【Producers TODAY】テレ東プロデューサーの挑戦 人々の分断を埋める「テレビのパワー」
「極嬢ヂカラ」「アラサーちゃん 無修正」「生理CAMP2020」など女性ならではの悩みに正面から向き合う番組作りで知られるテレビ東京の工藤里紗プロデューサー。新たに手掛ける23日放送の同局系「時代(イマ)の言葉(ワード)が分からないあなたと…『ついていけない子さんを愛でる』(午後4時)は“新しい形”の「問題提起型ドラマバラエティー」なのだという。いったいどういうことなのか。工藤プロデューサーに聞いた。
“ワード”について知っている人と知らない人の分断が深まっている
――この番組の新しさとは何ですか?
「みんなが知っているようで知らない世の中の現象やワードについてドラマ、ショートコメディー、トークの各形式でお伝えする番組です。今回テーマにしているのが『SDGs』(※1)、『フェムテック』(※2)、『PMS』(※3)、『サウナー』(※4)ですが、こういったテーマ自体を扱う情報番組ってネット含めあるとは思うんですが、知っているようで知らなかったものをニュースとも情報番組とも違うショートコメディーなどで表現するというのが、この番組の新しいところかな、と思っています」
――なぜコメディー?
「『SDGs』もそうですし、女性の悩みに関わる『フェムテック』や『PMS』などの用語をそのまま取り上げるとマジメになりやすいところがあって、興味がある人は自分で情報収集したり情報を拡散したりするんですが、興味ない人との分断ができてしまうことについて危惧してまして。そこで知らない人にも興味を持ってもらうきっかけとしてエンターテインメントという手法があるのではないか、と考えてショートコメディーにしてみました。過去にも深夜番組で“老い”に関して似たようなスタイルをとったことがあります。アラサー・アラフォー女性が初めての白髪を発見するとか、歯にものが挟まって取れないとか、胸が垂れる垂れないとか、そういう話なんですけど、老いていくということだけをフォーカスしていくと何だか“老い”が恐ろしいとか、マイナスにとらえられてしまう部分がある。それに対してハッピーになって、それも人間だよね、と楽しんで行こうというような感じで今回も笑わせるものが出てきて、いろいろなワードも出てきますが、その言葉を知っている、知らない、という両者の分断ではなく、小難しいワードを知っている人が知らない人を包み込んで愛(め)でていくためにコメディー形式にしてみました」
昨年放送の「生理CAMP2020」で女性特有の悩みを可視化
――コメディー形式にすると間口が広がる?
「昨年8月に『生理CAMP2020』という番組を放送しましたが、ここ数年、女性特有の問題が可視化されるようになって、世界中の女性がモヤモヤしていたことを発言するようになった。生理もそのうちの大きなテーマのひとつです。番組で森三中の黒沢かずこさんが『初潮が来たことを母親に言えなかった』『中学校から同じ生理用品を使い続けているから新しい生理用品は怖い』と話していました。すると黒沢さんに共感する声がたくさん出てきて、世の中の見えない部分ってこういうところだよな、って分かってきた。ネットで情報を集めようとしてもアルゴリズムでその人が読みたくなる記事ばかりがどんどん上がってきて、自分が見ているものがマジョリティーじゃないか、って錯覚してしまう。黒沢さんに共感したり勇気付けられた人の話を聞いて、ネットで積極的に発信している人ではなく、ネットに出てこない人の声ってすごく大事だと思いました。と同時にテレビってまだこういう人たちに声を届けるパワーがすごくあるんだなって再認識しました。みんなが生きやすくするためには、こうした一人ひとりを“個”としてもっと大切にしていくべきなので、そういう意味で“愛でる”という言葉をタイトルに入れました。高飛車にならず黒沢さんと同じ目線で楽しんでもらうことで視聴者に勇気を与えられるのかな、と思っています」
――デジタルデバイドの問題が深刻化しています。
「インターネットには素晴らしいところもたくさんありますが、何でもつながっているように見えても実は自分の中で知らないうちに情報バイアスがかかっているということも大いにある。私自身も気を付けないといけないな、と思う部分も多いです。今回のテーマの中に『SDGs』というワードがありますが、何となく知ってるようで知らない。番組スタッフも『何ですか、それ?』『また意識高い系の言葉を言ってますね』という反応なんですね。今回、実際に子どもから年配の方まで計45人がネットインタビューに答えてくれました。知っている人は5、6人で、残りの人は『読めない』というのがリアルな結果。ですので、そういったワードを知らない人にも興味を持ってもらえるような番組を目指しました」
問題解決の部分で分断を生むのはまったくもって不思議
――言語化が大切?
「そうですね。『SDGs』の中にも入っているジェンダー平等に関してライトに声を出せるようになったのはここ数年のことだと思いますが、それでも分断を生んでいるな、と感じていて、例えば性差別というワードを発しただけでアレルギーを持つ人もいる。生理についてもそれはあると思うんですが、そもそも問題解決であったり、誰かが困っているというのは何のケンカの要素にもならないはずなのに、そこで分断を生んでしまうのはまったくもって不思議でしかない。性別や病気、老いに関しても、なぜか男女の間で分断を生みやすいんですけど、それは声にしないから分断を生みやすいのかなと感じます」
――男女は違う、という発想が根強い?
「性教育でも男女を分ける。分けるから話しやすい部分はもちろんありますが、知らなくていいとなってしまうと、そこでも知っている人との分断を生んでしまう。番組で取り上げる『PMS』にしても『“生理“や“月経”って声に出して言うなんてはしたない』と拒否感を持つ人もいる。私も周りに気付かれたくなくて、小学校から生理用品を交換する音も気を遣いながら生きてきたのでよく分かります。でも、“恥ずかしい隠すもの”と感じるそれ以外に何の問題があるのかな、と。生理前に具合が悪くなる人がいるということや、気軽に医師に相談したり、未成年だったら気軽に母親や友達に相談できることの方が大事だし、パートナーができたら自分の体調を話せたほうがいい。だからその“生理”というワードについて『はしたない』『恥ずかしい』『言ってはいけない』というようにタブーになっちゃうと相談できなくなってしまう。言うことのマイナスを少しでも減らしてみんなが楽になればいいな、と思います」
――多様性への想像力が必要とされている気がします。
「私の9歳の息子が韓国ドラマ『梨泰院クラス』を見て『トランスジェンダーって何?』って聞いてきたんですが、そういう質問が出たり親子の会話のきっかけになるっていうのもエンターテインメントかなと思います。エンターテインメントの中に描かれることでそういう質問が出る。そういうときに親が答えられる範囲で答えてあげられるとエンターテインメントからの学びになるし、エンターテインメントから興味が広がることになります」