北欧のゲーム少年が『笑点』好楽師匠に弟子入りのワケ 日本人と同じように…「それが一番ありがたかった」

江戸時代から続く日本の伝統話芸・落語。漫才やコントなど、現代に続くお笑い文化の基礎となった世界で、一心不乱に芸を磨く外国人がいる。長寿番組『笑点』(日本テレビ系)で20年以上も司会を務めた五代目圓楽の一門会に所属、同番組でおなじみの三遊亭好楽を師に仰ぐスウェーデン人落語家・三遊亭好青年に、異国の伝統芸に生涯を捧げたワケを聞いた。

スウェーデン人落語家「三遊亭好青年」ことニルソンビョルク・ヨハンさん【写真:ENCOUNT編集部】
スウェーデン人落語家「三遊亭好青年」ことニルソンビョルク・ヨハンさん【写真:ENCOUNT編集部】

『笑点』でおなじみの五代目圓楽一門会・三遊亭好楽に入門

 江戸時代から続く日本の伝統話芸・落語。漫才やコントなど、現代に続くお笑い文化の基礎となった世界で、一心不乱に芸を磨く外国人がいる。長寿番組『笑点』(日本テレビ系)で20年以上も司会を務めた五代目圓楽の一門会に所属、同番組でおなじみの三遊亭好楽を師に仰ぐスウェーデン人落語家・三遊亭好青年に、異国の伝統芸に生涯を捧げたワケを聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 スウェーデン出身の40歳、本名ニルソンビョルク・ヨハンさんが日本に興味を持ったのは、少年時代にさかのぼる。当時、日本の家庭用ゲーム機が世界中を席巻。ヨハンさんも子ども心に、日本のテレビゲームに夢中になった。

「スーパーファミコンで、『マリオ』や『ゼルダの伝説』、『ロックマン』をやりこんでいました。スウェーデンでは、言語は学べば学ぶほど人生に有利になる。ゲームをきっかけに日本に興味を持ち、高校生のとき、軽い気持ちで日本語の授業を選択したんです」

 日本語の複雑さや面白さに触れ、大学時代には交換留学で日本の大学で学んだ。1年間の留学中、落語研究会、いわゆる落研に入会したことが、その後の人生を大きく変える転機となる。

「どうせ入るなら、スウェーデンにはない日本らしいものを経験したいなと。落語の魅力は何と言っても、一人で何役もこなす表現力。外国人として、日本で俳優になることも考えましたが、子ども、女性、老人など、いろんな人を演じ分けることは役者ではできない。すごく滑稽でばかばかしい話なのに、人間はみんな不完全で仕方がないんだという、そういうメッセージ性にも共感しました。座布団1枚の上で、扇子と手ぬぐい、仕草だけでいろんな世界を表現する。ミニマルな表現の極地だと感じました」

 帰国後も落語への思いは消えず、学生ビザ取得のため日本の映画・俳優専門学校に入学。2016年、30歳で五代目圓楽一門会の三遊亭好楽に入門した。人気番組「笑点」でもおなじみの三遊亭一門を選んだ決め手は、芸そのものよりも好楽師匠の人柄にあったという。

「いろんな方の高座を見させてもらいましたが、とりわけうちの師匠に優しさ、温かさを感じて、この方の元で修行したいなと。師匠の口癖は『調子に乗っちゃあいけないよ』。自分が有名になることより、人を楽しませるのが第一という人で、その謙虚な姿勢にひかれました。落語家になるには芸はもちろん、師匠との関係もすごく大事。気が合わない人だと難しい」

外国出身の落語家は少なく、ヨーロッパ出身では初、江戸落語でも唯一の存在

 外国出身の落語家は、明治期にオーストラリア人の記録があるほか、現在は上方落語で数人が活躍するのみ。ヨーロッパ出身では初、江戸落語でも唯一の存在だ。それでも、前座時代は日本人と同様に下働きの日々が続いた。

「着物を畳んだり、お茶出しをする毎日。着物を畳むのもとにかく早く、みんな怒られながら覚えていきました。言葉の面はやっぱり大変でしたね。電話に出るときも、忙しい中で失礼のない言葉遣いをしなければいけない。スウェーデンにはないので、敬語の言い回しも難しかった」

 外国人ゆえの苦労もあったが、師匠からの特別扱いは一切なかったという。

「分け隔てなく、日本人の弟子と同じように扱ってもらった。それが一番ありがたかった。みんなと同じように修行を積んできたからこそ、『外国人だから』『外国人のくせに』と言われることはなかったですね」

「好青年」という印象的な雅号も、好楽師匠から与えられたものだ。

「もとは10番目の弟子で『じゅうべえ』という名前でした。二つ目に昇格したとき、師匠からお酒の席で『とびっきりいいのを考えたよ』と言われ、この名前をいただいたのですが、自分は好青年という言葉を知らなかった。『どういう意味ですか?』と聞いたらガックリしていて、師匠の望むリアクションではなかったみたい(笑)。覚えやすい名前でありがたいですが、私ももう40歳。いつまでも好青年を名乗っていていいものか、悩ましいところです」

 現在は二つ目として舞台に立ちつつ、日本語、英語、スウェーデン語の三か国語での落語にも挑戦する。

「落語には無限の可能性があると思っています。滑稽噺もあれば人情噺、怪談もあって、何百年も前からある話でありながら、今の時代にもマッチしている。何が本物か分からない時代だからこそ、人間の本質をリアルに描いた表現こそ、ますます評価されると思っています」

 時代や国境をもたやすく越える落語の魅力。異国の地で見つけた「本物」を追い求める挑戦は、これからも続いていく。

次のページへ (2/2) 【写真】二つ目昇格を記念した三遊亭好楽師匠とのツーショット
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