「JUDO」から柔道への回帰の動き 審判技術の改善で「疑惑の判定」減少
日本で発祥し、130年以上の歴史を持つ柔道。国際化と共に、度重なるルール改正が行われ、過去には「疑惑の判定」と呼ばれる試合もあった。しかし、最近では柔道本来のあるべき姿に戻ろうという動きが加速している。東京2020では審判の判定が大きな混乱を招くような試合はなく、逆に評価を高めた。背景には、国際柔道連盟(IJF)が進める原点回帰策があり、日本が技の軌道修正に大きく貢献していた。一時、「JUDO」ともやゆされた柔道界に何が起きているのか。
「審判技術がすごい改善されてたので驚いています」
日本で発祥し、130年以上の歴史を持つ柔道。国際化と共に、度重なるルール改正が行われ、過去には「疑惑の判定」と呼ばれる試合もあった。しかし、最近では柔道本来のあるべき姿に戻ろうという動きが加速している。東京2020では審判の判定が大きな混乱を招くような試合はなく、逆に評価を高めた。背景には、国際柔道連盟(IJF)が進める原点回帰策があり、日本が技の軌道修正に大きく貢献していた。一時、「JUDO」ともやゆされた柔道界に何が起きているのか。
東京2020大会で、最終的な決まり技のジャッジを担当するNTO(国内技術役員)を務めた講道館の津村弘三氏は、五輪、パラリンピックでの審判員の印象についてこう話す。
「審判技術がすごい改善されてたので驚いています。ゴールデンスコア導入以前のレベルに戻っている」
物議を醸すような判定はなく、ほぼすべての試合がスムーズに進行した。審判の裁定に対する信頼の高まりを感じたという。
一時期ポイントが与えられることもあった、技とは認められない選手の動きも東京2020大会の審判はしっかりと見抜いていた。「アレっ取るかな?と思ったけど、審判員は取らなかった」と津村氏。
柔道ではこうした大舞台ではたびたび、判定が議論になってきた。象徴的なシドニー五輪の篠原信一VSダビド・ドゥイエ戦は、いまだに語り草で「世紀の誤審」などと言われている。しかし、近年ではこうした炎上騒ぎは減少傾向にある。
その裏には、日本のサポートがあった。
実は2016年のリオデジャネイロ五輪を境に、審判技術が再び問題視されるようになっていた。
きっかけはリオ後にIJFが行ったルール改定。勝敗をはっきりさせるため、本戦で技のポイントによる優劣がつかなかった場合、どちらかが一本もしくは技ありを取るかまたは反則負けになるまで、時間無制限の延長戦を行うゴールデンスコア方式が導入された。
これが審判の判定に微妙な影響を与えた。試合を決着させる意識が先行し、本来、技として認められない動きに「一本」「技あり」がコールされる。
「始まってみると、ゴールデンスコアじゃ決まらない。どうやって決着をつけるのか? 技じゃないことも認めるようになっちゃった」(津村氏)
例えば、寝姿勢のまま相手をひっくり返しただけで技ありとなったり、巴投げの自滅が一本と判定されたケースもあった。そして当然、そのような状況を、あえて狙う選手も出てきた。
嘉納治五郎が創始した講道館では柔道の技は投げ技68本、固め技32本の合計100本と定めている。これらに当てはまらない、つまり「投げた」「抑え込んだ」と言えないようなものが認められるようになってしまったのだ。
かねて柔道技術の混乱に危機感を感じたIJFは、長年の問題を改善するべく、講道館に協力を求めた。16年から、国際試合を映像化する際の決まり技名称の入力作業を、講道館に依頼した。
これまでは大会を主管した各国が担当しており、技名称の正確性にバラつきがあった。
日本の柔道家に判断をゆだねたのは、柔道母国として「この人たちが言うなら間違いないだろう」といったような信頼があった。時代の流れで、柔道から「JUDO」へと変貌を遂げる中、もう一度、原点に立ち返り、技の本来の意味、正確な動きと何かを、柔道界を挙げて再確認するというIJFの意思表示だった。