「ドライブ・マイ・カー」自動車整備士、3万円のボロボロのワンボックスカーで叶えた夢
神奈川・川崎市の自動車修理工場「A2ファクトリー」の天川恭男さん(62)は、米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)に登場するスウェーデン車「サーブ900ターボ」の整備を担当した。約30年にわたり、サーブ一筋の職人は、交差点で信号待ちしている車に営業をかける地道な努力から、顧客を広げた苦労人だ。日本を代表する修理のスペシャリストの半生とは。
営業も“他とは違う”手法でトップに
神奈川・川崎市の自動車修理工場「A2ファクトリー」の天川恭男さん(62)は、米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)に登場するスウェーデン車「サーブ900ターボ」の整備を担当した。約30年にわたり、サーブ一筋の職人は、交差点で信号待ちしている車に営業をかける地道な努力から、顧客を広げた苦労人だ。日本を代表する修理のスペシャリストの半生とは。(取材・構成=水沼一夫)
「A2ファクトリー」を立ち上げたのは、1994年ですね。バブルがはじけて勤めていた会社が倒産して、そこから1人で独立して始めた形だから、もう30年近くやっています。車は昔から好きで、自分で分解して直したりとか、そういうことはやっていました。自分にもできるというのは見ていて分かります。「この人より俺のほうがうまいな」というのは体感であるじゃないですか(笑)。
自動車業界に入ったのはサーブ専門店の営業がきっかけです。サーブという車を知ったのもそのときですね。「どこの国の車?」「スウェーデン? あ、ボルボ以外にあるんだ」という感じでした。
最初は営業マンにバカにされましたが、営業でトップになりました。見るところが違うんですよね。奥さんと旦那さんが来ると、僕は奥さんのほうのドアを開ける。奥さんの飲み物を聞いて、旦那は二の次。大蔵省がうんって言わない限り、車は売れないですよね。
「俺、あの車ほしいんだけど」(旦那)「どこにそんな金があるの?」(奥さん)となったら終わりです。僕は「あの営業の子だったらいいんじゃない。面倒見良さそうだし」というふうに、売っていました。