神か悪魔か? 那須川天心の「頂上決戦」劇的KOを分析する!

「神」  2019年の大晦日、那須川天心が江幡塁戦に1RKO勝ちをした直後、日本格闘技界のお騒がせ男、“バカサバイバー"青木真也は自身のSNSアカウントで思わずそうツイートした。

リングに仁王立ちした那須川(右)(C)RIZIN FF
リングに仁王立ちした那須川(右)(C)RIZIN FF

江幡塁から3度のダウンを奪う激勝!最強を証明

「神」

 2019年の大晦日、那須川天心が江幡塁戦に1RKO勝ちをした直後、日本格闘技界のお騒がせ男、“バカサバイバー”青木真也は自身のSNSアカウントで思わずそうツイートした。

 もちろん、それはネットスラングの「凄い、素晴らしい」の最上級を指す「神」のような展開もしくは存在という意味なのだが、青木にとっては、これまで“神童”と呼ばれてきた天心に、もはや「童」の文字は必要ないと思った瞬間だったとも言える。

 実は戦前の段階で、天心は「修羅場の違いを見せる」と語り、「圧倒的な勝ち方で、大晦日らしくド派手にKOが理想」とも口にしていた。

 それでもこの試合のテレビ解説を務めたタレントの関根勤氏曰く、「日本キックボクシング界の3強のうち2強の闘い」と評されるほど、一部マニアにとっては待望の「日本キックボクシング界頂上決戦」。それは江幡の持つ、対日本人無敗という実績から来る「物語」のはずだった。

 それを引き立てるべく江幡は、小学生時代からの幼馴染みで俳優の三浦春馬と入場。フジテレビでの生中継と「大晦日」を彩るお祭り感を演出する。お膳立ては整った。

 ところが蓋を空ければ、天心は江幡から1Rに3度のダウンを奪っての完璧なTKO勝ち!(2分40秒)つまりは天心の言葉通り「圧倒的な勝ち方で、大晦日らしくド派手にKO」という「理想」を現実化したのである。

 確かに敗れた江幡からすれば、これまで「打倒ムエタイ」を掲げ、ムエタイ特有のヒジを使った得意の攻撃が使えなかったこと。これが勝敗を左右した可能性を全否定することはできない。

 しかしながら思い出してほしい。

 思い起こせば丸1年前、天心はプロボクシング5階級制覇のフロイド・メイウェザーJr.と事実上のボクシングルールで対戦。しかも10キロ以上といわれる体重差を乗り越えての一戦は、メイウェザーの激勝(1R2分19秒、TKO)だった。

「僕はあの試合で強くなった」

 1年後、天心は江幡をKOした直後にそう話したが、それは「修羅場」を乗り越えた上での心技体の強化はもちろん、ルールの選択においても主導権を握ること。それを痛感したと考えるのは安直だろうか? いや、やはり自分はそう思えてならない。

 おそらく江幡は、天心が相手でなければそこ(ヒジあり)は譲らなかった、というより譲る必要がなかったに違いない。事実、そうやって江幡は対日本人無敗を誇ってきたし、江幡の実績を持ってさえすれば、天心以外のキックボクサーは、江幡の選択したルールで対角線に立つことを厭わないだろう。

 要するに、そこを曲げた上での「頂上決戦」を江幡が選んだのは、相手があの天心だったからだ。それは天心があのメイウェザー相手に事実上のボクシングルールで挑戦したのと、意識の上では全く変わりがないように思う。

 とはいえ、ここまで圧巻な場面に遭遇すると、あながちヒジの有無だけが江幡の敗因でないことは一目瞭然。だが、それでもあえてそこに焦点を当てたくなるくらい、天心は圧倒的すぎた。

「試合前に負けるんじゃないか、と言った声が聞こえたけど、そういう声をひっくり返してやろうと思っていた」

「試合前から『試合してえ!』(と思ったし)負ける気がしなかった」

 そう言って自身のキレの良さを嬉しそうに語っていた天心。

 ちなみにこの日は全15試合中、2試合だけがキックボクシングルール。そしてそう発表された段階で、「僕はこの2試合はチームだと思っています」とも話していた天心。そういったキックボクシング愛が天心の強さの根本なのだろう。

 とにもかくにも強すぎる天心。と同時に、それがゆえに難題が降りかかってしまう皮肉も存在する。というのはこの結果を受けて、さらに天心の対戦相手に相応しいファイターを選考することが困難になってきたからだ。

 かといって3強のうちの残る一角を占めるK-1の武尊戦については、昨年12月5日の段階で「もう交わる確率はない」とのコメントを発しているだけに、もう天心の実績を勝るか同等のファイターを見つけることが難しい現実がある。

 実際、RIZINの榊原信行CEOも「現段階ではノーアイデア」と黙るしかない。やはり天心は青木のツイートよろしく「神」の存在にまで登りつめてしまったのか。

 そういえば試合後、スポーツ紙の記者がどうしても訊ねたい話として、天心が「神」にも似た(?)快挙を達成したことについて、その見解を求めていた。それは2001年に「大晦日格闘技」がお茶の間を賑わし始めてから、日本テレビ(の「ガキの使いやあらへんで」)とフジテレビの格闘技中継という裏表2局に天心が出演したこと。偶然にもそれは「史上初」をもたらしていたという。

「僕はテレビ業界の掟はわからなかったので(苦笑)。でも、メインはRIZINを盛り上げること。その点ではフジで結果を残せたのが嬉しい。いい経験になりました」

 そう言って偶然ながら手にした「快挙」について苦笑いした天心。やはり天心は「快挙」を呼び込む「神」なのか。

 しかしながら天心は、江幡戦を振り返りながらこうも言っていた。天心は「力まずにリラックス」を心がけつつ、「神」ではなく「悪魔的な強さを見せよう」と考えていたというのだ。

 いったい天心は「神」か「悪魔」か? それとも双方が同居している? こうなるとますます2020年、天心の内なる「神」と「悪魔」を脅かす「化け物」が出て来ないと面白くない!

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