田村正和さんが教えてくれた「古畑任三郎」長ぜりふでNGを出さないコツとは?
話芸家の山田雅人が、40年のキャリアで出会ったさまざまな人々から受け継いだ「心に残る言葉」を紹介する「山田雅人のことば」。今回は山田が俳優としてお世話になった大先輩で4月3日に亡くなった俳優・田村正和さんからいただいた大切な言葉を紹介する。
【山田雅人のことば#3】古畑任三郎で学んだ「初志貫徹」
話芸家の山田雅人が、40年のキャリアで出会ったさまざまな人々から受け継いだ「心に残る言葉」を紹介する「山田雅人のことば」。今回は山田が俳優としてお世話になった大先輩で4月3日に亡くなった俳優・田村正和さんからいただいた大切な言葉を紹介する。(取材・構成=福嶋剛)
こんにちは、山田雅人です。今回は、田村正和さんからいただいた大切な「ことば」を紹介します。
田村正和さんとは、「古畑任三郎」(フジテレビ系、1994~2006年)のセカンドシーズン、唐沢寿明さんが犯人役の「VSクイズ王」(96年2月放送)の中でクイズ番組の司会者役として共演させていただきました。
田村さんの大ファンだった僕は、特に好きだった古畑任三郎のオファーをいただき、心臓が飛び出るくらいドキドキしながら撮影に臨んだのを今でも鮮明に覚えています。最初にスタッフの方に言われたのが
「田村さんは、常に一発OK、2回目はやらない人だからくれぐれもNGを出さないように」
もうみんな緊張して必死に台本を暗記したのを覚えています。とにかく田村さんのすごいところは一番長いせりふ。誰よりも田村さんのせりふが一番長いのに一度もNGを出されないんです。関係者に聞いたところ、田村さんはNGを出して2回目をやってしまうと1回目の言葉の音符を追ってセリフを言ってしまうので、1回目を超える演技ができないというお考えだったらしく、だから一発OKじゃないといけなかったんですね。
また、田村さんは、本読み(=リハーサル)の段階から台本を持たずに顔を見てしゃべってくれるんです。本読みって普通台本を確認しながら合わせていく作業なんですが、もう全部頭の中に入っていたんですね。それを目の当たりにして本当に驚きました。僕は自分の出番以外でも撮影をずっと見学させていただいたのですが、本当に誰もNGを出すことなく全て一発で撮り終えたんです。
そんな田村さんは、いつも出番まで専用の電動のイスに座っていました。リクライニング機能はもちろん、台本を読むための専用のライトも取り付けてあったんですね。ご自身の楽屋には戻らずに、スタジオの隅っこでそのイスに座り、ご自身が出ていないシーンもしっかりと見ていたんです。
もちろん、撮影中に田村さんに近付くなんて恐れ多くて誰も考えなかったんですが、僕は千載一遇の大チャンスですから、一度でいいので田村さんとお話がしたくて。そこでマネージャーから「ライトが付いているときは必ず台本を読んでいるから絶対に近寄らないこと。ただしライトが消えたらチャンスです」と教えてもらい、勇気を振り絞って田村さんに声をかけました。
すると田村さんは僕の番組や「架空競馬実況中継」の芸を見てくださっていて、とても穏やかにお話をしてくださいました。それがきっかけで、田村さんには、撮影中もめったに聞けないいろんな話をお聞きしました。たとえば「眠狂四郎」の刀をカメラに向かってどうやって回すと光るのかといったそんなコツまで教えてくださったんですね。