院卒からAV女優、就職氷河期に定職から格闘家へ…青木真也×藤かんなが語る「裸一貫」の矜持

2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回の「青木が斬る」番外編では、NHK大河ドラマ『べらぼ~蔦重栄華乃夢噺~』にも出演したAV女優・藤かんなとの異業種対談が実現。最終回となる第3回は、学歴やキャリアを捨てた「覚悟」と、その先に見据える「豊かさ」の正体だ。

異業種対談が実現した藤かんな(左)と青木真也【写真:増田美咲】
異業種対談が実現した藤かんな(左)と青木真也【写真:増田美咲】

青木真也×藤かんな異業種対談~最終回~

 2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回の「青木が斬る」番外編では、NHK大河ドラマ『べらぼ~蔦重栄華乃夢噺~』にも出演したAV女優・藤かんなとの異業種対談が実現。最終回となる第3回は、学歴やキャリアを捨てた「覚悟」と、その先に見据える「豊かさ」の正体だ。(取材・文=島田将斗)

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 青木と藤による異業種対談、最終回。今回語られるのは、大学院卒というエリート街道を降りた藤の決断と、就職氷河期に格闘技に活路を見出した青木の対照的な過去だ。

 かつてのコンプレックスを珍しく口にした青木に対し、藤は女性としてのライフイベントを前にした現実的な展望を明かしている。

 言い訳のきかない「裸一貫」で戦う2人が、それぞれの引き際と「本当の豊かさ」の定義をひも解いていく。

◇ ◇ ◇

――話は変わるのですが、おふたりは安定を捨てて人とは全く違う道を歩んでいると思うんです。それについても語っていただきたいなと。

藤かんな「うーん。でも、これが普通になっちゃった(笑)」

青木真也「もう普通になっちゃったから」

――ぜひ、思い出していただいて…!

青木真也「まあ、20年前ね、時代がちょっとまた違って。今と全然捉え方が違ったと思うよ。格闘技もそうだし、社会的にも就職氷河期だったし、だから今以上に定職に就けるってことのありがたみが違った時代。今以上に公務員が強かったんですよ。その時代に自分がやりたいことをやって生きるっていうのは度胸は要りましたよ」

――そうですよね。ではなぜ。

青木真也「でも、しょうがない。それしかできないんだから。普通のことができないからこれをやるしかないじゃないですか。ある種の諦めではありますよね。まあでも今はいい時代になったと思うよ」

――多様性、さまざまな生き方が受け入れられるという所でしょうか。

青木真也「色んな働き方も認められるじゃん。20年前はちょっと違った。

――それこそ青木さんは静岡出身ですからより“公務員”のカードは強い。

「そうなんすよね。就職氷河期における公務員って全然違った。要は民間のトップクラスよりも公務員が高い時代だったんすよ。解釈が違うんすよね。今とは全然違う、今は逆に公務員のなり手がいないでしょ。

――そういうCMも見なくなった気がしますしね。

青木真也「藤さんは、その意味で言うと、院卒だしね」

藤かんな「よく言われるんですよ。学歴とかキャリアとか全部捨ててすごいよね、よっぽどの覚悟だよね、って。私あまり学歴とかキャリアがすごいって思ったことがなくて。なぜならば、入っちゃうともっとすごい人がむちゃくちゃいて。私は就職もだいぶ苦労したし、会社でも別にすごい優秀な社員でもなかったので。自分の凄さみたいなものが全然分からなかったんです。

だからAV女優なることに対して、あまり抵抗なかったんですよね。そもそも副業で始めようかな、くらいの軽いノリで。ただ会社にバレてAV一本になるってなった時も、苦しいとかそういうのがなくて『なるようになったなあ』くらいでしかなかった。ただ一番気になるの、両親ですけどね。両親にはまだ言えてないし、両親はちゃんと就職して独り立ちしたことに安心してる感もあったので」

――いまも全く知らないんですか。

藤かんな「知らないです。もしかしたら知ってるかもしれんけど、何も言ってはこなくて。最近、父親から『会社辞めたんか』みたいな電話はきたんですけど、でもAVのことは言ってなくて。『好きなことやってるんやったらとやかく言わないけど』みたいな感じで、ふんわり収まってる状態です。だから、青木さんの時代でAV女優になるってなったらかなりハードルは高かったかもしれないです。多種多様になってた時代だったので、あまりそこにもったいないとかはなかったですね」

NHK大河ドラマにも出演した藤かんな【写真:増田美咲】
NHK大河ドラマにも出演した藤かんな【写真:増田美咲】

同級生への焦りと「一抜け」の優越感…リスクを取って得た自由と本当の豊かさ

――お二人とも同級生らと生き方を比べてしまうこともないですか。

青木真也「しない。いや……難しいですね。格闘技業界に来たばっかりの時は、経済的にも豊かじゃなかった。同級生のほうが社会人一年目である程度、みんな会社に勤めてたか余裕があったっすよね。そこに対する悔しさじゃないけど、焦りみたいなのはありましたね。でも、それもいろいろ生きていくうちに、だんだんなくなっていくというか。自分がやっていくことに焦りとかコンプレックスはなくなってきますよね。30ぐらいで全部なくなったかなあ」

