神田沙也加さん、幻のデビュー作 関係者語る撮影秘話「沙也加さんなしでカンヌ受賞なかった」

18日に急逝した神田沙也加さん(享年35)には、幻の映画デビュー作というべき作品がある。12分の短編「おはぎ(英語名・Bean Cake)」(デイビッド・グリーンスパン監督)だ。2001年5月、第54回カンヌ国際映画祭で短編パルム・ドールに輝いたが、日本では「ショートショートフィルムフェスティバル」で数回上映されただけ。その作品を見た人は日本でも少ない。

映画「おはぎ」に出演する神田沙也加さん【写真:(C)David Greenspan】
映画「おはぎ」に出演する神田沙也加さん【写真:(C)David Greenspan】

12分の短編「おはぎ」日本では数回上映されただけ

 18日に急逝した神田沙也加さん(享年35)には、幻の映画デビュー作というべき作品がある。12分の短編「おはぎ(英語名・Bean Cake)」(デイビッド・グリーンスパン監督)だ。2001年5月、第54回カンヌ国際映画祭で短編パルム・ドールに輝いたが、日本では「ショートショートフィルムフェスティバル」で数回上映されただけ。その作品を見た人は日本でも少ない。(取材・文=平辻哲也)

「おはぎ」の原作は「小泉八雲」の日本名で知られるラフカディオ・ハーンの「赤い婚礼」。1933年の東京を舞台に、おはぎが大好きな少年と少女の交友を描くモノクロ作品だ。監督は、名門・南カリフォルニア大の学生で日本への留学経験もあったデイビッド・グリーンスパン氏だ。

 映画は、昭和初期の東京が舞台、全編日本語セリフだが、実際、撮影したのはカリフォルニア州パサディナ。アソシエイト・プロデューサーを務めた、さかはらあつし氏は「僕らは日本人学校や盆踊りの会場になっている場所に出演者オーディションのポスターを貼らせてもらったんです。それを見て、来てくれたのが沙也加さんでした」と語る。当時、母親の松田聖子さんは米国で暮らしており、沙也加さんも現地の日本人学校に通っていた。

 沙也加さんの役は、小学校の勤皇教育のさなか、「おはぎが好きです」と言って、教師から叱られる主人公の転校生、内田太郎を慰める心優しい同級生・三原およし。グリーンスパン氏によれば、沙也加さんの第一印象はとても落ち着いていて、親切な少女だった。撮影中もシーンの説明をするだけで、素晴らしい演技を見せてくれたという。

 世界最高峰の映画祭での受賞も、沙也加さんの好演があってこそ。しかし、カンヌに、その姿はなかった。コンペティション部門には、役所広司、清水美砂出演の「赤い橋の下のぬるい水」(今村昌平監督)、三上博史主演の「月の砂漠」(青山真治監督)、井浦新(当時ARATA)主演の「DISTANCE ディスタンス」(是枝裕和監督)の3本が出品されるというエポックメイキングな年で、多くの日本のメディアが取材。私もその1人だった。沙也加さんが参加していたら、さらに大々的に報じていたことだろう。

 さかはら氏は「僕たちも、沙也加さんに来ていただくように、松田聖子さんにお願いしたんです。でも、『もし受賞できなかったら、娘が傷ついてしまう』と断られてしまいました。沙也加さんを大切にされていたんでしょうね。映画自体はとても気に入っていただけ、聖子さんの会社が映画の上映権を思いもよらない金額で買ってくれました」とも明かす。

 グリーンスパン氏は現在、「ステーション19」などの米人気ドラマのディレクターとして、地下鉄サリン事件の被害者だった、さかはら氏はアレフ(オウム真理教)の幹部・荒木浩氏との旅を描くドキュメンタリー映画「AGANAI-悪の陳腐さについての新たな報告」を監督するなど活躍している。さかはら氏は「僕たちが今も、映画界に関わっているのは『おはぎ』があったから。沙也加さんがいなかったら、カンヌで賞を取ることもできなかった。もう1回、沙也加さんと映画を作ってみたかった」と故人の早すぎる死を惜しんだ。

○悩みを抱えている人へ、厚生労働省が紹介している相談窓口
・こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(ナビダイヤル)
・#いのちSOS(特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク):0120-061-338(フリーダイヤル・無料)
・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター):0120-279-338(フリーダイヤル・無料)、岩手県・宮城県・福島県から:0120-279-226(フリーダイヤル・無料)
・いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟):0570-783-556(ナビダイヤル)、0120-783-556 (フリーダイヤル・無料)

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