役者志望で上京、異色経歴のeスポーツ選手の思い「『しょせんゲームだろ』と思われたくない」

日本でも徐々に認知度を高めるeスポーツシーンでは、活躍する選手たちのバックグラウンドもさまざまで、決して学生時代から“ゲーム一筋”の選手だけではない。横浜F・マリノスeスポーツ(以下、F・マリノス)のデジタルカードゲーム「シャドウバース」部門に移籍したバーサ(22)は、役者志望で上京した経緯を持つ。昨シーズンは福岡ソフトバンクホークスゲーミング(以下、SHG)のリーグ優勝にも貢献した実力者に、そのユニークな経歴やプロ選手としての意欲を語ってもらった。今回は前編。

インタビューに応じた横浜F・マリノスeスポーツのバーサ【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた横浜F・マリノスeスポーツのバーサ【写真:ENCOUNT編集部】

横浜F・マリノスeスポーツ加入のバーサ 中学校で狂言を経験し、役者を志して18歳で上京

 日本でも徐々に認知度を高めるeスポーツシーンでは、活躍する選手たちのバックグラウンドもさまざまで、決して学生時代から“ゲーム一筋”の選手だけではない。横浜F・マリノスeスポーツ(以下、F・マリノス)のデジタルカードゲーム「シャドウバース」部門に移籍したバーサ(22)は、役者志望で上京した経緯を持つ。昨シーズンは福岡ソフトバンクホークスゲーミング(以下、SHG)のリーグ優勝にも貢献した実力者に、そのユニークな経歴やプロ選手としての意欲を語ってもらった。今回は前編。(取材・文=片村光博)

 2020-21シーズンのプロリーグ「RAGE Shadowverse Pro League」では、参入2年目のSHGが初優勝を果たした。その中で「2Pick」のフォーマット担当として先鋒(せんぽう)を務め続けたのがバーサだ。シーズン終了後には契約満了に伴い退団となったものの、F・マリノスへの加入が決定。30日に新シーズン開幕を控える中、激動のオフシーズンを次のように振り返っている。

「まず、まだプロとして戦えるということに『うれしい』という思いがありました。SHGを離れることは以前から分かっていたので、覚悟して別の道も模索していたんですが、『まだプロ選手としてやっていきたい』という気持ち、そして『SHGを倒したい』という気持ちもすごく強かったです」

 19-20シーズンにSHGの初期メンバーとしてプロ入りし、2シーズンを戦い抜いた結果、日本スポーツ界を代表する名門を渡り歩く形となったバーサ。ただ、その経歴は他の選手と一線を画す。高校卒業時にはeスポーツとは違った夢を抱き、地元・山口から上京していた。

「中学校が伝統芸能を地域に根付かせることに取り組んでいて、『鷺流狂言』というものを行事として開催していました。そこで僕が『やりたい』と手を上げて、2年間くらい毎週稽古を付けてもらい、2公演だけですがやらせていただいたんです。大勢の人の前で披露するということがすごく楽しくて、役者の世界に憧れるきっかけになりました。

 高校は演劇部があるところを選び、福岡にある養成所に毎週通っていました。ただ、自分は声に自信を持っていて、周りからも『声優のほうがいい』と言われていたので、方向性をシフトチェンジしたんです。高校を卒業してすぐ、18歳の頃に上京して声優の養成所に1年間通いました。役者として芽があるかどうかが1年で白黒付くところでしたが、僕はオーディションで落ちてしまい……。本当は1年であきらめようと思っていたんですが、なかなかあきらめ切れずに劇団に入ったりもしていました」

 夢破れ、煮え切らない日々を送る中で、シャドウバースには趣味として取り組んでいた。首都圏での大型大会への参加を通して“競技”としての側面を意識し始めると、プロリーグ創設というニュースが舞い込む。

「僕自身、役者としての道がうまくいかず、1年間の空白ができてしまって、『これから何をすればいいんだろう』となってしまったタイミングでした。当時のプロリーグは4チームだけで、僕にも一切の実績がありませんでした。説明会には行ったんですが、ただ憧れるだけで、何もできなかったので、『実績を作ろう』と。1年間、下積みをしていました」

 アルバイトと並行してさまざまな大会に出場して勝ち進み、ゲーム内のランキングでも上位に入ることで、プロ選手にも負けない実績を作ることに励んだ。プロリーグ創設時には自身を「プロになるラインにいない」「実績がないままプロになっても、『この人、弱い』で終わってしまう」と客観的に捉え、焦って選考に応募するのでも、夢をあきらめるのでもなく、目標から逆算した努力を続行。その結果がSHG加入、昨シーズンのリーグ優勝にもつながっていった。

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