「ドライブ・マイ・カー」、暗いニュース続く映画界に光 快挙がもたらす本当の意味

第94回アカデミー賞で4部門にノミネートされた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞した。日本人の受賞は滝田洋二郎監督の「おくりびと」(2009年)以来、13年ぶりの快挙。監督による性暴力、セクハラなど暗いニュースに沈む日本映画界に明るい話題を届けてくれた。

第94回アカデミー賞・国際長編映画賞「ドライブ・マイ・カー」【写真:AP】
第94回アカデミー賞・国際長編映画賞「ドライブ・マイ・カー」【写真:AP】

飾らない、偉ぶらない、難しいことは言わない濱口監督

 第94回アカデミー賞で4部門にノミネートされた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞した。日本人の受賞は滝田洋二郎監督の「おくりびと」(2009年)以来、13年ぶりの快挙。監督による性暴力、セクハラなど暗いニュースに沈む日本映画界に明るい話題を届けてくれた。(文=平辻哲也)

 確実視された国際長編映画賞以外の受賞はならなかったが、日本初の作品賞、脚色賞、36年ぶり日本人3人目となる監督賞にノミネートされただけでも大快挙だ。作品賞候補の枠は8つ。監督賞候補は5枠。つまり、サッカーW杯で言えば、決勝トーナメント・ベスト8以上の成績だろう。授賞式での映画のダイジェスト映像、濱口監督、主演の西島秀俊、霧島れいか、岡田将生らの姿を見るだけでも、誇らしかった。

「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹氏の三つの短編小説が原作。ある日、突然、妻(霧島れいか)を失った俳優兼演出家の家福(西島)が、専属ドライバー(三浦透子)との出会いをきっかけに、その悲しみを乗り越えていく姿を描く。劇中には、家福が多国籍、多言語の俳優が演じるチェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」を演出するというオリジナルなアイデアを盛り込み、上映時間約3時間という長さを感じさせない演出力があった。

 国際長編映画賞で名前を呼ばれた濱口監督は壇上、英語でスピーチ。手にしたオスカー像を見て「あなたがオスカーですね」と笑み。アカデミー協会や米配給関係者に謝辞を述べ終わると、場面転換のための音楽が鳴りかけたが、それを止めた。

「西島秀俊さん、岡田将生さん、霧島れいかさん、パク・ユリムさん、ジン・デヨンさん、アン・フィテさん、ソニア・ユアンさん、おめでとうございます! また、ここに来られなかった出演者のみなさんにも感謝します。赤いサーブ900を見事に運転してくれた三浦透子さんに感謝します! みなさん獲りました!」と日本語も交えて、喜びを爆発させた。短いながらも、温かな人柄を感じさせるものだった。

 濱口氏は飾らない、偉ぶらない、難しいことは言わない監督だ。昨今、日本映画界では、ワークショップをきっかけにした監督による女優の卵への性暴力、セクハラなどが大きな問題になっているが、その手の話とは無縁だろう。共同脚本の大江崇允氏もWOWOWの番組で「相手が分からないことは伝えない」「作品や俳優たちを諦めない、見捨てない」と評していた。

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