる紫色の座布団。それを三平は手放した。5年7か月の出演時間に、あっさりと思えるほど無執着にピリオドを打ったのだ。
局側に「降板」を伝えられたわけではない。芸能マスコミが多用する「卒業」でもない。自ら、番組を離れることを申し出たといういわば“自主降板”。
「笑点」を降りることを考え始めたのは、2020年夏ごろのことだった。コロナ禍で、落語会が次々に延期や中止に追い込まれていた時期だ。
「寄席の木戸が閉じたり、落語会も中止に次々になって、うちにいる時間が長くなって、どこにも出かけなくなった。酒の量が増えて、夜になると近所のコンビニに行ってはケーキを買ってきて食べていました。不規則を絵に描いたような暮らしで、ストレスから62キロだった体重が、2、3か月で74キロに増えました。体調も悪く、これはまずいと思って医者に行ったら、高血圧、高脂血症、高コレステロールに高脂質、尿酸値もすべての数値が上がっていて、いきなり5、6種類の薬を処方されました。医者にも『これはまずい』って言われました」
三平が仕事に出る際、妻で女優の国分佐智子(45)が必ず行うことがある。切り火を打ち、背中をポーンとたたいて「いってらっしゃい!」。気合が三平の背筋を貫く瞬間だ。それもなくなった。ひげもあたらなくなった。稽古をする気にもならない。気持ちばかりがダウンした。
そこに「笑点」の収録における、しっくりしない感覚が加わった。「笑点」の解答者は、観客の反応を取り入れながらさらに解答を組み立てていくが、それができない事態に。
「お客さんがいると、空気感があってできることも、リモート出演や無観客になると、どの方向に自分を持って行っていいのか分からなくなる。すごく悩みましたね。はまっていないんじゃないかと」という思いが、体調の悪化とともに三平に付きまとい始めた。三平は羅針盤を失った。
三遊亭小遊三なら泥棒ネタ、三遊亭円楽なら腹黒ネタといった“勝利の方程式”を持っているが、自分にはそれがなかったと三平は省みる。
「このまんまだと、落語家としてダメになる。(妻に)最初に言ったのは、半袖を着ていた時分だったと思います」と記憶を呼び覚ます三平は、妻とマネジャー以外には心情を吐露することなく1人で悩み、ひとつの決断に達した。
「日テレのスタジオで収録が済んだ後、日テレのプロデューサーらに『武者修行に出させてください』とお願いしました。昨年初頭だったと思います。自分のパフォーマンスがイマイチ納得できなくなった。答えは思いつくんですが、どうやって表現すればいいのか納得できない。多分お客さんも納得できないんじゃないかと。『1回外に出て、自分のスタンスを作り直して勝負させてくれませんか』とそうお願いしました。先方は『ちょっと考えさせてください』という感じでしたね」
話し合いは極秘裏に、隔週で行われている番組収録後に幾度も続けられた。情報を共有しているのは数人。普段何かと頼りにしていた他の出演者にも、三平は心情を漏らさなかった。母で初代林家三平の妻、林家一門の精神的支柱でもあるエッセイスト・海老名香葉子さん(88)にも相談することはなかったという。