昭和の記憶に残るレスラー「ツバ大王」永源遥さん 華麗な人脈を誇る面倒見の良い親父だった

「ツバ大王」永源遙さんが2016年11月28日に亡くなって5年。あの柔和な笑顔が忘れられない。大好きなサウナで倒れて、そのまま逝ってしまった。70歳だったが、あまりにも急であまりにも早すぎた。

面倒見の良い永源遥さん。この笑顔にみんなが救われた【写真:柴田惣一】
面倒見の良い永源遥さん。この笑顔にみんなが救われた【写真:柴田惣一】

引退記念パーティーには豪華ゲストが集結

「ツバ大王」永源遙さんが2016年11月28日に亡くなって5年。あの柔和な笑顔が忘れられない。大好きなサウナで倒れて、そのまま逝ってしまった。70歳だったが、あまりにも急であまりにも早すぎた。

 大相撲から1966年にプロレスラーに転身。東京プロレス、日本プロレス、新日本プロレス、ジャパンプロレス、全日本プロレス、ノアで活躍したが、まさに日本プロレス史をそのまま生き抜いた人だった。

 コミカルなツバ吐き攻撃で名をはせていたが、しっかりした基礎があればこそだった。新日本時代の1980年には、ストロング小林と国際プロレスのIWA世界タッグ王座を獲得している。

 全日本では渕正信、大熊元司と悪役商会を結成。ジャイアント馬場、ラッシャー木村らのファミリー軍団と対決し、休憩前のメインイベントとして人気を集めた。

 2006年4月には帝国ホテルで引退記念パーティーを開いたが、芸能界、スポーツ界から豪華なゲストが集結。800人を超える出席者はあらためて、その華麗な人脈に驚かされていた。

 BIこと馬場、猪木の両者から信頼された数少ない人物と言っても過言ではない。面倒見がよく、社交的で人付き合いがうまかった。プロモーターや関係者との付き合いには欠かせない重要人物だった。

 気難しい人間ともうまくやっていける交際術は見事だった。「永源さんにお願いしろ」とよく耳にした。選手も永源さんを頼った。縁の下の力持ち的な役割をこなしていた。

「お嬢さん、僕とデートしない?」と女性ファンによく軽口を叩いていた。気さくな人柄だった。親しみやすいキャラクターから、一部ファンの間では「永源ちゃん」と呼ばれていた。

 試合後、女性ファンを車で送ることもあったという。しかし、もちろんヨコシマな気持ちではなかった。「夜遅くて危ないから」。決して女性1人では乗せなかったし、若手に運転させるなど「1対1」ではなく「車内は複数」だった。

 運転係をよく仰せつかっていた保永昇男は「永源さんの車で初めて外車を運転した。いや~、初めてのときには緊張したな」と後年、振り返っている。

 また、未成年のファンの喫煙には厳しく接し「いかに体に悪いか」と、タバコの害を説明。「自分も禁煙したんだよ」と、自らの経験を交えて説得し、納得させ「じゃ、もう吸わないね?」と、最後はタバコとライターを没収したこともある。

 ただガミガミ「怒る」のではなく、あくまでソフトに「諭す」やり方だったので、反発されることもなかった。「指導方法の参考になるね」と、鬼軍曹と恐れられた故・山本小鉄さんも一目置いていた。

「私はコレでタバコをやめました」という禁煙グッズのCMがはやったが「私は永源ちゃんでタバコをやめました」という人も多い。「禁煙指導は永源ちゃん」が定説だった。

生来の世話好きで若手の手本に

 私は、親しみをこめて「タコ親父さん」と呼んでいた。携帯電話が普及する前、自宅の固定電話にしばしば連絡をいただいた。家人が「タコ親父さんからよ」と私に受話器を渡していた。

 そんなある日、まだ幼かった我が家の息子が、たまたま永源さんからの電話に出たことがある。大きな声で「お父さん! タコ親父から電話だよ!」……。

 これには、穴があったら入りたかった。しかし、永源さんは怒るでもなく豪快に笑い「元気な坊ちゃんだね」と笑い飛ばしてくれた。

「プロレスはどうなるんだろうね」とプロレスの将来を心配していた。永源さんが指導したレスラーがたくさんいる。リング上だけではなく、リングを下りてからの人付き合い、礼儀やマナーを教えていた。

「あいつは礼儀知らずだから困るよ。俺がフォローしたけど」などと愚痴りながらも、どこかうれしそうだった。生来の世話好き、面倒見の良さもあったのだろうが、人気選手へ陰ながらのサポートすることも多く「人付き合いは一番大事だよ。でも若いうちはリング上だけにしか目が行かないんだろうな。俺がサポートしなくちゃ、後援者や関係者が逃げちゃうよ。あいつの人気の一端は俺のおかげかもな。ハハハッ」と豪快に笑い、若手、後輩の手本になっていた。

「人気商売なのだから、人に支えてもらっているんだ。それを忘れちゃダメだ」ともよく聞いた。青い時代には分からなかったことも、年齢を重ねて分かってくることもある。永源さんの陰ながらの細やかな気配りは、みんなきっと忘れない。

 礼儀や人付き合いの大切さを教えてくれた永源さん。今ごろ、天国のリングで馬場さん、木村さんと一緒にプロレスしていることでしょう。たまには遠い空から星の窓を開けて、真ん丸の愛嬌ある笑顔を見せてくだいね。(文中一部敬称略)

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