京王線刺傷、模倣犯が生まれる理由とは 専門家「センセーショナルな映像が悪影響」
先月31日に都内を走行中の京王線の車内で乗客17人が重軽傷を負った無差別刺傷事件。殺人未遂容疑で逮捕された服部恭太容疑者は今年8月に小田急線で起こった同様の事件を「参考にした」などと供述、また、今月8日に九州新幹線の車内で火を放ち放火未遂の疑いで逮捕された69歳の男も「京王線の事件をまねした」と話すなど、一連の事件で模倣犯が多発している。模倣犯はなぜ生まれるのか、事件報道とどのようにして折り合いをつけていくべきなのか。犯罪心理学の専門家の駿河台大学・小俣謙二教授に聞いた。
京王線犯人は小田急線の事件を参考、九州新幹線放火は京王線事件を「まねした」
先月31日に都内を走行中の京王線の車内で乗客17人が重軽傷を負った無差別刺傷事件。殺人未遂容疑で逮捕された服部恭太容疑者は今年8月に小田急線で起こった同様の事件を「参考にした」などと供述、また、今月8日に九州新幹線の車内で火を放ち放火未遂の疑いで逮捕された69歳の男も「京王線の事件をまねした」と話すなど、一連の事件で模倣犯が多発している。模倣犯はなぜ生まれるのか、事件報道とどのようにして折り合いをつけていくべきなのか。犯罪心理学の専門家の駿河台大学・小俣謙二教授に聞いた。
密室の電車内で起こった一連の事件。これだけ短期間に同様の事件が連続することは日本犯罪史上でもまれだと小俣教授はいう。
「神戸連続児童殺傷事件、通称『酒鬼薔薇事件』の後には、模倣して犯行声明を出す犯人が続出しました。和歌山毒物カレー事件の事件の後も全国で似たような毒物の混入事件が多発した。ただ、これだけ短い期間でというのは聞いたことがない。事件の報道が、次の犯人に『こういうやり方があるのか』と気づきを与えてしまうケースです」
小田急線や京王線の事件のような無差別殺人を計画する犯人にはどのような特徴があるのか。
「動機はさまざまですが、攻撃性が高まっていることに加え、その対象がはっきりしないのが無差別殺人を起こす犯人に多い傾向。自分がうまくいかないことや社会に対しての怒りがあるが、その矛先がないから見ず知らずの人を襲うわけです。自分の力を誇示したがるタイプもいて、世間が大騒ぎするかを非常に参考にする。同様の事件が大きく報道されると、『自分ならもっと』という心理になることもあります」
事件を報じることがメディアの意義である一方、模倣犯の出現は報じる側の責任にもつながる。特に京王線のケースでは、事件の起こった車両から命からがら避難する乗客の姿や、背後の車両が炎に包まれる衝撃的な映像が何度も流された。小俣教授は一連の報道について次のように話す。
「立て続けにこういう事件が起こると、大きく報道せざるを得ないし、致し方ない部分もある。ただ、いかがなものかと思ったのは逃げ惑う人たちの映像を繰り返し流したこと。ああいったショッキングなものを映像という形で繰り返し見せられると、これだけの影響を与えられるんだということが伝わってしまう。爆弾の製造方法ならともかく、ライターオイルに火をつけたというような手口は、計画的な犯人であれば当然事前に調べているもの。そういった情報よりも、むしろセンセーショナルな映像の方が悪影響があります」
大きな事件が発生すると、犯人の人柄や生い立ち、バックボーンに関する報道が盛んになされるが、こういった報道姿勢にも疑問があると小俣教授はいう。
「確かに、サイコパスや反社会性パーソナリティー障害を持った人は脳の前頭前野に欠陥が見つかる傾向にあって、それは先天的なものだけでなく、幼少期の虐待経験やトラウマから生じることがあるという研究結果もあります。ただ、一概にそこに欠陥があるから凶悪事件を起こすとは言い切れず、まっとうに生きている人もたくさんいます。事件直後にことさら犯人のパーソナリティーを掘り下げる報道は、アニメと結びつけた秋葉原通り魔事件のように特定の人への偏見を生む可能性がある。そもそも人間の行動はそんなに単純に1つ2つの要素で決まるようなものではなく、その日たまたま嫌なことがあって大事件を起こすような犯人もいますから」
耳目を集めるショッキングな事件ほど、冷静で客観的な報道姿勢が求められる。模倣犯発生の懸念がある一方で、事件の対策や再発防止につながる報道の社会的意義も損なってはならない。今後も議論が続きそうだ。