やり手ビジネスマンから同人誌印刷の道に 異色経歴社長が語る35歳からの異業種転職

ビジネス用語を遊びながら学べるカードゲーム「社長! 横文字で言うのは止めてください」や、町工場男子を特集した写真集「あだち工場男子」、元保護猫を“社猫”として配属する「癒し課」など、ユニークな取り組みを続ける下町の老舗印刷工場「しまや出版」。主に同人誌の印刷事業を行う同社の小早川真樹社長は、元はやり手のビジネスマンとしてさまざまな業界を渡り歩き、35歳で業界知識ゼロの状態から社長に就任した異色の経歴の持ち主だ。

老舗印刷工場「しまや出版」の小早川真樹社長【写真:ENCOUNT編集部】
老舗印刷工場「しまや出版」の小早川真樹社長【写真:ENCOUNT編集部】

結婚直後に義理の父が急死し、いきなり会社を継ぐかどうかの判断を迫られる

 ビジネス用語を遊びながら学べるカードゲーム「社長! 横文字で言うのは止めてください」や、町工場男子を特集した写真集「あだち工場男子」、元保護猫を“社猫”として配属する「癒し課」など、ユニークな取り組みを続ける下町の老舗印刷工場「しまや出版」。主に同人誌の印刷事業を行う同社の小早川真樹社長は、元はやり手のビジネスマンとしてさまざまな業界を渡り歩き、35歳で業界知識ゼロの状態から社長に就任した異色の経歴の持ち主だ。

「最初は大手の英会話スクールでマネジメントや広告の仕事をして、6年目にフランチャイズ支援を行うコンサル企業に転職。本部のテレマーケティングでデータ分析をしました。その後、無線通信機器の会社に入って営業や企画部署の立ち上げを経験しました」

 業界を股にかけるビジネスマンから、同人誌を扱う従業員20人ほどの下町の印刷会社に転職したのは35歳のとき。結婚直後に義理の父が急死し、いきなり会社を継ぐかどうかの判断を迫られたのだという。

「1月に入籍して、4月に義父が亡くなって、7月に前職を辞めて8月に入社。最初は妻の家の家族会議に参加して、新参者らしく端に座って聞いていたんですが、次第に義母から『会社はつぶしたくない』『残したい』と相談されて『じゃあ僕がやりましょうか』と。いずれは一国一城の主になりたい気持ちもあった。いざ会社を継いで蓋を開けてみたら借金まみれでしたけどね(笑)」

 今年創業54年を迎えるしまや出版は、元は義父母が下町の文房具屋として始めたもの。世界最大級の同人誌フリーマーケット「コミックマーケット(通称コミケ)」が45年前に産声を上げると、店の片隅にあった小さな印刷機で原稿の印刷がしたいと注文が舞い込むように。以来、第2回コミケから参加を続ける歴史ある印刷会社として口コミが広がっていった。

 それまではやり手のビジネスマンで、同人誌への知識も興味もなかったという小早川社長。独自の文化を持つ同人誌に、入社当初は強いカルチャーショックを受けたという。

「自分の欲求や性に対してとてもオープンな世界。自分はオープンにするのは恥ずかしいものだと思っていたんですが、例えば普段商業で描いてる職業作家の方が、抑えきれない衝動を発散するため、利益度外視で本当に自分が描きたいものを描くのが同人誌なんだなと。意外だったのが、女性がみんなオシャレだったこと。スタッフからは『年に数回しかないイベントなんだから、当たり前じゃないですか』と言われました。中に入って初めて、世間一般のイメージとはだいぶ違うなと感じましたね」

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