うつで仕事を辞め放浪の旅へ 約2年かけ列島縦断したバイク女子の旅立ちのワケ

相棒のバイク「HONDAシャドウ400」にまたがって山々を渡り、登山する一人旅で、約2年をかけ列島縦断を達成したバイク女子がいる。「コニタン」という愛称で活動するライター・デザイナーの小西珠美さんは、山やバイクとの出会いが人生を大きく変えたという経歴の持ち主だ。なにが彼女を放浪の旅へ駆り立てたのか。現在は地元の福岡から長野に移住、「ようやく腰を落ちつけました」と語る小西さんに、旅の始まりと終着の理由を聞いた。

約2年をかけバイクによる一人旅で日本列島を縦断した小西珠美さん
約2年をかけバイクによる一人旅で日本列島を縦断した小西珠美さん

実家を出た25歳のときに中型免許を取得、毎週末のようにツーリングキャンプへ

 相棒のバイク「HONDAシャドウ400」にまたがって山々を渡り、登山する一人旅で、約2年をかけ列島縦断を達成したバイク女子がいる。「コニタン」という愛称で活動するライター・デザイナーの小西珠美さんは、山やバイクとの出会いが人生を大きく変えたという経歴の持ち主だ。なにが彼女を放浪の旅へ駆り立てたのか。現在は地元の福岡から長野に移住、「ようやく腰を落ちつけました」と語る小西さんに、旅の始まりと終着の理由を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 転勤族の家庭で、生まれ故郷の鹿児島から、熊本、大分、福岡など、九州各地を転々としながら育った小西さん。子どもの頃から外遊びが好きだったこともあり、福岡の実家を出た25歳のときに中型免許を取得。それから数年間は年に50泊以上、毎週末のようにツーリングキャンプに興じた。

「バイク女子というと、父親か、それとも彼氏の影響かと必ず聞かれるんですが、私は周りで乗ってた人がいるわけでもなく、本当に自分から好きで始めた感じですね。我が家は両親がとても心配性で、ずっとやりたいことを我慢してきた。親元を離れて、最初にやろうと思ったのがバイクでした」

 やりたいことを我慢してきたと語るのには、ある理由がある。

「宗教2世でした。親がある新興宗教に入信していて、私も生まれたときから入信していました。いわゆるカルトのようなひどいところではなかったですが、大なり小なり決断をするときはいつも選択を委ねていて、例えば髪を切る時期だったり、私が行く高校、大学や新卒の就職先も全部宗教法人に聞いて決めていた。学生時代、友人とお祭りや海外旅行に行きたいと思っても法人にお伺いを立てないといけない。本当は行きたいし行けるのに、理由をつけて断らないといけなかったり、心と行動が伴わない違和感がだんだんと大きくなり、耐えきれなくなって反発するようになりました」

 結局、新卒で入った保険会社を1年で辞め、人生を白紙にしてやりたいことをやろうと模索。ウェブデザインの道を目指したが、一度社会に出てから自分自身を取り戻すのは並大抵のことではなかったという。

「それまで進路を自己決定したことがなかったので、初めて何かを決めるというのはビルの上から飛び降りるくらいの覚悟がいった。ひどく周りに反発してまで自分で決めた道で失敗したら『ほら言わんこっちゃない』と後ろ指を刺されると思った。それが嫌で、退くもんかとガムシャラに働いていたら今度はうつになってしまって……。少し元気を取り戻しつつあった3年前の夏、『そういえばバイクで北海道を走りたかったな』と思い出して、家を飛び出しちゃったんです」

現在も登山に没頭する日々を過ごす小西珠美さん
現在も登山に没頭する日々を過ごす小西珠美さん

北海道一周、本州縦断、沖縄と全国各地を放浪

 約2週間かけて、バイクで北海道を一周。一度福岡に戻ると仕事を辞め、「満足行くまでやりきってみたい」と今度は期間を決めずに日本列島を北上した。山並みを見るうち、子どもの頃に阿蘇山に登ったときの感動を思い出し、旅の途中で登山装備を購入。秋の高尾山から冬の八甲田山まで、約3か月をかけて関東から東北の山をめぐり、本州最北端の青森までたどり着く。

「うつで真っ白だった脳が、好きなもので色づいていくような感覚でした。日本縦断をするつもりはなかったんですが、気がついたら青森まで来ていた。季節はすっかり夏から冬に変わってて、今度はツーリング中の寒さから逃れるように南下して、年末に福岡に帰ってきました」

 年末年始を福岡で過ごすと、「春まで暖かいところで過ごして旅を続ける」という、各地で出会ったバイク旅仲間を追って年明け早々に沖縄へ。そこでコロナ禍が到来し、半年間の滞在を余儀なくされる。海に囲まれた島の中で登山をするも、余計に山に飢え、7月にようやく沖縄を出ると真っ先に長野へ。そのまま冬まで登山に明け暮れた。季節はめぐって2度目の冬、八ヶ岳の麓である出会いが訪れる。

「その日泊る予定のキャンプ場に間に合わなくて、手書きで“キャンプ”と書かれたお宅を尋ねると、おじいさんが出てきて『泊めてあげるよ』と。世間話をして、まだまだ長野にいたいですと話したら『2階の部屋が空いてるから使いなよ』。仕事は? と聞かれて、山とお酒が好きですと答えたら『知り合いの酒蔵を紹介してあげるよ』と。酒造りは冬場の仕事なんです。バイクに乗れない冬の間、そのお宅に居候しながら、265年続く伝統の酒蔵で、お酒造りを手伝わせてもらうことになりました」

 夏場は伊豆に移り住んだりしつつも、長野で2年間冬場の居候として過ごし、この春本格的に長野に移住。今は世話になった酒蔵のポスターやラベルをデザインしたり、山に関わる仕事を模索したりと充実の日々を送っている。

「今はもうやり尽くしたというか、ようやく次のステージに入ったところ。ホームシックになったわけではないけれど、自分で自分に『ただいま』といえる場所が欲しくなった。好きな場所で、好きな人たちに囲まれて、人生における『好きの密度』を上げていきたい。こうなるためにやりたいことをやり尽くしてきたので、これで良かったと思います。また旅に出ること? うーん、当分はないと思います(笑)」

 福岡を出てからもうすぐ3年。流浪のバイクガールは旅の終わりの新天地で自分の人生を歩き始めている。

□小西珠美(こにし・たまみ) 1991年8月4日、鹿児島県出身。転勤族の家に生まれ、学生時代は熊本、大分、阿蘇、別府と九州各地を転々として過ごす。大学進学とともに18歳からは福岡で過ごす。25歳のとき中型二輪免許を取得。19年夏よりツーリングキャンプの旅を始め、約2年で日本列島を縦断。2022年からは長野県に移住。愛車はホンダのシャドウ400クラシックとXR250、三菱タウンボックス。

次のページへ (2/3) 【写真】列島縦断の旅で使った愛車のホンダ・シャドウ400クラシック
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