パラ閉会式のショー総合演出・小橋賢児氏「リハーサルでおえつしたときも」 準備期間の秘話

東京パラリンピック閉会式から一夜明けた6日、式のショーディレクター(総合演出)を務めたクリエーターの小橋賢児氏(42)が、都内でENCOUNTの単独インタビューに応じた。前編では「みんなが主役」になったショーの模様を振り返り、準備期間のエピソードを存分に語った。

東京パラリンピック閉会式のショーディレクター(総合演出)を務めた小橋賢児氏【写真:荒川祐史】
東京パラリンピック閉会式のショーディレクター(総合演出)を務めた小橋賢児氏【写真:荒川祐史】

【単独インタビュー前編】 櫻井翔の「チョーかっこいい」に「ありがたい」

 東京パラリンピック閉会式から一夜明けた6日、式のショーディレクター(総合演出)を務めたクリエイターの小橋賢児氏(42)が、都内でENCOUNTの単独インタビューに応じた。前編では「みんなが主役」になったショーの模様を振り返り、準備期間のエピソードを存分に語った。(取材・構成=柳田通斉)

――東京パラリンピック閉会式のショー総合演出、相当な重圧もあったと思いますが、終えた今の心境は。

「正直、終わった~という実感はまだないですね。この数か月、ゾーンに入っていたような感じで、24時間態勢で演出のことを考えていましたので。例えば、昼は演者さんと、夜は映像チームや衣装チームと向き合う。音楽も一緒に作って、時にはスタジオで生セッションをして、議論を重ねました。なので、妻には『申し訳ない』と言いながら、この仕事に集中していました」

――障がい者も健常者も一緒になった「みんなが主役」のショーでしたね。ドラムパッドを演奏する18歳のミュージシャンSASUKEさんが登場したオープニングから印象的でした。

「『パラリンピックだから障がい者が主役』だと、『障がい者だからすごいでしょ』になってしまうと思いました。昔から僕の周りには、障がい者の方がいましたけど、物理的に違いはあっても心の部分では、普通に健常者ともフラットな関係ができていました。今の若い世代にも、そういう感覚の人は増えてきていると思います。だから、ショーもできるだけ、フラットな関係値にできたらと思いました。SASUKE君に関しては、彼を取材したことがあるメディア関係者の友人が『すごくいい』と言っていたのを思い出しました。そして、あらためてYouTubeで検索し、街中にちょこんと1人座って小さな楽器(MIDIパット)をたたいている姿を見ました。そこでインスピレーションが湧きました。壮大なオーケストラから始まる感じより、たった1人の少年が奏でるパッドから世界が広がっていくのもいいなと。どんな人にも世界を変える力があって、一人一人が変われば世界は変わっていくということを、東京の若者のエネルギーとファッション、音楽と共に出せればいいなという思いもありました」

「みんなが主役」で決めた有名人を入れない

――ワンカメショーによるダンスパフォーマンスでは、NHKの中継でゲストだった櫻井翔さんが、「みんな、チョーかっこいい」と感嘆の声を上げていました。

「NHKの中継は後から見ましたけど、ありがたかったし、うれしかったです。実はショーが始まる前からインカムで演者に『みんなが主役だからね。ありのまま、キラキラしている姿を見せていきましょう』と伝えていました。正直、準備時間が多くない中で、途中から『有名人を入れるのを止めよう』と舵を切りました。シシド・カフカさんについては、1人を際立たせる役割ではなく、手話のようなハンドサインで誰もが即興で音楽を奏でることができるプロジェクト『el tempo』のコンダクターの一員として入っていただきました」

――キャスティングにも携わったのですね。

「全部じゃないですが決めていって、可能な限り一人一人にシナリオ、ストーリーをプレゼンしました。公募で決まった人たちにも、あらためて説明しました。演者にはプロもいれば、ダンスが初めての人、テレビにも舞台にも出ていない人、60代の女性もいました。障がい者の中には、体調やメンタルの状態が不調でリハーサルに参加できない人もいました。コンセプトは『調和する不協和音』でしたが、さまざまな人が集まるショーの準備はまさに不協和音で、なかなか調和が取れない。『これ、どうやってまとめればいいのか』と心が折れそうにもなりました」

――ダンスの未経験者に「振り」を入れていくのは、大変だったのでは。

「これも櫻井さんも話されていましたが、知的障がいの人は、振りをつけるとなかなか踊れません。でも、『自由に踊って』と言うと、とてもすてきな踊りをする。そこで、振付家による逆転の発想で、彼らが自由な発想で踊ったものからインスピレーションを受けて、その踊りをみんなに伝えていく手法を取りました。ワンカメショーも振付家、チームと話し合う中で決まりました。カットで割っていくと、どうしても作られた世界を見せられている感じがするので、ワンカメでずっと見せていく方がいいという考え方です。そして、ファッション、スタイル、踊り、みんなバラバラなんだけど、見ていくうちに『これでいいじゃん』『どれもいいじゃん』と、能動的に感じてもらえたらという思いがありました」

――会場で本番を見届けた時の思いは。

「正直、リハーサルではすごく泣きました。障がいの有無関係なく、みんなからすごく感動させられていたので。一人一人が変わっていく姿を見せられて、何度も涙し、おえつしたときもありました。ただ、本番になると、そういう感情を超えてしまって、一番楽しく見ることができました」

――櫻井さんも「見ていて笑顔になる」と言っていました。共感する人も多かったと思います。

「ありがたいです。僕は『楽しく生きる』ことが、一番大事だと思っています。自分が置かれた立場がどうであれ、自分が楽しければ、この世界は楽しいわけです。伝えたかったことは、『こんな世界になったらいいね! ではなく、見方を変えれば、すでにこんなすてきな世界はあるんだよ』で、それが無意識の中に伝わればいいなと思っていました」

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