コロナ禍でも「猫の手も借りたい状態」 ギター弦楽器の修理業者が語る“意外な実情”
長引く新型コロナウイルス禍で在宅時間が増える中で、楽器に注目が集まっている。ギターを中心とした弦楽器の修理・販売の業者には、「予想外」の修理依頼が舞い込んでいるという。ギターを演奏する人が増えているとみられる意外な現状を聞いた。
“アコギ需要”の高まりを実感 今年に入ってから修理依頼が加速
長引く新型コロナウイルス禍で在宅時間が増える中で、楽器に注目が集まっている。ギターを中心とした弦楽器の修理・販売の業者には、「予想外」の修理依頼が舞い込んでいるという。ギターを演奏する人が増えているとみられる意外な現状を聞いた。
30代の男性社長は、都内でギターなどの修理・販売店を経営。千葉県内には約40年の歴史を持つ親族の修理工房が関連会社としてある。現在、総預かり本数は約400本。過去最高の取り扱い本数という。都内の店には、修理待ちのギターを20本以上保管。主にアコースティックギターだ。
「猫の手も借りたい状態。リペア職人さんの即戦力の求人を募集していて、きょうも1人面接した。時間が足りない」と、男性社長は現状について明かす。
昨年4月の1度目の緊急事態宣言。急いで感染対策に取り組む中で、「先の見えない不安」を感じたという。困惑の中でも、新しいアイデアで前を向こうと、YouTubeを展開。昨年5月から、部品修理や壊れたギターの修理動画のコンテンツ発信を本格的に始めた。
昨冬から潮目が変わり、2度目の緊急事態宣言が発令された今年1月に入ってから、修理依頼がさらに増加するようになったという。依頼者のパターンは、新しくギターを始めた若者と、押し入れから昔のギターを引っ張り出してきた中高年。この2つが顕著だ。
男性社長は「若い客には中高・大学生の女性もいて、アコースティックギターを持ってくる人が圧倒的に多い。ヒットした瑛人の『香水』、ギターを弾き語るあいみょんの影響があると思う。それに、ネットオークションや個人取引で手に入れたギターやウクレレの不具合を直してほしいという依頼も多い」と語る。また、「付き合いのある楽器屋からは、10万円以下のギターがよく売れているという話を聞いた」とのことだ。
バブル期は海外の有名メーカーのギターが売れ、楽器を買う人が増えることで、修理依頼も増加した経験則があるという。コロナ禍によって自宅で過ごす時間が増えたことで、家で1人でも楽しめるアコースティックギターの需要が高まっているとも言える背景があるようだ。
「コロナ禍によって需要が減るとしか思っていなかった。まったく想像もつかない展開」と驚きの思いを明かす男性社長。一方で、不景気とコロナ禍に見舞われた経済の中で、けっして手放しに喜べるわけではないという。もともと時間のかかる修理業務で新規の大量受注に対応するのは難しく、あくまで“ブーム状態”と楽観視はしていない。
男性社長は「ギターはどうしても挫折する人が出てくる。楽器をやめてしまうことがないように、自分たちは、最大限に弾きやすい状態を保つことが大事」と強調する。楽器の修理・調整を通じて、“続けてもらう”施策を工夫しているとのことだ。
たとえば、ギターは、基本のコードなのに少し難しい押さえ方をする「Fのコード」が、挫折の大きな原因であることが知られている。そこで、初心者や女性でも、少ない力で押さえやすくするために、ギター自体の弦の高さを低く調整する方法がある。こうしたギターの所有者に合った調整法を含めたケア・相談の充実、よりよい接客だ。これまで以上の丁寧なサービスを進めていくという。
ダメージを受けている音楽界全体の復活のために力を注ぐといい、男性社長は「ギターや楽器に少しでも興味を持ってくれる人が増えれば。少しでも貢献したい」としている。