カンヌ話題作で青年期の小野田少尉役、34歳俳優「大冒険」カンボジア撮影のウラ側

第74回カンヌ国際映画祭2021「ある視点」部門でのオープニング作品に選ばれた「ONODA 一万夜を越えて」(10月8日公開、アルチュール・アラリ監督)は終戦を知らされないまま約30年間、フィリピン・ルバング島で秘密戦の任務を遂行し続けた実在の人物・小野田寛郎さんの姿を描く。その青年期を演じた俳優の遠藤雄弥(34)は役を通し、何を感じ取ったのか。

映画「ONODA 一万夜を越えて」で小野田寛郎さんの青年期を演じた遠藤雄弥【写真:ENCOUNT編集部】
映画「ONODA 一万夜を越えて」で小野田寛郎さんの青年期を演じた遠藤雄弥【写真:ENCOUNT編集部】

遠藤雄弥インタビュー、映画「ONODA」で青年期の小野田少尉役「最後まで生き抜いた人」

 第74回カンヌ国際映画祭2021「ある視点」部門でのオープニング作品に選ばれた「ONODA 一万夜を越えて」(10月8日公開、アルチュール・アラリ監督)は終戦を知らされないまま約30年間、フィリピン・ルバング島で秘密戦の任務を遂行し続けた実在の人物・小野田寛郎さんの姿を描く。その青年期を演じた俳優の遠藤雄弥(34)は役を通し、何を感じ取ったのか。(取材・文=平辻哲也)

「ONODA」はアラリ監督がノンフィクション小説を原作に壮絶で孤独な日々と戦った男の人間ドラマだ。遠藤雄弥が青年期、津田寛治が成年期を演じている。今年7月、カンヌ国際映画祭で華々しく上映されたが、撮影が始まったのは2018年冬のことだった。遠藤は、山崎貴監督のデビュー作「ジュブナイル」(2000年)で主人公の少年を演じ、その後は舞台・ドラマ・映画と活動する。

「オーディションで選ばれた時は感無量でした。僕のキャリアの中でも1度か2度あるかないかというもの。責任も同時にのしかかりました。受かってから、小野田さんが書かれた『たった一人の30年戦争』など本を読み、こういう人がいたんだなと驚き、そのドラマにすごく惹かれました」

 小野田さんが発見されたのは1974年3月。1987年生まれの遠藤にとっては、小野田さんの事件は教科書の中の出来事だ。小野田さんは1922年3月、和歌山県生まれ。高所恐怖症のため、憧れのパイロットにはなれず、士官学校などを経て、陸軍中野学校二俣分校で諜報術など学び、「玉砕ではなく、生き残れ」と薫陶を受け、1944年に比島派遣司令部参謀部付としてフィリピン・ルバング島に派遣される……。

 戦時中の体型になるために減量も。「役のために、体重を落とす経験も初めて。12~15キロぐらい減量していったら、監督からは『ありがたいけども、やせすぎだ。これでは、その後を演じる津田さんが大変だから。太ってくれ』と言われました。助監督さんからは袋いっぱいのピーナツバターをもらって、食べて、最終的に11キロ減くらいにしました。『レイジング・ブル』(※主演のロバート・デ・ニーロはボクサーの現役時代と引退後の体を見せるため、体重を約27キロ増減させた)かと思いましたけども、監督には、言われたことに120%で応えたいと思いました。そのくらい求心力のある方でした」。

 撮影は2018年末から2019年頭にかけて、約4か月、カンボジアのジャングルで行った。「監督からは撮影前に『今回の映画は本当に大冒険になる』というメールをいただいたのですが、カンボジアのジャングルで撮影すること自体が大冒険なんですけど。演出方法も冒険でした。監督がまず、解釈と状況を丁寧に言ってくださって、そこからどういう心情なのかを探っていくという感じで、こういう経験は初めてでしたね」と振り返る。

 監督以下スタッフはほぼフランス人、メインキャストは全員が日本人で全編日本語セリフという異色作だが、言葉の壁はまったく感じなかった。「通訳の方がとても優秀で、監督がおっしゃってくださったこと、僕らの言葉を一言一句伝えてくれましたし、監督が言っていることは意味がわからなくても、不思議と熱量や機微で伝わってくるものもあったんです。芸術は言葉を超えるじゃないですけど、不思議な経験でしたね」。

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