「大貫勇輔にしかできない表現を」 ハリー・ポッター役で224公演経て立ち返った原点
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を224公演務めた大貫勇輔(38)が、ダンサーとしての原点に立ち返る。ダンスエンターテイメント演劇『PASSION ―北斎の描く夢―』(10月22日~11月3日、横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)で葛飾北斎を演じる。久々となるダンス主体の舞台に、大貫は「一周回ってきた今だからこそできる」と胸を躍らせている。

『PASSION ―北斎の描く夢―』が10月22日から上演
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を224公演務めた大貫勇輔(38)が、ダンサーとしての原点に立ち返る。ダンスエンターテイメント演劇『PASSION ―北斎の描く夢―』(10月22日~11月3日、横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)で葛飾北斎を演じる。久々となるダンス主体の舞台に、大貫は「一周回ってきた今だからこそできる」と胸を躍らせている。(取材・文=平辻哲也)
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本作はダンス、演劇、音楽を融合させ、柚希礼音が北斎を突き動かす情熱や理想、KELOが世間や常識、現実の価値観を担う異色作だ。
「葛飾北斎を僕が演じるという驚きとともに、本当に新しいものができるかもしれないと思いました。『ハリー・ポッター』というストレートプレイから、今度はまたダンスに戻ってくる。もともとダンサーで、一周回ってきた今だからこそ、新しいダンス公演、新しい演劇を使ったダンス公演ができるんじゃないか、新しい自分に出会えるんじゃないかと思ったんです」
振付・演出はKAORIalive氏、共同演出は元吉庸泰氏、脚本は藤井清美氏、音楽は森大輔氏。大貫自身、まだ本格的な稽古に入る前から熱を帯びている。
「柚希さんとKELOさんという、自分とは全く違う個性を持ったお二人と、KAORIaliveさん、元吉さんとみんなで物作りをする。その空間に行けるのが本当に楽しみです。やるなら死にものぐるいでやろうぜ、妥協しないで絶対に面白いものを作ろうぜという気持ちです」
その期待をさらに膨らませたのが、藤井氏の脚本だった。
「台本を読んで、僕、3回ぐらい泣いちゃったんです。表現者の葛藤って、たぶんみんな一緒で、自分はこうやりたいのに届かないとか、行ったと思ったらまだ全然先があったとか。この何とも言えないものとずっと向き合っている苦しみは、表現者ならみんな出会う自分なんじゃないかなと思って」
北斎は90年近い生涯の中で画号や作風を変え、晩年まで描き続けた。大貫も北斎の展覧会に足を運び、自分が知っていた北斎像との違いに驚いた。
「僕の中では『富嶽三十六景』の色を使っている北斎しか知らなかったので、こんなにもいろんな絵を描いていたんだと。墨の濃淡だけでここまで描いていた才能もすごい。天才だったと思うんですけど、その中には孤独もずっとあったんだろうなと思います」
成功した巨匠というイメージとは裏腹に、大貫が脚本から読み取ったのは、満足することを知らない表現者の姿だった。
「永遠に挫折しているんですよ。彼の中では。外から見ているものと、自分の中にあるものがバラバラというか。『お前はいいよな、絵がうまくて成功して』と言われる一方で、ずっと芽が出ずにくすぶっていた時期もあったし、描きたくもないものを妥協して描いていた時期もある。でも、『いや、それは違う』とまた違うものを描き始める。90歳近くになってもずっと悩みがあるわけじゃないですか」

三位一体で北斎を表現
だからこそ、本作では北斎を大貫一人の肉体だけで表現しない。大貫が北斎、柚希が情熱や理想、KELOが現実や常識を担い、三者が一人の人間の内側を形にしていく。
「自分の中に本当にいくつも自分がいるんだと思うんです。この3人でやるというのは、きっと北斎そのものなんでしょうね。一人では描き切れない、演じ切れないような内側を持った人物なんじゃないかなと思います」
柚希とはコンサート『REON JACK 2』をはじめ、これまでも何度も共演してきた。一方、KELOとは今回が初共演だ。宣伝用の撮影で顔を合わせた時から、その存在感は際立っていたという。
「KELOさんは一人だけ空気が違うんですよ。一緒の場所にいて、なじんでいるのに、一人だけ何か違う。水彩の中に油が入ってくるみたいな。でも、ちゃんと混ざっている、調和しているというか」
KELOはニューヨークのアポロシアター「アマチュアナイト」で年間チャンピオンに輝き、ストリートを軸に独自の身体表現を築いてきたダンサーだ。
「ジャンルで分ければポップとかアニメーションとかフリースタイルになるんでしょうけど、KELOさんはもうオリジナルな気がする。ストリートダンサーというより、『KELO』というダンサーという感じがします。得意なジャンルはそれぞれあるけれど、表現者が集まったなという感じなんです」
三つの個性は、きれいに混ざり合うだけではない。
「まさに北斎みたいなんです。それぞれの北斎がぶつかり合う。反発し合っているような、混ざり合っているような、個々が独立しているような、そういう舞台になるんじゃないかなと思っています」

目標は「海外」と即答
横浜公演の会場となる赤レンガ倉庫1号館3Fホールも、この作品を形作る重要な要素だ。舞台と客席との距離が近く、制作側も観客が北斎の創造世界に入り込むような劇場体験を掲げている。
「本当に近いので、演者の呼吸感、お客さんの呼吸感を共有し合いながら完成する舞台になるんだろうなと思います。本当に没入型の、体感・体験型舞台というか。早く舞台に立ちたいし、妥協せずにみんなとクリエーションしたい。ずっとワクワクしています」
視線は早くも日本の先にある。
「今まで経験してきた俳優という力を使いながら、積み上げてきたダンサーというものを融合させて、ダンサーにはできない、俳優にはできない、大貫勇輔にしかできない表現をここで手探りで見つけたい。脚本は素晴らしいので、きっと見たこともない景色が見えるんじゃないかなと思っています」
目標を聞くと、「海外ですね。本当に。フランス、ロンドン、韓国、中国」と答えは即座に返ってきた。北斎が生涯追い続けた「まだ見ぬ景色」。大貫もまた、その先を見ようとしている。
□大貫勇輔(おおぬき・ゆうすけ)1988年8月31日、神奈川県座間市出身。ホリプロ所属。身長180センチ。卓越した身体能力を武器に、マシュー・ボーン、インバル・ピントら世界的演出家の作品に出演。ドラマ『ルパンの娘』シリーズでは円城寺輝役を演じ、NHK大河ドラマ『どうする家康』では浅井長政役を務めた。ほかにドラマ『グランメゾン東京』、映画『KAPPEI カッペイ』などに出演。アニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』では主演声優、映画『キャッツ』ではスキンブルシャンクス役の日本語吹き替えを担当した。
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