「いきなり立派な親になれる人はいません」 “ワンオペ育児”による悲劇を無くすには

育児を1人の親が担う「ワンオペ育児」が再びクローズアップされている。きっかけになったのは、愛知県一宮市の住宅で幼い姉妹3人が遺体で見つかり、27歳の母親が殺人未遂の容疑で逮捕された事件。SNS上では、生後9か月、3歳、5歳の尊い命が奪われた痛ましい事件に悲しみが広がる一方で、幼い子どもをワンオペで育てる親からは「他人事とは思えない」「明日は我が身」との声が相次いだ。事件は防ぐことはできたのか。また、同じような境遇に悩む親はどうすればいいのか。専門家に聞いた。

「ワンオペ育児」が再びクローズアップ(写真はイメージ)【写真:写真AC】
「ワンオペ育児」が再びクローズアップ(写真はイメージ)【写真:写真AC】

SNSに“悲痛な声”が続々…育児で揺れる日本の社会

 育児を1人の親が担う「ワンオペ育児」が再びクローズアップされている。きっかけになったのは、愛知県一宮市の住宅で幼い姉妹3人が遺体で見つかり、27歳の母親が殺人未遂の容疑で逮捕された事件。SNS上では、生後9か月、3歳、5歳の尊い命が奪われた痛ましい事件に悲しみが広がる一方で、幼い子どもをワンオペで育てる親からは「他人事とは思えない」「明日は我が身」との声が相次いだ。事件は防ぐことはできたのか。また、同じような境遇に悩む親はどうすればいいのか。専門家に聞いた。

 報道によると、事件は10日夜、愛知県一宮市の住宅で発生。容疑者の女性は「殺すつもりはなかった」「気持ちが不安定だった」と供述し、首や手首には自殺を図った痕跡があったという。女性が家事や育児を1人で担う「ワンオペ育児」だった可能性が報じられると、ツイッター上では「やってしまったことは許されないけど、同じ立場だから気持ちはすごくよくわかる」「ワンオペ育児の大変さはもっと多くの人に知られるべき」など、類似した境遇で悩む親からの“悲痛な声”が次々と上がった。

 母親が育児に悩むあまり、精神的に追い詰められた状態にあったことは想像できる。状況的に無理心中を図った可能性も指摘されているが、悲惨な事件を未然に防ぐことはできなかったのか。

 子どもへの虐待防止支援を行うNPO法人CAPNAの兼田智彦理事は、「無理心中はうつ病などの精神疾患を患っているケースがほとんどです」と話した上で、虐待との違いをこう説明する。

「この20年で虐待防止の体制作りはだいぶ進みましたが、無理心中の防止はほとんど進んでいません。虐待であれば傷や泣き声など子ども側からもサインがありますが、無理心中の場合はそれがないからです。前兆をつかむのは非常に難しく、夫ですら気づけない場合がほとんどです。虐待と違い、事件となるまでは子どもに被害があるわけではないので、本人が望まない以上、無理やり介入することもできません」

 衝動的に起こることもある親子心中。親も含めてSOSサインの把握しづらさが、支援を困難にしている側面がある。

 一方で、ワンオペ育児は、どのように解消すればいいのか。NPO法人児童虐待防止協会の津崎哲郎理事長は、育児の担い手が孤立する一因に、時代の流れの中で子育てのあり方そのものが変化した影響を指摘する。

「ひと昔前のお母さんは男親の協力がなくとも女手ひとつで5人も6人も子を育てていたと言われますが、その頃は親族はもちろん、近隣住民も子育てに協力的で、地域全体で子どもを見守る土壌があった。今は都市化が進み、あちこちで共同体が崩壊するなかで、子を持つ母親の孤立化が進んでいる。若い世代の育児能力が低下しているとの声もありますが、そもそも育児とは経験値によるところが非常に大きく、親世代からその経験を受け継ぐ環境もないまま、いきなり立派な親になれる人はいません」

 かつては都市部で進んでいた核家族化が地方でも増えており、問題の根は深い。また、ここ2年はコロナ禍で出産のための里帰りができなかったり、産後の帰省ができないケースも珍しくなくなった。出だしからほかに頼れる人がおらず、睡眠不足も重なれば、負担はますます大きくなる。産後うつの発症につながる可能性もある。

 津崎理事長は「コロナ禍で(保健師らが)自宅を訪問したり、直接的な支援ができなくなっている事情もある。親や友達にも相談できず、1人で抱え込んでしまうことも増えています。ただ、支援はたくさんある。育児に悩んでいる方は、迷わず手を挙げて知らせていただけたら」と訴えた。

 痛ましい事件をなくすためには社会全体で考えなくてはいけない。

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