東大入学式 総長が危機感募らせたワケ「社会は挫折や再起に対して冷淡」

東京大学の入学式が12日、東京都千代田区の日本武道館で行われ新入生約3100人が晴れやかな衣装で出席した。藤井輝夫総長は式辞で「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。本学の教職員を代表して心よりお祝いを申し上げます。みなさんはCOVIDー19のパンデミックをはじめ、さまざまな苦難に社会が直面する時代において本学の入試を突破しこの場に集っておられます。その努力に対し、心から敬意を表します」と合格を勝ち取った新東大生をねぎらった。

東京大学の入学式が行われた日本武道館【写真:ENCOUNT編集部】
東京大学の入学式が行われた日本武道館【写真:ENCOUNT編集部】

総長就任にあたり理事の過半数を女性にする改革実行

 東京大学の入学式が12日、東京都千代田区の日本武道館で行われ新入生約3100人が晴れやかな衣装で出席した。藤井輝夫総長は式辞で「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。本学の教職員を代表して心よりお祝いを申し上げます。みなさんはCOVIDー19のパンデミックをはじめ、さまざまな苦難に社会が直面する時代において本学の入試を突破しこの場に集っておられます。その努力に対し、心から敬意を表します」と合格を勝ち取った新東大生をねぎらった。

 続けて、「大学という場においてみなさんの多様な能力と可能性を尊重し育んでいくことの大切さは、本学が取り組んでいる起業家教育の精神とも深くつながっています。東大関連ベンチャーの支援に向けた取り組みを積極的に進め、2030年までにその数を700社にするという目標を掲げています。東京大学は社会が直面している課題の解決に貢献する新たな業を起こすことを支援しています。現状ではまだまだ少ない本学発の女性の起業家を数多く生み出していくことにも力を注いで行きます」と“起業のススメ”を説いた。

 また、藤井総長は人々の理解、思考、表現、対話の形式を作り出す物語として使われる「ナラティブ」という言葉を紹介し、「ITベンチャーをはじめとした起業が盛んな国々と比べますと、日本ではスタートアップ企業の少なさが際立ち、社会は挫折や再起に対して冷淡であるというナラティブがあるとされます。しかし、起業のような新たな取り組みにおいては挫折や失敗はつきものであり、そもそもそのような挫折の経験を物語として語ること自体にも大切な意味があります。少しでも関心があれば勇気を出して本学での起業をめぐるポジティブな語りと対話の輪の中に一歩足を踏み出してみてください。そこにはきっと教室での学びとはまた違った新しい世界が広がっているはずです」と呼びかけた。

新入生約3100人が出席した東京大学入学式【写真:ENCOUNT編集部】
新入生約3100人が出席した東京大学入学式【写真:ENCOUNT編集部】

 式辞ではロシアによるウクライナ侵攻にも言及。「武力の行使という戦争状態こそが互いの対立を強め人々の不幸や憎しみを増大させ問題の解決をいちじるしく困難なものにする」としたうえで、「だからこそ厳しい対立状況の中でも対話や交流の実践が果たす役割の大切さを改めて見つめ直し、学術の実践を通じてこうした非常時が強いるさまざまな不幸からの脱却にいかに貢献できるか、という問いに向き合うことがいま求められているのです」と強調した。

 その意義については「他者の立場に思いをはせ、想像力を通じて他者の思考や感情を自らに引き受けるということは、実は自分の生を拡張することにつながっており、みなさん自身をより広く豊かにすることでもあります」と解説。「大学の中でも外でも多くの可能性を持った多様な人々が存在することを、そしてそれら一つ一つの可能性がすべて尊いものであることを忘れないでください。困難な状況の先に広がる輝かしい未来に向かってともに歩んでいきましょう。ようこそ、東京大学へ」と締めくくった。

 東大公式ホームページなどによると、藤井総長は昨年4月に第31代東京大学総長に就任。新型コロナウイルス感染のため昨年の入学式には出席できなかった。軽症だったが、強い倦怠感や軽い嗅覚障害などを経験し約2週間入院した。1964年生まれの58歳。私立麻布高校卒業後、東京大学工学部船舶工学科卒業、同大学院工学系研究科船舶工学専攻修士課程、博士課程を修了した。大学院生時代から海中ロボットの研究に取り組み、「マイクロ流体デバイス」を使ったセンサーで深海を詳しく調査する方法の研究を進めてきた。総長就任にあたり理事の過半数を女性にするという大胆な改革に乗り出し、ダイバーシティーやジェンダー平等などの課題に取り組んでいる。(※式辞は抜粋)

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