女子プロレス・花月引退試合で里村明衣子が愛弟子にラストメッセージ
2020年2月24日、センダイガールズプロレスリングやスターダムで活躍した花月が引退した。ラストマッチの対戦相手は師匠である里村明衣子。里村は現在の女子プロレス界を牽引する「プロレス界の横綱」。この日で現役を終えるかつての弟子花月に対し里村は妥協のなきスタイルで勝利。試合後里村がリング上で贈った花月へのメッセージとは。
引退する花月の前に立ちはだかった師匠里村
センダイガールズプロレスリング(仙女)を主宰する里村明衣子はGAEA JAPANでデビュー、長与千種の一番弟子として成長し、現在は「女子プロ界の横綱」と言われるまでの地位を築いた。女子プロレス団体GAEA JAPANとプロレスラー里村の誕生から今年で25年、GAEA解散からちょうど15年の節目となる4月15日には、「GAEAISM -Decade of quarter century-」と題した一夜復活興行が後楽園ホール大会で開催される。ここで里村と長与が6人タッグで久しぶりに顔をそろえるのだが、両者の一番弟子がメインでシングルマッチをおこなうことに時空を超えた大きなテーマがあるといっても過言ではないだろう。長与がマーベラスの彩羽匠なら、里村は仙女の橋本千紘を送り出す。ともに、GAEAの遺伝子を受け継ぐ女子プロ界の若きエースなのだ。
2020年2月24日、大阪(エディオンアリーナ大阪第2競技場)でひとりの女子レスラーが引退興行をおこなった。花月というリングネームは地元大阪にあやかったものだが、デビューは里村率いる仙台に拠点を構える仙女だった。彼女は中学3年で入門テストに合格し、そのまま仙女に合流。16歳でデビューすると早くから頭角を現わし、仙女主催の団体対抗トーナメント(11年10月27日)ではスターダム勢を破り自身の手で優勝をもたらした。その後勃発した世代闘争では、若手の急先鋒として対ベテランの最前線に立った。が、このあたりから花月は自分自身を見失っていく。悩みに悩んで出した結論が、14年12月の「仙女退団」だった。
里村が花月を跡継ぎとして育てていたことは想像に難くない。かつて長与が自身を後継者に指名したように、里村は花月に過去の自分を投影していたのだ。それだけに花月が団体を出ていくことにショックは隠せなかった。だからこそ、里村は花月と同日に入門テストを受けプロへの準備としてあえて進学しアマレスで実績を作った橋本の成長に団体の命運を託した。橋本は期待に応え、団体最高峰の仙女ワールド王座を何度も獲得、現在も王者で、それは里村を含むレジェンドたちを何度も破っての世代を超えた勲章だ。
だからこそ、里村は引退試合の相手に指名された際に橋本との一騎打ちを課題として突きつけた。「現在の仙女トップを体感してからだ」というのがその理由。そして、仙女2月16日新木場大会で橋本VS花月の最初で最後の一騎打ちが実現した。ここで花月は王者・橋本に敗れるも、里村から直々に「責任もってオマエを葬ってやるよ!」との言葉を引き出した。それは、花月の引退に納得していないから。本来なら、年齢からしても里村が先にリングを下りるはずである。が、手塩にかけて育てた後輩が先にマット界から去ろうとしている。決して望んだマッチメークではないまま、花月引退の日を迎えたのだ。
それだけに、試合は去りゆく選手を送り出すようなお祝い的なものにはならなかった。むしろ過去おこなわれたどのシングルマッチよりも激しい一戦となった。その象徴が、里村の代名詞的技でもあるデスバレーボムの応酬だ。花月は里村直伝のこの技で団体対抗トーナメントに勝利をもたらした。他団体でもこの技を披露し、それは里村へのメッセージにもなっていた。団体の外側から常に師匠を意識していたのが花月だったのである。
花月がデスバレーを放てば、里村も本家の意地でやり返す。花月は5回ほどデスバレーボムを繰り出したか。里村も複数回見せたが、どれもがピンフォールには至らない。結局、試合を決めたのは里村のスコーピオライジングだった。かつて腰を痛め封印していた時代もあったが、この日のそれはパーフェクトと言っていい決まり具合。里村の充実度を物語るフィニッシュであると同時に、後輩だからといって負けられない、里村の強い気持ちをまざまざと見せつけられた一発でもあった。