藤かんな「私はどうだったかな。同級生と比べると『一抜けラッキー』、くらいの軽いノリだったんです。きっと、あのまま会社にずっと勤めてて、お金はあっても時間がない、みたいな。やりたいことできないまま60まで行って定年退職して結婚するかどうかも分からない出産するかも分からない。ぼんやり不安を抱えたまま過ごしていく。何かをずっと諦めながら生きていくっていうのは、きっと辛かっただろうな。AV女優になってリスクは取ったけどその分自由がもらえた。そこに対しての優越感じゃないけど、『みんな頑張って働いてね、私はもう覚悟決めたから』みたいな気持ちはありはしました」

青木真也「女性のほうが人生のゲームが難しいです。結婚・出産っていうフィールドにくわえて社会人もある。男性のほうがわりと分かりやすい。例えば『一人でいい』って言ってたのに急にパートナーが欲しくなるかもしれない。もし、そうなったときに自分が過去に思ってた選択を自分の足かせにしないほうがいいすよ

藤かんな「変わっていいんですね。変わることは成長なんだと。ちょっとそれを聞いて安心しました。出産を考えようと思ったら、年齢的にもう動き始めないとダメじゃないですか。でもAV女優っていうのもあるし、まだ売れてると思ってるし、まだまだAV女優としてしたいこともいっぱいあるし、このフィールドで見たい世界もまだたくさんあるんですよ。

でも、確かに、なんか女である限り一回出産とか経験してみたい。ああ。人生一回きりなので結婚とかも一回くらいやってみたいっていう気持ちもどこかにあって」

青木真也「誰もが悩む悩みを持っている。そこは考え方が時間がたった時に変わってもいいと思うんですよね。大事なことは自分が豊かになること。そこを一番にするのが俺はいいような気がしますね。

藤かんな「青木さんと話していて豊かさは何かと自分で考えた時に、やりたいことを選んでするっていうのは大事だなと。会社員をしていたらやりたくないこともいっぱいしないといけない。嫌いな人ともうまく付き合わないといけない。それをしないっていう選択をしてAV女優になったんだから。無理してやるを極力減らしていきたいなとは思ってはいます。まだそれを私はやりきれてなくて、どこかで『嫌だなあ』と思いながらやることもあるんですけど」

青木真也「何のためにAVやってるんですかね? 究極的には自分が幸せになるために始めているはずなんですよ。僕も格闘技がそう。豊かな生き方をしたい、そのための手段で始めてると思うんすよ」

対談する青木真也【写真:増田美咲】
対談する青木真也【写真:増田美咲】

体調不良でも穴を開けない信頼関係…格闘技とAVに共通する“プロの矜持”

――青木さんは「豊かになりたい」で始めた格闘技が「嫌いになった」という発言もこれまでにありました。藤さんも好きだったAVが嫌いになるかもしれない。お互い、今後についてどう考えていますか。

青木真也「僕は嫌い。別に好きじゃないです。でも、嫌いになるまでやり切ったと思って。だから、ある種、悔いはあんまりない。ただまだね、任された責任があるうちはやるけれど、基本的には嫌いになるまでやれる人のほうが少ないんで。それが大事。嫌いにならないと戻ってきちゃう。AV多くないですか? 戻ってくる人」

藤かんな「多いです、引退とかしても戻ってくる人もいます」

青木真也「それは嫌いになってないから。中途半端というか」

藤かんな「そう思うと私はまだ嫌いになりきるまでやり切ってない。幸いにも入ってるメーカーが熟女メーカーなので」

青木真也「すごい! 熟女って何歳からなんですか」

藤かんな「20歳過ぎるともう若妻って言って。50歳半ば、もっと上の世代もいるんですけど、見てる層は圧倒的におじさまでバッチリ合ってますね。上の方を見ると、私はまだ人間的にも女性的にも熟せてない気がします」

青木真也「藤さんて熟女なんですか」

藤かんな「私は熟女です。だからいつも寝取られてるんです(笑)。言ってませんでしたっけ?」

青木真也「へぇー!」

藤かんな「この前、撮影3日前に高熱が出たんです。熱が出たあとにヘルペスとか出るじゃないですか。撮影の時に出てしまったら最悪バラシですよね。なんとかそこを耐えて、撮影を乗り切って、今日ヘルペスが出てきました(笑)」

青木真也「面白いっす。俺たちと一緒だ。気力だ。穴をあけない。信頼っすよね。怪我で穴を開けるやつ、嫌いなんだよね。要は一人でやってるんじゃない。興行はチームでやってるんだから」

藤かんな「日頃のコンディショニングってすごく大事ですよね。全部覚悟を決めなきゃいけないし。『ちょっと痛いからやめて』とかも言いたくない。粘膜接触なので風邪を引くことも許されない。体調の乱れがないようにいかにフラットにするかを日々考えています」

青木真也「AVデビューした人が『お尻が汚い』って書かれていたのもあったよね。かわいそうだと思ったけど、そういう仕事なんだよね。『うるせえな。この野郎』とは言えない。でも言われて嫌だったらケアしろよって話になっちゃう。でも、あれはかわいそうだったな」

藤かんな「それが、AV女優。言い訳できない。裸一貫」

――最後に異業種対談をしてみて、お二人どうでしたか。

青木真也「こうやって、この話が世に出るっていうことが大事だと思うんですよね。案外、価値がある話だなって思ったかな。僕だから引っ張れた話もあるし、逆に藤さんに引っ張ってもらった部分もある。よかったなと思いますね」

藤かんな「本当青木さんに言ってもらった通りです。青木さんに会ったことでまた一つ。新しい世界をすごく見せてもらえたので。それが文字となって出してもらえるっていうのはとてもうれしい。何か広がっていきそうだなっています」

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