電車内の事件から命を守るには 元警察官の専門家アドバイス 前提は「逃げる」

10月31日に発生した京王線電車内での刺傷事件。8月には小田急線での事件もあり、日常に潜むリスクが浮き彫りになっている。電車内のような閉鎖空間で事件に巻き込まれた場合に、身を守る方法としてどんなことがあるのか。総合探偵社AMUSE(アムス)顧問の川原潤一氏に聞いた。

電車内の事件から身を守る方法を専門家に聞いた(写真はイメージ)【写真:写真AC】
電車内の事件から身を守る方法を専門家に聞いた(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「いかに犯人との距離をとることができるか。これが原則です」

 10月31日に発生した京王線電車内での刺傷事件。8月には小田急線での事件もあり、日常に潜むリスクが浮き彫りになっている。電車内のような閉鎖空間で事件に巻き込まれた場合に、身を守る方法としてどんなことがあるのか。総合探偵社AMUSE(アムス)顧問の川原潤一氏に聞いた。(取材・文=吉原知也)

 元警察官の川原氏は、北海道警で機動隊の特殊部隊や警視庁刑事の経歴を持つ、犯罪・危機管理の専門家だ。

 刃物や凶器を持った犯人に遭遇した際、絶対的な前提となるのが、「逃げること」だという。「いかに犯人との距離をとることができるか。これが原則です」と強調する。

 襲撃犯は、突如襲い掛かったり、スプレーを吹き付けて攻撃を重ねたりするケースもある。いくら普段から訓練されている警察官であっても、とっさに護身術で応戦するのに時間がかかる場合もあるという。予測のつかない事態の中で、一般人が反撃に出ることは極めて危険だ。逃げることが最優先される。

 まず、周囲が騒いだり人々が動き出したことを察知したら、自身もすぐに動き出すこと。その際、周辺はパニックに陥りがちだが、「なるべく冷静になること」が重要だという。

 注意点として挙げられるのが、「犯人に背中を向ける状況をなるべく作らない」ことだ。とりわけ、ベンチシートの電車で車両間を移動して逃げる際は、車両間をつなぐドアに押し寄せて停滞するケースが多い。出入り口付近で止まって背中を向けたままだと無防備になってしまう。恐怖感が出てくるが、犯人の方を向くことで状況確認もできるとのことだ。

 一方で、近年は新幹線車内での事件も起きている。座席タイプは、例えば3席の一番奥の窓側に座っている場合など、逃げにくい構造にもなっている。この中でも、少しでも犯人を近づけない行動を取れるのか。

 自分が通路側に座っていて奥に他の人が座っている場合は、早く自分が動くことで、奥の人が動きやすくする。自分の席の後ろに人がいない場合は、座席を90度回転させて犯人が侵入をしてくるのを少しでも防ぐこともできる。そして、ポイントとなるのが荷物だ。「身一つで、荷物を持って逃げないこと」が、素早い行動を取ることの原則という。もし旅行などで大きな荷物を持っている場合は、周囲の避難状況を考慮したうえで、通路に大きな荷物を置けば、犯人が進むことに時間をかけさせ、体力を奪う意味で、有効になるという。

 しかし、万が一、逃げ場を失ったり、犯人が間近に来てしまった場合はどうするのか。逃げる道がなくなり、犯人と対峙(たいじ)せざるを得ないパターンだ。

 ここで上着を着ている場合は、上着を脱いで手に巻き付ける。犯人から受けるダメージを最小限に抑える効果が期待できるといい、「革製の上着であれば特に有効。上着を腕にぐるぐる巻きにして、刃物などの攻撃に対して防御をとる。もし、犯人が体力的に消耗すれば、制止・制圧することもできます。ただ、原則は逃げることを忘れないでください」。

 犯人が近づいてきた場合は、接する際の注意点もある。大声を出したり、威嚇することは、ある種の興奮状態にいる犯人を刺激させるNG行動だ。こちらから声をかけず、無言で対応すること。「それに、なるべくこちらが毅然(きぜん)とした態度でいること。恐怖心でいっぱいになるかと思いますが、犯人の目を見つめることも有効です。にらみ付けるぐらいに。犯人は逃げ惑う弱い人を追い詰めることに満足感を得るタイプが多いです。こちらが落ち着いて毅然としていれば、犯人の標的から外れることもあります」という。冷静さを保つことがポイントの一つになりそうだ。

 決して起きてほしくないが、今後、模倣犯の可能性も不安視される。川原氏は「日常の電車内で常に注意・警戒するのは疲れてしまうので考え過ぎはよくないです。ただ、周囲を見て、変だなと思うことがあれば、車両を変えたり降りることも一つの対策。リスクを頭の片隅に置いておくことも必要かもしれません」と話している。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください