義務教育は「音楽に触れる最初の機会」 “合唱自粛”要請が音楽教育にもたらす影響
今年2月、文部科学省は新型コロナウイルスのオミクロン株に対応した学校での感染防止強化策をまとめ、合唱や管楽器の演奏を「感染リスクの高い教育活動」と位置付け、基本的に自粛するよう全国の教育委員会に要請した。全日本合唱連盟からの要望書を受け、後に「一律に控えることを求めるものではない」との見解を示したが、卒業式シーズンを前に、合唱を取りやめる判断をした学校も少なくない。小中学校の音楽教育の現場は今、どのような状況を迎えているのか。音楽之友社が発行する教員向け月刊誌「教育音楽」の星野隆行編集長に聞いた。
文科省はオミクロン株対応で合唱を「感染リスクの高い教育活動」とし自粛を要請
今年2月、文部科学省は新型コロナウイルスのオミクロン株に対応した学校での感染防止強化策をまとめ、合唱や管楽器の演奏を「感染リスクの高い教育活動」と位置付け、基本的に自粛するよう全国の教育委員会に要請した。全日本合唱連盟からの要望書を受け、後に「一律に控えることを求めるものではない」との見解を示したが、卒業式シーズンを前に、合唱を取りやめる判断をした学校も少なくない。小中学校の音楽教育の現場は今、どのような状況を迎えているのか。音楽之友社が発行する教員向け月刊誌「教育音楽」の星野隆行編集長に聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
「コロナ初期の2020年は卒業式の規模を縮小し、歌唱を取りやめた学校が多かったようですが、当初と比較すると、昨年、今年は地域・学校ごとの判断に差が出ており、隣り合った学校でも合唱中止のところとマスクありで行うところ、校庭で行うところ、事前の録音を流すところなど対応はさまざまです」
そもそも、音楽や歌唱・合唱は義務教育過程においてどのような意味を持つのだろうか。
「ひとつは自己表現の手段ですね。中でも自分の声で伝える歌は最も原始的で直接的な表現方法です。合唱には、クラスや学年、学校をひとつにまとめる役割もある。もちろん、合唱ができないことで自己表現が苦手な子や協調性がない子が増えるとは一概には言えません。ただ、今後どんな影響が出るかは注視すべきだと思います」
世の中には歌うことが苦手な人、音楽の授業が嫌いだったという人も一定数いる。ましてやコロナ禍では、「危険なもの」「無駄なもの」として教育の場から排除されていく可能性はないのか。
「何事にも苦手な人、嫌いな人というのは一定数います。ただ、好き嫌い以前に子どもたちに音楽の楽しさを伝えきれていないのが現状です。歌を歌うという文化は、世界中のどの国や民族にもある普遍的なもので、その楽しさは他のものでは代替の効かない、人の遺伝子に組み込まれたものだと思います。一方で、教会で日常的に歌う習慣のあるヨーロッパなど、音楽が生まれながらに生活と密着している国や地域と比べると、日本においては多様な音楽に触れる最初の機会が義務教育とも言える。その段階で、音楽が持つ良さ、楽しさを伝え切れていないのならそれは気がかりですね」